鹿児島認知症ブログ

鹿児島でコウノメソッドや糖質制限を実践している脳神経外科医のブログ

メマリー+フェルガード100Mで穏やかに過ごせるようになった82歳女性。

 メマリーの使い方は難しい。

一般的には、

  • アルツハイマー型認知症が進行してきた場合に、アリセプトその他の抗AChE阻害剤と併用する
  • 怒りっぽい方に鎮静作用を期待して初期から使ってみる


という使われ方だと思う。

 上手く効いてくれることもあるが、強い眠気やフラツキが出現することもあるため、治療初期における投与頻度は低い(個人的に)。

今回は、アリセプト内服中であった方が入院をきっかけに認知症症状が悪化したものの、現在メマリーでよい状態に落ち着いている例をご紹介する。

82歳女性 アルツハイマー型認知症

 

82歳女性のアルツハイマー型認知症。悪化するも持ち直す。

 

一年間で長谷川式テストは8点低下。しかし落ち着いて生活できている。

 

3年間で海馬萎縮は進行



(引用開始)

初診時


高血圧症と糖尿病で治療中。洞不全症候群を指摘されている。

2012年にMMSEで25点。SPECTまで行われ、MCI〜ATDの診断で他院にてアリセプトが始まった。今回は、娘さんが症状進行を気にして連れてきた。

HDSR:18
遅延再生:3
立方体模写:OK
時計描画:OK
保続:なし
取り繕い:あり
病識:あり
迷子:怪しい
レビースコア:1
rigid:なし
ピックスコア:0.5
頭部CT左右差:わずかに左有意萎縮?
クリクトン尺度:12
介護保険:なし
胃切除:なし

(診断)
ATD:〇
DLB:
FTLD:
MCI:
その他:

明るく朗らかで取り繕い軽度。レビースコアやピックスコアは低く、アルツハイマー型認知症を最も考える。

やや怒りっぽくなってきているとのこと。症状は進行しているとのことだが、洞不全症候群のことがあるのでアリセプト増量は不可。可能なら減量や中止が望ましい。

他剤への変更も要検討だが、早めの介護保険申請をお勧めした。また、フェルガード100Mの併用もお勧めした。

かかりつけに情報提供。今後は当方でも3ヶ月毎にフォローしていく。

初診から3ヶ月後


この間に、洞不全症候群に対してペースメーカ植込術を受けた。また、尿路感染による熱発で入院。その後から認知症症状が悪化し、現在まで見当識障害が続いているとのこと。

診察時は、3ヶ月ぶりだが当方のことを覚えてはいた。しかし、身だしなみに乱れあり。

落ち着きのなさ、易怒性亢進、頻尿で困っているとのこと。まだ続いていたアリセプトは中止して、グラマリール25mgx2を開始。

今後認知面は当方でフォロー。

2週間後


かかりつけで出されていたウブレチドは中止、降圧剤は減量となった。日中の頻尿、排尿困難は持続。夜間は排尿困難はないと。

アリセプト中止に伴う認知面低下はない。また、グラマリールの目立った効果はなく、副作用もない。25mgx2でもうしばらく続ける。

今回からメマリーを始める。ふらつきに注意。

2週間後


メマリーは数日よかった気がするが、ふらつきが気になると。しばらく5mgで。

グラマリールの効果は感じられない。夕方症候群をなんとかしたいと。

15時内服でリーゼ5mgを開始。要介護3が降りた。

2週間後


リーゼはふらついたので止めた。
介護工夫で落ち着きが増してきたようだ。デイサービスにも行くようになった。

処方はすえ置。ふらつきが軽減したらメマリーを10mgに増やそうかな。

4週間後


目立って落ち着きが増してきた。
傾眠やふらつきは今は大丈夫と。今回からメマリーを10mgに増量。

適宜グラマリールは減量していく。

5週間後


排尿困難にはエブランチル使用中。頻尿で夜間は5回。それに伴う不眠はない。

グラマリール朝分25mgは終了にしてみましょう。メマリーはこのまま。

フェルガード100M継続中。全体的に調子が上がってきたかな。

5週間後


調子がよい。夕分も含め、今回でグラマリールは終了に。

便秘あり。メマリーは10mgすえ置。

6週間後


デイサービスは週に三回。

グラマリール中止当初は少しソワソワしていたが、徐々に落ち着いたようだ。

当面メマリーは10mgで。

次回はHDSRを。

8週間後


HDSR10
遅延再生1

ニコニコ穏やか。


約1年でHDSRは8点の低下だが、娘さんの介護力上昇とフェルガード100Mの効果もあってか、非常に落ち着いて穏やかに過ごせている。介護負担と感じるような周辺症状は、ほぼなし。

早朝に幻覚有り?とのこと。「尋ねてくる人達がいる」と。眠前に抑肝散2.5mgを試してみましょう。

(引用終了)

反省していること


初診時でアリセプトの中止を強く勧めるべきだったかな、ということ。禁忌事項ではないが、洞不全症候群に対してアリセプトは「慎重投与」となっている。

勿論かかりつけ医への情報提供は行ったが、当方の判断で止めてもらった方が良かったのではないか?と考えている。

メマリーの規定通りの増量は、是か非か?


メマリーに限らず、薬は患者さんの様子を見ながら微調整するべきである。杓子定規な規定に当てはめられて副作用が強く出た場合、痛い目を見るのは医者ではなく患者さんである。

以下は第一三共のHPより引用。

メマリーの増量規定とは


この方は、5mgで始めて8週間後に10mgに増量。それで維持している。20mgまで増量する必要性は、全く感じていない。この方は今のところ、10mgでちょうどよいと自分は考えている。

周辺症状にはまず少量の向精神薬(今回はグラマリール)で対応し、その後メマリーを追加して向精神薬を減量中止にもっていく、というやり方で上手くいくことがある。

 

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本人、家族が穏やかに過ごせているかどうかが一番大事


この方は、長谷川式テストの点数で比較すると、約1年の経過で8点低下している。これを「悪化」と考えるべきかどうか。

無為無策のままで、周辺症状も中核症状も改善せずに1年で8点低下したのであれば、それは問題である。

しかし、一時は急激な症状の悪化があったにも関わらず、そこからの介入で持ち直し、今現在はご家族が特に困るような周辺症状もなく生活できているのであれば、例え長谷川式テストが低下していても、それを臨床的に「悪化」と考える必要はないと思っている。

当ブログでは、短期間で長谷川式テストの点数が上昇する人達を多く紹介しているので、点数の改善=認知症の改善と考える方がいるかもしれない。中核症状だけみるのであれば、そうかもしれない。

しかし、みなが困惑する「周辺症状」を制御することが一番大事、というのが自分の考えであり、またコウノメソッドに求められていることだと思っている。

急激な変化に人は戸惑う。患者さんしかり、家族しかり。

しかし、変化が穏やかであれば、多くの場合人は適応出来るものである。

急激な変化を極力少なくし、あたかも「普通に年を重ねていくように」経過をみていくことが出来たら、その時には臨床的に「改善した」と言ってもいいのではないだろうか。