鹿児島認知症ブログ

鹿児島でコウノメソッドや糖質制限を実践している脳神経外科医のブログ

【症例報告】注意欠陥障害の成人女性。

 HRさんは20代前半の女性である。

 

職場で何度言われてもミスが減らず、同僚(上司?)から「あなたの記憶力には相当問題がある。病気かもしれないから頭を調べて貰いなさい」と言われて来院された。

 

以下の経過を追うと、発達障害の中でも注意欠陥障害というものの実態が何となく見えてくると思う。程度の差こそあれ、HRさんのような生きづらさを感じている人は多いだろう。

20代前半の女性 注意欠陥障害疑い

 

初診時

 

高卒で就職。対人関係に難あり、職場を転々としているらしい。

 

いまの職場には1年半ほど勤めている。仕事の覚えが悪く、あちこちの部署に異動させられるが中々馴染めない。

 

自分でインターネット検索し来院。

 

  • 大人しいがしっかりと話は出来る
  • 注意転導性亢進はなし
  • 子供の頃から忘れ物などが非常に多かった
  • 実家は近くだが独居
  • HDSR29/30
  • ASRS A part 5/6 B part 8/12

 

少なくと診察室内で多動は目立たない。注意欠陥メインなのかな。頭部CTは特記所見なし。本人に投薬希望はない。職場への診断書は希望せず。

 

不眠に食生活の不規則さなどあり、栄養状態チェックを兼ねて採血はする。
次回はお母さん同伴で結果説明を。

 

3日後

 

(前回採血結果)

 

  • MCV:88.5fl
  • AST(GOT):19IU/l
  • ALT(GPT):10IU/l
  • γ-GTP:11IU/l
  • 総 蛋 白:7.4g/dl
  • 尿素窒素:16.0mg/dl
  • クレアチニン:0.63mg/dl
  • カリウム (K): 3.4mEq/l
  • フェリチン定量:8.0ng/ml

 

フェリチンは一桁で貧血を伴わない鉄不足。その他、AST/ALT乖離があり、ビタミンB群摂取は十分とは言えない食生活が窺われる。

 

今日はお母さんが同伴。

 

  • 子供の頃から忘れ物が多く、部屋が片付けられない子だった
  • 高校は普通科を卒業
  • 他県の専門学校に進むも半年でうつになり帰郷し、その後は仕事を転々

 

高卒後に、地元ではなく他県の専門学校に進ませたのは、母親曰く「独立心を養わせるため」だったのだと。

 

うつを患い帰郷してからしばらくは親元で生活していたが、やはり独立が大事と考える母親の勧めで、最近独り暮らしを再開した。

 

しかし生活や食事はすぐに不規則になり、清涼飲料水、特にポカリスエットが大好き。甘いお菓子やポテトチップなども好んで食べる。おやつだけで一日が終わることもある。

 

おっとりしていて、やはり多動は目立たない。ストラテラやコンサータよりもまずは、低フェリチンに対する鉄補充から始める。同時に糖質制限及びタンパク質摂取を勧めた。

 

ネックになるのは独り暮らしという現状。

 

1ヶ月後

 

鉄剤開始で、頭の中で情報が整理されて上手く繋がるような感じがあると。


先日、部署の配置転換があった。商品チェックと在庫管理が今の主な仕事だが、周囲からミスを指摘されることもなく、今までの中では最も上手くやれている感じがするとのこと。

 

鉄剤内服で便秘がちらしい。水分と食物線維の摂取を増やしましょう。糖質は少なめ、タンパク質は多めに。


甘いものは大好きなようなので、これも頑張って控えて。マグラックスで便秘対策とMg補充を。

 

1ヶ月後

 

前回処方はまるまる残っていると・・・。


週に1~2回しか飲めていない。食事は不規則。肌荒れが目立つ。今回は処方はせず。


家族の援助は期待できないか…

 

前回受診から1年後

 

1年ぶりの受診。病院から足が遠のいたことに、特に理由はないとのこと。

 

