脳血管性認知症と慢性硬膜下血腫の合併
いつの間にか脳梗塞を起こし、いつの間にか慢性硬膜下血腫も起こしていた。
今回紹介するのは、そのような方。
(記録より引用開始)
79歳女性 VaD+CSDH
初診時
(既往歴)
変形性膝関節炎で手術
ペースメーカー植え込み
ワーファリン内服中
(現病歴)
約1ヶ月半前から、急に活気がなくなり反応が鈍くなった。失禁もあると。
(診察所見)
HDS-R:9
遅延再生:0
立方体模写:OK
時計描画:不可
クリクトン尺度:15
保続:あり
取り繕い:なし
病識:なし
迷子:なし
レビースコア:3.5
rigid:なし
ピックスコア:1
頭部CT左右差:なし
介護保険:要介護1
胃切除:なし
(診断)
ATD:
DLB:
FTLD:
MCI:
その他:VaD 慢性硬膜下血腫
表情は暗く、眼に光がない。活気はまるでなし。頭部打撲の既往は明らかではないが、左慢性硬膜下血腫を認める。圧排は軽度で、現時点で麻痺の左右差はないので、ひとまず五苓散での排液を図る。
右放線冠に梗塞痕あり。「ある日を境に急激に変わった」、というエピソードから推測すると、この時発症した脳梗塞だろう。それによって、脳血管性認知症+うつ状態になっていると思われる。
ワーファリン内服中であるため悩ましいが、穿通枝領域脳梗塞対策としてプラビックス50mgを開始。
また、意欲低下にはサアミオンで賦活を図る。2週間後に再診。
2週間後
活気が出てきた。頭部CTで慢性硬膜下血腫の増大はなし。夜間が少しソワソワするとのことで、夕食後のサアミオンは中止にして、朝だけとした。プラビックス50mgと五苓散は継続。
更に4週間後
(改善点)
ほぼ、以前の母になりましたと娘さん。
(悪化点)
なし
臀部に皮下血腫あり。勢いよく坐ることが多いから?ワーファリン、プラビックス内服中なので要注意ですよ。
頭部CTは左CSDHはほぼ消退。今回で五苓散は終了。
更に4週間後
入室直後に冗談を飛ばす。普通の元気なおばちゃんになった。
長谷川式テストは23点。
介入10週間で9点→23点にアップ。
ひとまず大幅改善出来たので、今後は基礎疾患の治療はかかりつけで継続し、当方では2ヶ月おきのフォローとする。
(引用終了)
抗認知症薬は最優先ではない
今回のケースでは、
- 慢性硬膜下血腫による脳への軽度圧迫は、五苓散で対応する
- 活気低下は慢性硬膜下血腫だけではなく、脳梗塞の影響も考えられるので、サアミオンで対応する
治療の肝は、ほぼこの2点であった。
アリセプトもメマリーもイクセロンパッチもレミニールも、いわゆる抗認知症薬と言われる薬は、何も使っていない。
長谷川式テストの点数が低いというだけで、初診時にとりあえず抗認知症薬が出されるケースをよく見かける。
そうすると、病型が修飾されてしまい(薬剤による病状悪化を含む)、処方を出した医者は混乱してしまう。
その結果、「認知症が進んだのだろう」という理由付けがなされてしまえば、抗認知症薬の増量乃至は向精神薬の追加、となっていく。
そしていつの間にか、アリセプト10mg+メマリー20mg、のような抗認知症薬フルドーズ処方に、短期間で行き着いてしまうのではないか。
薬を減らしたら良くなったケースというのは、大抵このような経過で処方がなされてしまった結果である、と推測する。
シンプルに、まずは周辺症状の制御を試みる。その後にADLを低下させている中核症状があれば、それに抗認知症薬を試みる、という順番が基本的には望ましいと考える。