鹿児島認知症ブログ

鹿児島でコウノメソッドや糖質制限を実践している脳神経外科医のブログ

見たくない現実でも直視が必要。早期介入が出来なかった結果、進行してしまったアルツハイマー型認知症。

早期介入は大事


「早めに薬を始めましょう!」という訳ではなく、介護保険申請などの周囲環境整備も含めて早期介入が大事ということ。

アルツハイマー進行例。表情に力がなくなる。

 

 

典型的なアルツハイマー型認知症のCT画像。

 

7ヶ月で急激に進行したアルツハイマー型認知症の長谷川式テストの結果



81歳男性 アルツハイマー型認知症


(引用開始)

初診時


(現病歴)

最近しまい忘れが増えた。人のせいにすることが増えたとのことで、息子さんが連れて来られた。

(診察所見)

HDS-R:20
遅延再生:0
立方体模写:OK
時計描画:まずまず
クリクトン尺度:11
保続:なし
取り繕い:あり
病識:なし
迷子:なし
レビースコア:施行せず
rigid:なし
ピックスコア:施行せず
頭部CT左右差:なし
介護保険:なし
胃切除:なし

(診断)
ATD:△
DLB:
FTLD:
MCI:△
その他:

遅延再生0で取り繕いあり。頭部CTで海馬萎縮は中等度で目立った左右差はなし。

頭頂で脳溝の深い切れ込みあり。側脳室前角のくびれは消失。体部は太い。

テンション高い。画像的、臨床的にはATDの要素が多い。側脳室前角のくびれ消失や少し子供っぽい印象(こちらの膝をやたら叩いてくる)は、Pickの可能性をわずかに残しておくかな。ADLは完全に自立しており、独居。息子さんがちょくちょく様子を見に行っている。

MCI〜ATDとしておく。フェルガード100Mを勧め、3ヶ月後に再診。本人は毎月でも来たい、あんたが気に入った!とご満悦。少量の抗認知症薬はありだが、ご家族としては薬は少し様子を見たいと。

7ヶ月後


独居が限界になってきたと息子さんが連れてこられた。

HDSR12
遅延再生0

症状進行。現在かかりつけなし。フェルガード内服もなし。何もしていないと。
HDSRは急激低下を示すが、目立った語義失語や易怒性亢進はなく、ATD進行と考える。

まずは介護保険の申請をして朝だけでもヘルパー介入を。アリセプト3mgで開始。

(引用終了)

家族間の微妙な関係にまで立ち入ることは困難だが・・


初診時に、「介護保険制度について、相談員の説明を聞いて帰りますか?」と水を向けたのだが、息子さんは「またそのうちに」と帰られた。

もう少し強く早期介入の必要性について強調しておけばよかったと後悔。

息子さんの言葉が印象に残っている。

最初に受診した後に、しっかり介護のことなどについて聞いて帰るべきだった。みてあげられる家族は自分しかいないのだが、自分にも仕事があるし、事情があって引き取ることも出来ないので、今は急いで施設を探している。


こういった事情はよく耳にする。

段々と父の様子がおかしくなっていくことには気づいていたが、注意すると嫌がられるし、そうなっていく父を見たくない、という気持ちもあり、最近は家から足が遠のいていた。


聞いていて切なくなるが、事ここに至るまでの経過や家族間の微妙な想いなどには、そう簡単に立ち入ることも出来ない。

この日息子さんは、しっかりと介護保険制度の説明を聞いて帰られた。

比較的短期間の進行なので、アルツハイマー型認知症以外の可能性も考えたが、日時見当識低下や遅延再生不良、視空間認知力低下、取り繕い、頭部CT所見などから、アルツハイマー型認知症の進行と判断。

幸い易怒性やDLBの要素は認めなかったので、ご家族と相談してアリセプト内服開始とした。

※後日談ですが、治療開始2ヶ月で著明に改善しました。 

 

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