10年の経過で少しずつ物忘れが進行してきた、という方をご紹介。
89歳女性 神経原線維変化型老年期認知症(SD-NFT)疑い
(記録より引用開始)
初診時
(既往歴)
脳梗塞後遺症
(現病歴)
夫と二人暮し。10年前から、物盗られ妄想。アリセプトが始まり、特に変化はなかった。少しずつ進行しているようだと。
易怒性が高く、激高すると刃物を持ち出すこともしばしば。
最近メマリーが始まり、規定通りに20mgまで増量。特に変化はないと。ケアマネさんの紹介で受診。
(診察所見)
HDS-R:14.5
遅延再生:2
立方体模写:不可
時計描画:不可
クリクトン尺度:30
保続:あり
取り繕い:なし
病識:なし
迷子:なし
レビースコア:1
rigid:なし
幻視:なし
ピックスコア:5
頭部CT左右差:なし
介護保険:要介護2
胃切除:なし
歩行障害:なし
排尿障害:なし
易怒性:あり
(診断)
ATD:△
DLB:
FTLD:△
MCI:
その他:SD-NFT
治療経過は約10年で、緩やかな進行。SD-NFTの可能性は?
娘さんが困っているのが、頻繁に電話が来ること。落ちつきなくうろうろして回ることなど。
かかりつけ変更希望有り。落ち着いたらまたお願いするかな。一生懸命なケアマネさん。
既に処方中のプラビックス75mgとメマリー20mgは、そのまま引き継ぐ。
朝しか内服は出来ない、とのこと。ウインタミン6mg開始。
4週間後
- 電話の回数が減った
- 捜し物が減った
- 落ち着きが増した
いつも訪問しているヘルパーさんがみても、明らかな改善を実感出来ているとのこと。ウインタミン著効。6mgで継続していく。本人は恥ずかしそうに微笑んでいる。
(引用終了)
SD-NFTという診断の根拠は?
保続があり図形描写が出来ず、遅延再生が2点という結果からは、勿論アルツハイマー型認知症(ATD)の可能性は考えるべきではある。しかし、
- 約10年の経過で少しずつ進行
- アリセプト、メマリーを加えても目立った変化はなかった
上記2点を重視して、SD-NFT>ATDで考えた。SD-NFTとは、以下のように説明される認知症のことである。
神経原線維変化型老年期認知症(SD-NFT)は,海馬領域を中心とする多数の神経原線維変化によって特徴づけられる高齢発症の認知症である.認知症高齢者の約5%を占める.記憶障害が非常に緩徐に進行し,軽度認知障害から認知症の段階に至る.アルツハイマー病(AD)や他の非 AD 型変性認知症(嗜銀顆粒性認知症など)との鑑別を要する(最新医学68巻第4号より引用)
「高齢発症で非常に緩徐に進行」という点が重要。
アルツハイマー型認知症やピック病であれば、そのような経過はなかなか辿らない。ここで鑑別に上がるのはAGDだろう。嗜銀顆粒性認知症(AGD)か、神経原線維変化型老年期認知症(SD-NFT)かの判断において、
- ピックっぽかったらAGD
- アルツハイマーっぽかったらSD-NFT
このようにざっくり分けて考えるのはどうだろうか?
ただ、あくまでもこれらは病理診断名なので類推するしかないことではあるし(組織を採取して調べなければ分からない)、両者が合併しているケースもあるようなので、診断名に拘りすぎることに治療的意義はなさそうだ。
AGDについては、下記をご参考に。
抑制系薬剤の選択について
クリクトン尺度が30点と高く、かなりの介護負担が窺われたことと、激高すると刃物を持ち出す、という点から一刻も早い改善が必要であった。
アルツハイマー型認知症寄りに考えると、抑制系薬剤のファーストチョイスはグラマリールとなるであろう。ひょっとしたら、それでも効いてくれたかもしれない。
ちなみに、今回抑制系薬剤にウインタミンを選択したのは、ピックスコア5点というピック要素を重視したからである。「効いたら維持」が原則なので、このままウインタミンは6mgで継続。