鹿児島認知症ブログ

鹿児島でコウノメソッドや糖質制限を実践している脳神経外科医のブログ

【症例報告】記憶力低下を主訴に受診した発達障害の女性。鉄補充にて改善。

40代女性のOMさんは、物忘れを主訴に外来を受診した方である。

 

話を伺う限り、恐らく親が発達障害で結婚相手も発達障害、OMさんの子も発達障害と思われた。この見立てについては、OMさん自身も「やっぱり・・・」と深く同意していた。

 

親や結婚相手、そして子の発達特性を自分で説明出来る方であれば、「自分も発達障害では?」と疑うのは当然だろう。

 

そしてやはりというか、OMさんは発達障害であった。

 

ちなみに、発達障害と診断する際には「自閉優勢」・「注意欠陥優勢」といった強弱を自分の中でつけるようにしているのだが、OMさんは自分の見立てでは「自閉>注意欠陥」であった。

 

グラデーション豊かな発達の世界のどの辺に患者さんがいるかを推測することで、支援(敢えて治療とは呼ばない)の仕方に自ずと違いが出てくるように思う。

 

OMさんには幸い、うつ病や不安障害といった、発達障害がベースに存在した場合に起きやすい「二次障害」はなかった。もし二次障害があれば、その治療(これは明確に治療だと思う)が最優先である。

 

そして、採血で重度の鉄不足が判明したので鉄剤内服を開始したところ、2週間で好変化が得られた。

 

ドパミンやノルアドレナリンといった神経伝達物質の不足云々の前に、脳が酸欠(≒鉄不足)になっているのであれば、まずはそちらの是正が先である。*1

 

40代女性 発達障害

 

初診時

 

(現病歴)

 

3年前から記憶力の衰えを感じているという医療職の方。

 

  • 日付が覚えられない
  • 数字の意味が分からないことがある
  • 金銭計算は大丈夫
  • 急な指示を受けると忘れる
  • 周囲から面と向かってもの忘れを指摘されたことはない

 

既に亡くなった母親が恐らく発達障害で、片付けが出来ず言動も普通ではない人だったようだ。そして父親は、認知症で施設入居中だとのこと。

 

自身は子どもの頃から忘れ物が多かったが、親は何の注意もしなかった。自分で気をつけるようにして、小学校高学年の頃には克服した。ただ、一つのことしか出来ずマルチタスクは苦手で、自覚があったのでメモの工夫で乗り切ってきた。

 

資格を取得後に医療職として働き、そのうち結婚し三児を授かるも、夫の強烈なモラハラに耐えかねて離婚。三児のうち一人は診断の下りた発達障害だと。 

 

(診察所見)

HDS-R:30

遅延再生:6

立方体模写:可

時計描画テスト:可

IADL:8

改訂クリクトン尺度:-

Zarit:-

GDS:3

保続:なし

取り繕い:なし

病識:あり

迷子:なし

DLB中核症状:0/4

rigid:なし

幻視:なし

FTD中核症状:0/6

語義失語:なし

頭部CT所見:特記所見なし

介護保険:-

胃切除:なし

歩行障害:なし

排尿障害:なし

易怒性:なし

過度の傾眠:なし

 

(診断)

ATD:

DLB:

FTLD:

その他:

 

(考察)

食事の偏りはないとのことだが、有経年齢ではあるので一応採血をして栄養障害や鉄不足をチェックする。

 

診察中に目だった多動はないが、やや挙動は不審で目が合いにくいのは気になる。 趣味は園芸だと。人付き合いは苦手なのかな。

 

ASRSはA part3/6。ADスコアは3、HAスコアは2.5、ASDスコアは4と、ASD>ADの発達障害なのかな。自分でも発達に問題があると自覚している。

 

コンサータとストラテラについて情報提供。 夫は恐らく、より程度の強いASDだったのだろう。

 

採血結果説明

 

  • 赤血球数: 535×10^4/μl
  • 血色素量(HB):13.5g/dl
  • MCV: 79.1fl
  • AST(GOT):12IU/l
  • ALT(GPT):7IU/l
  • A L P:158IU/l
  • 尿素窒素:11.9mg/dl
  • 血清鉄(Fe): 25μg/dl
  • LDL-CHO:121mg/dl
  • フェリチン定量: 4.8ng/ml

 

Hbこそ13.5と規準を上回るが、MCVは79.1と高度低下しており今後Hbが低下してくるのは時間の問題。

 

フェリチンは4.8と極低値。AST/ALT乖離は5だがALTの低さからはタンパク摂取の少なさはあるかも。尿素窒素も11.9と低目。ALPも低く、マグネシウムや亜鉛不足の可能性はあるかも。

 

フェルム100mg/dayで鉄補充開始。併せてタンパク摂取励行。タンパク摂取量1g/kg/dayの知識はお持ちだった。

 

フェルムはまず2週間お試しで。胃もたれ便秘で飲めなければサプリで。

 

2週間後 

 

フェルムを飲み始めてすぐに、身体の軽さと頭のすっきり感を感じるようになった。 胃もたれ便秘はなし。

 

「脳に酸素が行き渡る感じがします」

 

と笑いながら仰った。初診時のやや挙動不審な印象とは違いが出始めている。

 

2ヶ月処方。次々回で採血にてフェリチンその他をチェックする。

 

ストラテラやコンサータは不要でいけそう。

 

良かったですね。

 

(引用終了)

 

発達障害スコア

発達障害チェックスコアでは高得点

 

www.ninchi-shou.com

 

www.ninchi-shou.com

 

*1:ちなみに、神経伝達物質であるドパミンなどのモノアミン合成には鉄が必要である。鉄不足は脳の酸欠だけではなく、神経伝達物質不足にも繋がりうる。