聞かなければ適切な介入は始まらない
レビー小体型認知症の紹介が続いているが、意図的なわけでは無い。
改善が得られやすいからブログに載せやすいというだけかも。
最近活気が無い、転びやすい、一旦横になったら中々起き上がれない、という訴えで、知人に連れられて来院された方。起き上がれない姿が、妻からは「カエルのようだ」とからかわれるらしい。
いくつか病院を受診しMRIも撮っていたが、「原因不明」、「起立性低血圧でしょう」などと言われている。さて。
診察時
- 表情は暗い
- 真面目で趣味はない
- 10年前に仕事を辞めて徐々に活気低下
- 歩行はゆっくり、手を振って歩かない
- 両側上肢で鉛管様筋固縮
- 仰臥位から起き上がれない
- 睡眠中に大声で叫び暴れる
- 幻視幻覚なし
- 薬剤過敏なし
- 軽度首タレ
- 上肢を虫が這っている感覚がある
- HDSR18点
- DLBスコア7.5点
持参された頭部MRIは、基底核に陳旧性の脳梗塞痕を認める以外に、これといった所見が無い。DLB患者さんでは、特徴的な画像所見がないことは多い。
考えたこと
- 診断は恐らくレビー小体型認知症だろう。
- 本人に物忘れの自覚や訴えはなく、主に体の動かしにくさで困っている。
- 明らかにREM睡眠行動異常と思われる症状を呈しており、これが改善されたら家族は喜ぶだろう。
- これらに改善の兆しが見られたら、本人も気づいていない物忘れ症状にアプローチしてみよう。
その後の経過
抑肝散加陳皮半夏2p2xとメネシット50mgを処方して2週間後に再診したところ、暗かった表情が目立って改善していた。また転びにくくなり、夜間の叫びがかなり減ったと同伴の家族が喜んでいた。起き上がり動作はまだ出来ないと。この時点でイクセロンパッチを導入し、メネシットを50mgx2に増量し、1ヶ月後に再診とした。
1ヶ月後の再診時には、診察室に入ってくる歩行スピードが明らかに改善していた。しかし、手の振りはまだ弱かった。REM睡眠行動異常はほぼ消失。以前は壁を殴ったり、横の奥さんに肘打ちしたりなど大変だったと。起き上がり動作はまだ完全には出来ないが、初診時よりわずかに改善は認めた。
今後は上肢を虫が這うような感じ(RLSの亜型のような症状だろうか?)に対して、ニュープロパッチを試してみようか?またイクセロンパッチを9mgに増量しようか、などと考えていたが、泌尿器系の疾患で他院に入院となり、その後をフォロー出来ていないのが残念。
最終処方
イクセロンパッチ4.5mg+抑肝散加陳皮半夏2p2x+メネシット50mgx2
まとめ
物忘れの訴えがない、しかし認知症を既に発症している患者さんは大勢いる。よって、問診が非常に重要である。聞かれなければ答えない患者さん、家族はとても多い。
認知症外来ではなく、一般外来に普通にやってくる認知症の方(軽度認知機能障害を含め)を、どれだけピックアップしていけるだろうか。これは自分にとって大きな課題である。
今回はここまで。
(略語説明)
RLS・・・Restless Legs Syndrome。パーキンソン病に多いと言われる、通称「むずむず足症候群」のこと
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