鹿児島認知症ブログ

鹿児島でコウノメソッドや糖質制限を実践している脳神経外科医のブログ

認知症周辺症状の治療が、結果的に中核症状改善に繋がったケース。

まずは周辺症状制御から


認知症の周辺症状と中核症状については、以下をご参考に。

 

www.ninchi-shou.com

 
ADLは完全に自立しているが、嫉妬妄想と金銭妄想の強烈な方が来られた。
 
診断については今でも??だが、イメージ優先のウインタミン処方が効を奏した一例をご紹介。
 
ウインタミンのみで中核症状と周辺症状が改善

 

基底核がわずかに石灰化

 

ウインタミンで長谷川式テストの点数アップ
 

80歳女性 前頭側頭葉変性症


初診時

(記録より引用開始)
 
嫉妬金銭妄想がひどいので何とかして欲しいと、旦那さんと娘さんが連れて来られた。
 
HDS-R:23点
遅延再生:4点
立方体模写:OK
時計描画:OK
レビースコア:1
ピックスコア:1
 
本人はケロッとしており、全く意に介していない。どんな話題に対しても、「私は心を穏やかに生きていこうと思っているの」と返す。滞続言語っぽい。
 
時折凄く子供っぽい仕草を示す。笑い方は「キャハハ!」で、カメラを向けると胸を反り返す。
 
ピックスコアは低いが、何となくピック感を感じる。
 
妄想が何とかなればとご家族。本人は妄想はかたくなに否定。
 
薬にとても用心深いらしい。ひとまず抑肝散で対応してみる。

4日後

 
抑肝散は飲んだ直後に?ふらついたので止めたと。
ウインタミンを夕方6mgで。昔から薬には過敏と。

3週間後

 
  • よく眠れるようになった。
  • 前向きになった。くよくよしなくなった
 
妄想についての聴取はできず。
しかし、娘さんの表情も明るいので良い感じなのかな。

更に4週間後

 
  • 朗らかになった。
  • デパスを飲まないで済むようになった
 
自己判断でウインタミンを止めた時期があったらしいが、悪夢をみたらしい。そして再開した。飲んでいると、妄想的なことも余り言わず、娘さん曰く「人が違ったようだ」と。現在他院にも通っているが、当院処方で継続したいとのこと。
少し長期処方にする。著効例でよさそう。

更に5週間後

 
一包6mgで家庭天秤にしていたウインタミンは、2包12mg眠前に飲むと、丁度よいとのこと。
 
この量でやっていきましょう。ワインも少しぐらいならいいでしょう。
 
いつも同伴する娘さんの話も、非常に常同的なのが気になる。

更に6週間後

 
ふりかえり動作は多いが、子供っぽさが大分落ち着いてきた印象。久しぶりに長谷川式テストをしてみましょうか。
 
HDS-R25
 
前回よりアップ。うれしそう。
娘さんの足の治療のため、今回は2ヶ月処方。そのうちフェルガードはどうかな。
 
(引用終了)
 

不思議な薬、ウインタミン

 
初診時のHDS-Rが23点で、かつADLは完全に自立していたので「認知症」の診断は積極的には付けがたい。本人に病識は全くないので、軽度認知機能障害(MCI)とするのも悩ましい。
 
しかし、家族が困るほどの「妄想」という症状を呈していたので、やはり投薬による対応が必要であったと考えている。
 
ピックスコアは1点であったが、何ともいえない「ピック感」を頼りにウインタミン過程天秤にしてみたが、これが効を奏したようだ。
 
これはよく経験することだが、周辺症状の制御のみで、中核症状が改善するケースがある。HDS-Rの点数アップとは、そのように考えてよいと思う。
 
今後この方が、周辺症状は制御されているが中核症状が目立ってきた際には、ご家族と相談して中核薬を検討すればいいのだろう。
 
ちなみに、ウインタミン(クロルプロマジン)で、人が変わったかのように可愛らしい人格に変わるケースも時折見られる。何とも不思議な薬である。