受診理由が物忘れではない場合
脳外科外来では、初診者の多くは頭痛やふらつき、めまい、怪我などである。再診の場合は、過去に脳卒中を起こした方達が多い。
そもそもの訴えが物忘れではないが、実は認知症が疑われる方を最近多く見かけるようになった。その場合の対応は悩ましいものである。
(当時の記録より引用)
初診時
右目が細くなるのは何故?という相談で、更年期症候群でかかっている産婦人科から紹介。動脈瘤などないかどうか、と。
- 眼瞼下垂なし
- 複視なし
- 話が常同的
- 滞続言語
- 表情はやや目を見開いたびっくりまなこ
違和感を感じ、HDSR施行。
「もう忘れたー、キャハハ」と子供っぽい印象。
頭部CTでは頭頂葉萎縮回避、基底核の軽度石灰化あり。右側頭極がわずかに左より萎縮?前頭葉は年齢からすると萎縮していると考える。
ADLは自立しているようだが、50歳でHDSR24点。ピック感が強い。
現時点での積極的介入は困難であり、困ったことがあったら相談に来て、と促し帰宅。将来ピック発症の可能性あり。
(引用終了)
無理矢理介入は御法度だが・・・
そもそもの訴えは「右目が細くなる」。
しかし、診察中は両眼ともむしろ見開き気味。子供っぽさが目立ち、どんな話の流れでも、「あたしは勉強をせんかったから~」で断ち切ろうとする(滞続言語)。
長谷川式テストですら、「何故こんな質問を?」という怪訝な表情であったので、ピックスコアまでは行わなかった。
病識は当然なく、またお一人で来られていたので、ピックスコアも意味を成さなかった可能性はあるが。
ひとまず「目のことは大丈夫だと思うけど、CTの詳しい話はご家族と一緒に聞いてみませんか?」と水を向けたが、「夫もあたしも忙しいから」とのことでお別れとなった。
早期介入の重要性
「この時点からフェルガード100Mを内服していたら、将来は大分違うのではないだろうか?」
前頭側頭葉変性症(前頭側頭型認知症)の初期と思われる方に出会った時、最近よく思う。
こういう方に、アリセプトなどのいわゆる抗認知症薬がこの時点から効果があるとは考えにくい。
また、ADLが自立しており家族も特に困っていない(かもしれない)若年ケースに介護保険などの準備を勧めても、逆効果の可能性もある。
認知症に対して偏見を持つ方々は、まだまだ多いと思う。
現時点では、こういうケースの場合には地域包括支援センターに情報提供を行い、定期的な巡回をお願いするぐらいが精一杯な印象であるが、地域包括支援センターも、家族の頭を飛び越えての介入は中々難しい。
早期介入を可能とするシステムの整備は、喫緊の課題だろう。
河野 和彦
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