初診時の診断は正しいか?
そうもいかないことの方が多いのが、今の自分の力量である。
HDSR施行時に、保続や取り繕いあり。これはATDを示唆。しかし振り返り動作も多く見られた。これはFTLDによく見られる。
長らくアルツハイマー型認知症の診断で、他院で外来フォローされていた方。2009年11月にアリセプト5mg、病状進行に伴い2012年8月にアリセプト10mgに増量。それでも認知症が進行してくると紹介あり。 2013年4月12日初診。以降の経過を当時の記録に沿って再現してみる。
(引用開始)
2013年4月12日
ATDで外来フォロー中。穏やかで朗らかな方。妹さんとお二人暮らし。2009年11月にアリセプト5mgとなり、10mgに増量したのが2012年8月。最近、人の名前がなかなか出てこないとの妹さん情報。電話対応が難しくなってきたらしい。イクセロンパッチへ切り替えて見る。いずれは少量メマリーも。
5月10日
易怒性が落ち着いてきた。意欲がまして、家事に積極的になってきた。妹さんは大喜び。本人はあまり変わらないけどねー、と今回から9mgにイクセロンパッチ増量。スクリーニングは9点で、図形模写は完璧。
6月7日
イクセロンパッチを9mgに増量してから掻痒感が強く、4.5mgに減量。
7月5日
まだ痒く、しばらく貼るのを止めていた。隔日4.5mgで再開。次回からはヒルドイドも使用する。
8月1日
やはり掻痒感強く、イクセロンパッチは断念。メマリーを開始。
9月27日
メマリーを10mgに増量。今のところ、目立った変化はない。ニコニコ。ケタスは終了でもいいのかな。
10月25日
メマリー増量で少しめまいとふらつきが増えたかな?当面10mgで維持する。遅延再生4点語想起0点FTLDセット3点子供のようなはしゃぎっぷりと仕草が、以前より露骨になってきた。語想起では保続あり。
(ここからしばらくは目立って変化はなく・・・)
平成26年1月17日
妹さん曰く、物忘れ進行が目立つと。整容は保っている。ぱっと見は今まで通りだが。もう一度、イクセロンパッチにtry。
3月14日
イクセロンパッチはやはりかぶれるので無理だった。アリセプトに戻す。
(引用終了)
結局、この方の診断は?
当初はアルツハイマーで考えていた。
画像所見はアルツハイマーに大きく矛盾しないが、若干右優位の萎縮ではあった。しかし長谷川式テストの点数で遅延再生が4点と比較的高かったので、典型的なアルツハイマーとは言いがたい。
アリセプト10mgを許容し得ていたということは、少なくともアセチルコリンは不足していたと考えるべきなのか。イクセロンパッチに変更したところ、妹さんからするとADLが向上し著効した印象だったのだが、掻痒感で脱落したのは残念。最初からヒルドイドクリームを併用しておくべきだったと反省。
その後再度イクセロンパッチに挑戦したが、継続は困難だった。
1年間経過を観察してきて急激な悪化はなかったと思うが、徐々に子供っぽさが増していったのが印象的だった。当初の画像で若干だが右優位の側頭葉内側萎縮もあり、アルツハイマーから前頭側頭葉変性症へと移行しつつあったのかもしれない。若しくは最初からAGDだったのかもしれない。
AGDや前頭側頭葉変性症については、またの機会に。
(最終処方)
【アリセプト5mg+メマリー10mg 抑制系は不要】
最後は当方の転勤でお別れとなった。
今後、メマリー10mgがジワリと支えてくれることを願っている。
今回はこれで終了。
(用語説明)
- FTLD・・・前頭側頭葉変性症
- AGD・・・嗜銀顆粒性認知症
- 遅延再生・・・3単語を覚えてもらい、数分後に再度聞き直す。この点数が低い場合、それは近似記憶の低下を示唆する。ATDでは低下していることが多い。
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