鹿児島認知症ブログ

鹿児島でコウノメソッドや糖質制限を実践している脳神経外科医のブログ

失神とは?脳神経外科を受診する前に知っておきたい4つのこと。

失神でまず疑うべきはTIAか?


脳神経外科に紹介されてくる患者さんの紹介状でよく見かける、「〇月〇日に失神がありました。TIA(一過性脳虚血発作)が疑われるので、精査をお願いします」という文言。

気を失ったら脳神経外科へ、というある種のコンセンサスが、医療従事者の中にはあるのかもしれない。

失神とは?

失神の定義


脳血流の低下により生じ、

  1. 突然の意識消失
  2. 姿勢反射の消失
  3. 数秒から数分で自然に回復する
 
このような特徴を持つのが失神。
更に失神の分類は以下の4つに分けられる。

  1. 心原性失神
  2. 神経調節性失神
  3. 起立性低血圧
  4. 中枢神経原性失神
 
何が原因で、頭に向かう血流が足りなくなるのか?」が大事。「結果」として脳への血流が減って失神が起き、脳神経外科へと紹介があるのだが、大事なのは「原因」である。

①心原性失神とは


高齢者に多い。原因疾患として


  • 不整脈
  • 急性冠症候群
  • 肺塞栓症
  • 大動脈弁狭窄症
  • 閉塞性肥大型心筋症
 
などが挙げられる。
 
いきなり失神した場合には、まず心臓のトラブルの可能性を考える。前駆症状として、動悸や胸痛、背部痛、呼吸困難などがあれば心原性失神を疑う。

頻度は約20%。

②神経調節性失神とは


若年者に多い。

  • 5分以上の立位保持後
  • 痛みや極度の興奮、排泄後など

朝礼中にふらっとする人がいるが、神経調節性失神であることが多い。前駆症状として腹部不快感、発汗、嘔気を自覚すること有り。

頻度は約20%。

③起立性低血圧とは


起立性低血圧とは、起立直後に血圧低下により失神を起こすこと。糖尿病やアルコール摂取、食直後、入浴後などがリスクとなり得る。また、消化管出血などを起こしていることもあるので注意が必要。

頻度は10%。

④中枢神経原性失神とは


可能性としてあげられるのは

  • くも膜下出血
  • 一過性脳虚血発作(TIA)
  • 過換気症候群
 
くも膜下出血は、突然の強烈な頭痛や吐き気を伴うことが殆どである。
 
そして、一過性脳虚血発作の場合には、ほぼ巣症状を伴う。つまり、片側の麻痺や感覚障害、構音障害、失語などである。失神するTIAであれば椎骨脳底動脈不全の可能性を考えるが、その場合でも複視や顔面のしびれ、回転性めまいなどを伴う事が殆どである。

頻度は約10%。

「失神=脳神経外科紹介」は、頻度から考えると効率性に欠ける


ということが言いたくて、長々と書いてみた。
 
脳神経外科で診察後に、循環器科宛てに「ホルター心電図、心エコーなどお願いします」と紹介状を書くことの方が圧倒的に多い。

失神は原因不明が40%前後を占め、そして中枢神経原性失神の原因として脳血管障害/TIAの頻度は、約4%というデータもある。

救急隊含め、まず脳神経外科に相談を頂くことが多いが、疾患頻度及び患者さんの利便性を考えると、

  • 失神から回復後に頭痛を訴えている
  • 片側に麻痺があるか、また喋りにくそうにしている
 
このような場合には、まず脳神経外科へ相談を。そうでなければ循環器科へ。