認知症に対しては、細心の注意を払った少量の抗精神病薬処方が許されなくなる?
患者さん達に吉と出るか、凶と出るか。
さまざまな病気を抱える高齢者は多くの薬剤を漫然と長期間処方されがちだが、特に体力が低下した高齢者には有害な副作用が出やすい薬剤もある。同学会が2005年に策定した指針では、効果より副作用の害が大きい薬について「慎重投与」としていたが、今回の改定で「使用中止を考慮すべき」と記述し、医師などに強く注意を促した。新しい薬も検討のうえ、一覧に加えた。一覧に挙げた副作用として、作用時間の長い睡眠薬は、認知機能の低下やふらつき、転倒を招く危険がある。抗精神病薬は認知症患者の徘徊はいかいや暴力を抑えるために投与すると、脳血管障害と死亡率を上昇させる。(高齢者「中止考慮すべき薬」50種…10年ぶり新指針案 : シニアニュース : yomiDr./ヨミドクターより引用)
「高齢者に対する漫然とした長期処方」が問題であることは間違いない。
しかし、そのことが「だから薬そのものを使うな」とはならないと思う。
「包丁は危ないから、包丁そのものを売るな」といっているようなものである。
抑肝散は万能薬なのか?
同ガイドラインから一部抜粋。
抑肝散は万能薬ですか・・・?
オランザピン(ジプレキサ)やクエチアピン(セロクエル)が糖尿病患者には使えない、というのは以前から変わらないので、まあいい。これは、内科的な問題である。
しかし、抗精神病薬全般、また定型抗精神病薬を認知症に用いるのはダメ、となると、現在これらの薬で恩恵を受けている認知症患者さん及びご家族は、どうなるのだろう?
少量のウインタミンで落ち着いているピック病の方、また少量のセレネースで幻視が治まっているレビー小体型認知症の方に、
「抗精神病薬は極力使うな、という学会からのお達しがあったので、今回から抑肝散に切り替えますね。」
と説明して抑肝散に切り替えられるだろうか?
切り替えた結果、陽性症状が前面に出てしまい、やむなく以前の処方に戻した場合、今度はレセプトでカットされる恐れがある。
なによりも、「効いていた薬をガイドラインの都合で無理矢理変更する」ことで、患者さんや家族の信用を失う事が恐い。
陽性症状がコントロール出来なくなった場合、「あとは介護で頑張ってね」と介護現場に任せればよいのか?
介護報酬削減への対応に追われるであろう介護現場に、陽性症状へ早急に対応するよう求めるのは酷である。
それとも、認知症疾患医療センターに措置入院を依頼すればよいのだろうか?
いずれにせよ、医療現場と介護現場の混乱が予想される。
日本老年医学会の意図は?
同ガイドラインのp19から一部抜粋する。
なんとなくだが、学会は以下のようなことを目指しているのではないだろうか、と思った。
- 定型抗精神病薬から、非定型抗精神病薬に切り替えるように。
- 抑肝散なら、効かなかった場合でも目立った副作用が出にくいからいいだろう。
- 認知症の中核症状、周辺症状、いずれにもアリセプトやメマリーなどの抗認知症薬で対応するように。
決して考えすぎでもない、と思うのだが如何だろうか?
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