うつなのかDLBなのかで悩む
親を心配して引き取ることで、全て解決出来る訳ではない。よかれと思ってしたことが逆効果になることもあり、この辺りが介護の難しいところである。
(記録より引用開始)
83歳女性、DLB疑い
初診時
(現病歴)
足腰が弱くなり、2ヶ月前に娘さん夫婦が引き取った。
以降、娘さんとは口もきかない。お婿さんとは普通に話す。困り果てた娘さんが連れてきた。お互いに一切目を合わさない緊張した雰囲気。情報は、事前に娘さんが書いてきたメモのみ。本人の前では娘さんは一切話さない・・
(診察所見)
HDS-R:27
遅延再生:6
立方体模写:不可
時計描画:不可
クリクトン尺度:28
保続:なし
取り繕い:あり
病識:?
迷子:なし
レビースコア:5.5
rigid:なし
ピックスコア:2.5
頭部CT左右差:なし
介護保険:要介護1
胃切除:なし
(診断)
ATD:
DLB:△
FTLD:
MCI:
その他:
DLBスコアは高いが、環境変化と家族との折り合いの悪さから抑鬱的、攻撃的になっているのかな?
家族希望があり、かかりつけ変更で対応開始。右基底核に梗塞痕を認め、プレタール50mgを処方。
かなり痩せており、食欲は低下しているとのこと。ジェイゾロフト12.5mgと食欲セット(ドグマチール50mg+プロマックD75mgx2)も開始する。
1ヶ月後
- 変な行動が少なくなった
- 置物を投げつけて割ってしまう
- 食欲が明らかに増えた
食欲が出てきたのでドグマチールは一旦終了に。両下肢浮腫にタカベンス。
ジェイゾロフトは効果ありと考える。次回まで様子をみて易怒性については考えよう。娘さんの表情は沈んでいるが、「これまでよりはよくなっています」とボソッと話す。
更に1ヶ月後
ものを投げたりなど、今回は全くなかったと。本人の様子は変わらず。娘さんの沈んだ表情も変わらず・・・
今回は現状維持で。タカベンスの効果は?
更に2ヶ月後
表情がとても良くなった。また穏やかになったとのこと。ジェイゾロフト効果だろう。長谷川式テストは初診時より2点減少しているが、易怒性、抑うつ、食欲低下などの症状は治まったようだ。
下肢浮腫対策のタカベンスと、前医から引き継いでいたメリスロンは終了に。
(引用終了)
DLBは忘れずに。しかし最重要視したのは食欲。
今回はちょっと悩んだ症例だった。
レビースコアは5.5と高かったのだが、すんなりとDLBと診断するには、幾つか悩ましい点があった。
- 娘さん曰く「症状の変動が激しい」とのことだが、これは娘さんに対しての態度であり、お婿さんに対しては常に一定の穏やかな態度。認知の変動とは考えにくいか
- 娘さん曰く「部屋を暗くして一人でブツブツ言っている。何かと喋っているようだ」とのことだが、これを幻視と即断は出来ない
- 目立ったパーキンソニズムはない
- HDS-Rが27点と高い
認知の変動(Probable DLB診断基準の一つ)がある場合には、HDS-R27点も「調子の良い時に測定した結果」と考えられるが、この方に明らかな変動があるかは疑わしい。
そして、以下のように考えてみた。
- アセチルコリンの減少はさほどでもないのかもしれない
- とすると、アセチルコリンを補うと更に食欲低下を来すかもしれない
- アリセプトはまず無いが、皮膚が弱いとのことなので、イクセロンパッチも使いにくい。レミニールも吐き気が出たら大変だ
何故このように悩むかというと、コウノメソッドでは
「DLB患者のうつの場合、アセチルコリン賦活より前にセロトニン賦活を行わない」
という原則があるから。
結局、この方で最も気になったのが認知面ではなく、抑うつ、痩せと食欲低下であった。DLBの可能性を念頭に置きつつも、アセチルコリン賦活よりも食欲セットと少量ジェイゾロフトを先行させて、結果的には著効を得た。
また、脳梗塞痕があったので脳血管性うつの可能性も考えた。しかし、急性〜亜急性発症の抑うつではないと判断し除外した。
通常脳血管性の抑うつを考えた場合にはサアミオン投与を検討するが、この方は娘さんに対してかなり攻撃的だったので、サアミオンにより易怒性が亢進するリスクを考えて投与は行わなかった。
振り返って考えると、初回からジェイゾロフトを使用せずに、まずは食欲セットだけでも良かったのかもしれない。結果オーライだが、次に同じような方が来られたら、食欲セットを先行させてみよう。
結局、この方の診断は?
環境変化による抑うつ>DLBぐらいの印象を持って今でも治療継続中である。
初診時の透視立方体模写、時計描画テストが不可だった、という結果からも、認知面には問題ありと考えておくべき。
ひょっとしたら、抑うつが先行しただけで、これからDLB症状が前面に出てくるのかもしれない。