鹿児島認知症ブログ

鹿児島でコウノメソッドや糖質制限を実践している脳神経外科医のブログ

人工知能(AI)が病気を診断し、治療のアドバイスを行う時代に医者が出来ること。

 凄い時代になってきましたね。

 

buzzap.jp

AIが病気を診断し、治療策を提案する

 

  東京大学医科学研究所が導入した2000万件もの医学論文を学習した人工知能が、専門の医師でも診断が難しい特殊な白血病を僅か10分ほどで見抜き、治療法を変えるよう提案した結果、60代の女性患者の命が救われたことが分かりました。(上記より引用)

 

これまでは、「雑多な情報の中から重要なものを抽出して判断することに関しては、人間の独壇場」であったかもしれないが、このニュースを見る限りではAIがそのレベルに到達したように思われる。

 

AIが診療をしているところを想像してみた

 

当面は、今回のような治療に難渋するレアケースで活躍するのだろうが、その威力は早晩風邪のようなcommon diseaseにも拡がっていくだろう。

 

今後50年以内には 

 

  • 人間は出生と同時にまず遺伝子解析が行われる。
  • 解析によって、特定の病気を発現する可能性のある遺伝子を保有しているのか分かる。今後の人生で、どのような病気に気をつけるべきか、そして病気を発現させない*1ためのアドバイスがAIを通じて行われる。
  • 体調不良を感じて病院を受診した際には、症状と初診時の検査結果(採血など)、そしてその人の遺伝子データを元に、AIが「診断」を下す。その診断の結果、必要な治療方法もAIが提案する。

 

このような世界になっていたりして。

 

そして、その時の外来診療は以下のようになっていたりして。

 

医者「問診票によると、昨日から喉の痛みと38度の熱が出ているのですね。」

患者「そうです。」

医者「では、そのデータを入力しますので少しお待ち下さい。」

患者「あと、昨日よりも少し息がしにくい気がします。」

医者「では喉の奥を少し見せて下さい・・・少し腫れている箇所がありますね・・・これも入力しておきます。」

AI「○○さんの病気は、90%の確率で急性上気道炎です。しかし、今後喉頭蓋炎を起こす危険性が40%あります。喉頭蓋炎は生命に関わる可能性が75%ありますので、入院して抗生物質の点滴を受けることで治癒までの期間が50%短縮されます。」

医者「・・・ということです。空きベッドの状況を確認しますので、しばらくお待ち下さい。」

 

 個人的にはこのような未来も悪くはないと思っている。精度高く病気を改善してくれるのであれば、それをもたらすのが医者であろうがAIであろうが、正直どちらでもよいように思う。

 

AI「このタイプの患者さんであれば、97%で小青竜湯が効きます。」

 

なんてアドバイスを貰えたら、自分なら思わず「ありがとう!!」と叫んでしまうかもしれない。

 

ただ、「我々医者の居場所はどうなるのだろうか?」と思わないでもない。

 

こんなAIドクターなら受診したい?

 

患者さんを診察して診断し治療を行い、治癒が得られたら終了。診療とは大体そのような流れである。ただ、生活習慣病などの慢性疾患の治療であれば、年単位で診療が続くのはザラであり、場合によっては一生続く。

 

一生付き合い続けるためには、そのAIの外見は重要かもしれない 

 

Pepperがお医者さんに

(©Pepper君)

 

受付にいたら思わず話しかけるかもしれないが、診察室で「いやぁ、最近物忘れが酷くて・・・」などとPepper君に話しかけるのは気が進まないが、

 

ラブドールの医者

 (©オリエント工業)

 

こうなると、「先生実はですね、最近妻との関係がなかなか上手くいかなくて・・・」などと、問われもしないことまでベラベラ喋り出すかもしれない。

 

ただ、外見を人間に似せすぎると、逆にロボットに対する嫌悪感が増してしまう現象があるらしい。

 

不気味の谷現象 - Wikipedia

 

一生付き合い続けていくには、様々な配慮が必要ということか。

 

AI時代に医者が生き残っていくために出来ること

 

産業革命以降の歴史は、人間が機械に仕事を奪われてきた歴史かもしれない。

 

ラッダイト運動 - Wikipedia

 

新たに生まれた職業も多いが、単純作業であればあるほど、いずれは機械に置き換えられていく運命にあるのだとすれば、「総合力が求められる仕事は機械には置き換えにくいはず」と考えたくなる。しかし、今回のニュースでAIがやってみせたのは、単純作業とは呼べない複数かつ複雑な判断を要する仕事である。

 

「総合力」に胡坐をかいているわけにはいかないようだ。

 

医者の仕事の一つである「診断」は、近い将来AIが担当する仕事になっていく気がする。そうなると、残された医者の仕事はAIの診断後を請負うこと、「AIの下請け」的扱いになっていくのだろう。

 

「自分は大丈夫だろうか?」と当然考える。

 

認知症の診断と治療。ただし、年齢に応じて加わってくる様々な病的要素や質的変化、そして個々の生活環境などを総合的に判断して、その患者さんに適用可能な最小限の薬剤量で改善を目指す。そして次は、長期的に「まずまず」の状態を維持していくことを目指す。

 

これが今の自分の主な仕事であるが、まだまだAIでは難しいのではないかと思う。そう思いませんか?思いますよね・・・?

 

ひとまず、AI時代に備えて自分がしておくべきことは

 

  • 専門馬鹿にならないように気をつける。
  • 「何かあったらこの先生に相談しよう」と思って貰えるような雰囲気と、総合力を身につけるべく研鑽を重ねる。
  • 清潔感では機械に勝てないだろうが、せめて加齢臭には気をつける。
  • いざという時のために、トンカチを購入しておく。*2

 

このようなところである。

 

 

人工知能と経済の未来 2030年雇用大崩壊 (文春新書)

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  • 作者:井上智洋
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*1:いわゆるエピジェネティクスの考えに基づいて

*2:個人的ラッダイト運動の準備。