鹿児島認知症ブログ

鹿児島でコウノメソッドや糖質制限を実践している脳神経外科医のブログ

シャント手術件数から、正常圧水頭症診療の地域差について考える。

水頭症手術の地域差

 
あるデータを頂いたので紹介する。

各都道府県における、水頭症手術(小児水頭症や特発性、続発性、全てひっくるめ)の件数である。
 
DPC(包括医療費支払い制度方式)を採用している病院から集計された、平成24年度分のデータを抽出し集計したもの。病院情報局より。

 

 
水頭症 LPシャント 手術件数
 
 
あくまでもDPC採用病院からのみのデータであるので、これが全てを網羅しているわけではない。しかし、大まかな目安にはなろうかと思う。
 
人口比からすると、キレイな分布になっているとは言い難い。
 
(以下、難病情報センターより引用)
 
特発性NPHの好発年齢は60歳以降であり、発生頻度ではやや男性に多いようである。最近の研究論文において、その発症頻度も徐々に明瞭になってきている。一般的に認知症患者は国内に現在、250万人にせまると言われ、これまで認知症のうち『iNPH』である患者は5%(約12.5万人)と考えられていました。MRIを用いた、ある地域疫学調査の結果、『iNPH』が疑われる人の有病率は高齢者(65歳以上)の0.51~2.9(1.1)%であると推定されており、日本人口の高齢化率(約22%)で換算すると低く見積もっても約31万人(人口10万人あたり約250人)の方が罹患している可能性があると言える。また、症候の有無に関係なく地域住民の対象者全てに脳MRI 検査を行って画像上iNPH が疑われる住民(Asymptomatic ventriculomegaly with features of idiopathic normal pressure hydrocephalus on MRI : AVIM)を抽出するという方法で,4~8 年追跡すると25%に認知症や歩行障害が出現,つまりiNPHが疑われる症候を呈するようになったことからAVIM はiNPH の重要なリスクファクターである可能性があることも指摘されている。また、『iNPH』の有病率は、よく知られた疾患である認知症や歩行障害を呈するアルツハイマー病の有病率高齢者の約4%(人口10万人あたり1,000人)やパーキンソン病の有病率高齢者の0.4%~0.7%(人口10万人あたり100~150人)の間に位置すると推定されている。
Iseki C, Kawanami T, Nagasawa H, et al. Asymptomatic ventriculomegaly with features of idiopathic normal pressure hydrocephalus on MRI (AVIM) in the elderly: A prospective study in a Japanese population. J Neurol Sci. 2009 Feb;277(1-2):54-7.
 
(引用終了)


鹿児島県でいえば4000〜5000人程度、特発性正常圧水頭症が疑われる患者さんがいる計算になろうか。
 
地域間で水頭症治療(ここでは特発性正常圧水頭症について考える)にばらつきがでる原因としては
 
  1. 疾患に対する理解不足
  2. LPシャント術(腰椎腹腔短絡術)の普及に地域差がある
  3. 高齢者故に、水頭症以外に様々な身体疾患や認知症疾患を合併している場合には、手術が見送られるケースがある
 
こういった点が挙げられるだろう。
 
1に関しては、新聞やインターネットなどによる啓発活動でそれなりに普及してきた印象はある。

実際、ご家族が「うちの父は水頭症ではないですか?」と疑ってに外来に連れて来られて、それが当たっていたというケースも少なからずある。

2に関しては、手術をする側である脳神経外科医、一般診療の中で水頭症を拾い上げる脳神経外科以外の科の医師、両方への更なる啓発活動が必要だろう。

3に関してだが、これが実際には最も多いのではないか。
 
「年齢」について消極的に考えるご家族や医師が多い地域においては、シャント手術の件数は少なくなる傾向があるのではないだろうか?


もう年だし・・と考える前に


  • もう年だし、手術は負担になるからかわいそうだ
  • 手術をして歩けるようになっても、認知症がそんなに良くならないのであれば、しなくてもいいかな
 
せっかく水頭症が見つかっても、こういった理由から手術が見送られているケースは多いと思われる。
 
ちなみに、こちらは88歳女性の方。手術治療で劇的に症状は改善した。

 


腰椎圧迫骨折を繰り返していて、背中が極端に曲がってしまっているような方など、確かに手術が困難なケースはある。
 
しかし、手術の身体への負担に関して言えば、局所麻酔でも可能(当施設は基本的に局所麻酔でLPシャントを行っている)なので、極端な高侵襲というわけではない。
 
また実際に症状がありなおかつ、特発性正常圧水頭症に特徴的な画像所見を備えている方であれば、手術によって歩行で90%、尿失禁と認知機能については70〜80%、術前と比べて何らかの改善を得られた、というデータもある。(難病情報センター)

こういった知識や情報が普及していけば、より多くの患者さん達が適切に手術を受けることが出来るだろう。

勿論、術後をしっかりとサポートしていく体制を整えることも、手術と同じぐらい大切であることは言うまでもない。

ちなみに、特発性正常圧水頭症+レビー小体型認知症、特発性正常圧水頭症+前頭側頭葉変性症、などというケースは相当存在する。これらはいずれ紹介予定。

今回はこれで終了。
 
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