鹿児島認知症ブログ

鹿児島でコウノメソッドや糖質制限を実践している脳神経外科医のブログ

納得いかないディオバン事件の結末。

ディオバン事件とは何か。

 

  ディオバン事件(ディオバンじけん)とは、高血圧の治療薬であるディオバン(一般名:バルサルタン)の医師主導臨床研究にノバルティス日本法人のノバルティスファーマ社の社員が統計解析者として関与した利益相反問題(COI: Confilict of Interest)、および、臨床研究の結果を発表した論文のデータに問題があったとして一連の論文が撤回された事件を指す。(Wikipediaより引用)

 

先日、東京地裁で判決が言い渡された。その結果は、なんと「無罪」。

 

以下、日経新聞より引用。

 

  スイス製薬大手の日本法人ノバルティスファーマ(東京)の高血圧症治療薬の臨床データを改ざんし、学術論文に投稿させたとして薬事法違反(誇大広告)罪に問われた元社員、白橋伸雄被告(66)と法人としての同社の判決公判が16日、東京地裁であった。辻川靖夫裁判長は「(研究者による)論文への投稿は薬事法が定める誇大な広告には当たらない」として無罪を言い渡した。

 判決理由で辻川裁判長は「症例の水増しなど意図的な改ざんがあった」と判断。同社から研究者側に多額の寄付金が提供されたことや、白橋被告がさまざまな改ざんを重ねて薬の有用性を示す論文発表に大きく関与したことも認めた

 そのうえで「(被告にとって)論文を作成して学術雑誌に掲載してもらった行為に、医薬品の購入意欲を喚起させる性質があるとは言い難い」とし、薬事法違反罪には当たらないと結論づけた。(日経新聞より引用。赤文字強調は筆者によるもの。)

 

「症例の水増しなど意図的な改ざんがあり」、「論文発表に大きく関与した」としても、「医薬品の購入意欲を喚起させる性質があるとは言い難い」という結論。

 

これはおかしい。

 

データを改ざんしても、結果的にディオバンを医師が使う動機には結びつかないという裁判所の判断だが、ディオバン(バルサルタン)は、脳卒中ガイドライン2009に「イベント発生リスクを低下させる」という触れ込みで載った経緯がある。

 

以下、2014年2月18日付けの日本脳卒中学会からの通達から引用。こちらのリンクから確認出来る。なお、赤文字強調が筆者によるもの。

 

現在、バルサルタン(商品名:ディオバン)を用いた国内でのいくつかの臨床研究について、大学によるデータの再調査が行われております。このうち、東京慈恵会医科大学で実施された Jikei Heart Study を『脳卒中治療ガイドライン2009』において引用いたしております。東京慈恵会医科大学のホームページに論文の撤回を申し出る記載があり、論文が掲載された「Lancet」からも削除されましたので、『脳卒中治療ガイドライン2009』につきまして、以下のように訂正いたします。


1. p. 22、12行目、「ARBの上乗せ効果に関して、本邦で行われたJapanese Investigation of Kinetic Evaluation In Hypertensive Events And Remodeling Treatment(JIKEI HEART)Study23)では、高血圧、冠動脈疾患、心不全を有する患者を対象とし、従来の降圧治療ARB(バルサルタン)を追加する群とARB以外の降圧薬を追加する群での心血管イベント発生リスクを比較したが、脳卒中の発症はARB追加群で40%と有意に抑制された(Ⅰb)。」を削除する。


2. p. 24、文献23)を削除する。


なお、上記のように変更しても、p. 21の「推奨」に変更はありません。


2014年2月18日
一般社団法人 日本脳卒中学会 脳卒中ガイドライン委員会
委員長 小川 彰
株式会社 協和企画

 

「ガイドラインに載る薬剤」となれば、その薬を使うインセンティブが医者には働く。それは医薬品の購入意欲と呼べるだろうし、結果的にディオバンの売り上げをアップさせると思うのだが。

 

実際に、当時のノバルティスファーマのMRは、「ガイドライン推奨」とディオバンをPRしていた。

 

検察が控訴するかは分からないが、組織の不正を刑事責任で追及することは難しいということなのだろうか。

 

いやー、納得がいかない。