現在仕事はしておらず実家暮らし。「このままではいけない」という想いがあり今回相談に。


これまでの仕事で最も貢献できたと考えているのは、シャツのプレスなどの型どおりの仕事。細かい仕分けなど頭を使う仕事は苦手。

 

ストラテラから入るよりは、鉄の底上げを図ってみるほうがやはりお勧め。ストラテラの値段を告げると躊躇していた。

 

目の前で済ませられる作業なら出来そう。しかし、頭の中で考えながら仕事をするのは難しいと。

 

4ヶ月後

 

発達障害の就労支援に提出する診断書と診察希望。体調は悪くはない。

 

現在は母親と年の離れた妹と住んでいるが、HRさんの生活リズムの悪さの母親がかなり参っているようだ。本人は「高校の頃にうつになってリズムが狂ってしまった」と清々しい表情で言う。深刻感はまるでない。

 

まずは睡眠リズムの確立から。ストラテラの情報提供は行った。
フェリチンは初診時8から今回34までアップしていたが、今後継続的な鉄内服は母親の態度を見ている限りは難しそう。せめてサプリで細々とでもいいので継続を。フェロケルを勧めた。半年飲みきって採血をしましょう。現在、マルチビタミンは飲んでいると。

 

ADHDで診断書作成。


ちなみに、年の離れた妹も恐らく多動。そして、同じところで話がループし続ける母親も・・・

 

1ヶ月後

 

4ヶ月前と比較して体重は4キロ減。

 

現在、就労支援事業所でPCスキルを勉強中。自立支援申請の診断書の依頼があった。
母親はストラテラ服用に難色を示すが、本人はやや乗り気。フェロケルは飲めていると。

 

4ヶ月後

 

今月から1人暮らしになった。母親と妹は、単身赴任中の父親と生活することになった。


現在職業訓練中だが、考えをまとめるのが苦手で人の話が頭に残らないのが悩みだと。

 

ご希望あり、ストラテラ開始。25mgから。フェロケルは内服中。高タンパク食も頑張って。外食中心で肉野菜は意識していると。夜は不規則。家族支援がないのが痛い。

 

2週間後

 

予約時間に来院がなかった為連絡。「忘れていました~」と。残薬がある為、後日予約入れなおしますとの事。(受付〇〇記載)

 

1ヶ月後

 

精神障害者保健福祉手帳用の診断書を作成。

 

ストラテラは連続して飲めてはいない。好感触はあるようで副作用はなし。残が8回分あるとのことで、今回は10回分処方。

 

平日は事業所に通っているので、事業所に相談してストラテラを預かって貰うのはありかも。

 

朝は弱く、事業所へも遅刻が多いと。母親からの連絡はない。「今は事業所が居場所になって嬉しい」と。

 

予約日2日前から来院コールをすることに。

 

2週間後

 

「今朝、着信があったので・・」と連絡あり。「本日予約だったので一昨日から電話していました」とお伝えすると、「忘れていました・・」と。

 

残薬が6日分ほどあるとの事で、改めて予約日を再設定。受診のお知らせの電話と、事業所へ予約日を伝え声掛けをしてもらう事は了解を得た。(受付〇〇記載)

 

1週間後

 

ストラテラは口渇ありと。ただし許容範囲内。

 

集中力が出るという状況になったことがないので経験してみたいというご希望あり、ストラテラを40mgに増量。当面2週間おきで。今後は転居してグループホームを利用予定。

 

本人及び事業所の了解を得て、今後は事業所でストラテラを預かり与薬して貰うことになった。

 

事業所の報告書から引用

 

  • 前月比較では遅刻は減った
  • 複数の人間が自由に発言する場では混乱する
  • 軽作業、PCタイピング時に集中力が続かない
  • 食事は全てコンビニ、朝は寝坊するため食事抜きになる、昼は事業所の弁当
  • 事業所での質問はほとんどが、「人とどう接すればよいか?」という内容
  • 障害特性の理解が不足しており、単純に自分の能力不足と捉えている節がある

 

(引用終了)

 

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