高齢という理由だけで治療を諦めることはない
認知症の陽性症状が強い方であれば、先に薬剤による陽性症状のコントロールが必要だと思う。しかし、陰性症状主体で水頭症所見を持つ方であれば、TAPテスト(髄液排除試験)は積極的にトライしたい。
88歳女性 特発性正常圧水頭症
初診時
H19年とH22年にDES(薬剤溶出性ステント)留置。
H22年から意識消失発作を繰り返し、てんかんの診断で抗てんかん薬内服。以降は意識消失なし。
今年の1月下旬からふらつき、歩行困難ありということで紹介受診。頭部画像ではDESH(正常圧水頭症に特徴的な所見)が疑われる。尿失禁もあると。三徴(物忘れ、尿失禁、歩行障害)揃った特発性正常圧水頭症かな?
TAPテスト入院
TAP(髄液排除試験)施行。23mlの髄液排除。初圧は9cm圧で終圧は0cm圧。
TAP前は歩行器歩行だったが、TAP後は杖歩行に。その他認知面も改善。
TAPテスト後の外来にて
髄液排除による効果は、時間の経過と共に徐々に薄れてきた。シャント手術による高い治療効果が期待できるが、ご家族が心配されるのは88歳という年齢。
- 当院では、局所麻酔下でのLPシャント術(腰椎腹腔短絡術)を第一選択としていること
- 手術時間は30分〜60分程度であること
- 入院期間は10日前後であること
などを説明したところ、「それなら・・・」と手術をご希望された。
LPシャント入院
手術は約45分で滞りなく終了。
TAPテスト前と、LPシャント術後1週間での評価は以下記載。
(タップテスト前)
- 3m Up & Go test(歩行器) 39.42秒,
- Berg BalanceTest 25/56点
- 起きあがり動作テスト 15.47秒
- MMSE 6/30点
- FAB 0/18点
(LPシャント後)
- 3m Up & Go test(杖) 33.11秒(↑)
- Berg BalanceTest 40/56点(↑)
- 起きあがり動作テスト 7.21秒(↑)
- MMSE 18/30点(↑)
- FAB 7/18点(↑)
著効とは、正にこのような改善のことであろう。
ご本人、娘さん共に大喜びで退院された。
手術前後のご様子
歩行の様子はこちら。
介助が必要だった方がご自分で歩けるようになり、またトイレの失敗もほぼ無くなった。
術前からすると大幅に改善しており、また周辺症状は何も無い。
この状態こそが、この方にとっての本来の「年齢相応」だったのだろう。
「先生、ほんとうにありがとうねぇ」
にっこり笑っておっしゃるこの方は、自分の祖母とどこか似ている。何とも言えない気分になった。