鹿児島認知症ブログ

鹿児島でコウノメソッドや糖質制限を実践している脳神経外科医のブログ

「坂本龍一が完全菜食主義に」というニュースから考えたこと。

 

菜食主義と糖質制限

 

中咽頭癌で闘病中の坂本龍一さん。病状を心配しているファンの人達は多いだろう。最近は安保法案関連のニュースで姿をよく見かけるので、病状は落ち着いているのだと思いたい。

 

坂本龍一のニュース - 坂本龍一、がん闘病で“完全菜食主義”に - 最新芸能ニュース一覧 - 楽天WOMAN

 

ニュース内に完全菜食主義という言葉が出てきたので、糖質制限と絡めてちょっと考察してみる。

完全菜食主義とは?

 

食生活から完全に動物製品を排除すること。肉を避ける食生活を送る人々のことを一般的に「ヴェジタリアン」と呼ぶが、幾つかの流派があるようだ。有名どころでは、以下の二つだろうか。

 

ヴィーガニズム

 

ヴィーガニズム(英: veganism)は、動物製品の使用を行わない生活様式である。エシカル・ヴィーガニズムが動物の商品化を否定し、あらゆる目的での動物製品の使用を拒否するのに対し、ダイエタリー・ヴィーガニズム (純菜食主義) は食事から動物製品を排除するだけにとどまる。また、エンバイロメンタル・ヴィーガニズムと呼ばれる別の一派は、畜産業が環境を害しており、持続可能でないということを理由として動物製品の使用を拒否している。(Wikipediaより引用)

 

衣類などからも動物製品(革や羽毛など)を排除し、鶏卵由来の一部のワクチン摂取も拒否するなど、動物製品忌避に関しては徹底している流派もあるようだ。

 

マクロビオティック

 

マクロビオティック (Macrobiotic) は、第二次世界大戦前後に食文化研究家の桜沢如一が考案した食生活法・食事療法と主張されるものの一種である。名称は「長寿法」を意味する。 食生活法は、「玄米菜食」「穀物菜食」「自然食」「食養」「正食」「マクロビ」「マクロ」「マクロビオティックス」「マクロバイオティック」「マクロバイオティックス」とも呼ばれる。また、マクロビオティックを実践している人のことを、マクロビアン、「穀菜人(こくさいじん)」と呼ぶこともある。(Wikipediaより引用)

 

玄米や全粒粉の小麦を主食とし、砂糖や肉卵、乳製品を基本的には用いないというマクロビオティック。日本発祥で海外で展開し、日本に逆輸入されて拡がりをみせているようだ。

 

菜食主義のリスクは?

 

「野菜や果物が健康に良い」というイメージは、洋の東西を問わず一般的なものだろう。欧米で最も読まれているのは、多分この本だろうか?

 

フィット・フォー・ライフ ——健康長寿には「不滅の原則」があった!
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 牛乳は人間の為に作られたものではない

 

といった記述が散見され、やや思想的な背景を感じるものの、栄養学をとりまく色々なことが紹介されているので興味のある方は一度目を通されては如何だろうか。

 

さて、自分の身の回りに(患者さん含め)マクロビオティックやヴィーガニズムに厳格に取り組んでいる人がいないので、彼らの健康状態についてはちょっと分からない。ただ栄養面での偏り、特に

 

 ビタミンB群や鉄分が不足しないだろうか?

 

という心配はある。

 

菜食主義者は、主に穀類からの糖質摂取がメインカロリー源になると思われる。

 

全粒で穀物を摂取した場合、胚芽にビタミンB1はしっかり含まれている。しかし、同時に摂取する糖質(米や小麦)の代謝を十分に賄える程のビタミン量なのだろうか?また、B1以外のB群まで補うには、菜食のみでは厳しいのではないだろうか?

 

糖質を摂取すると、まず「解糖系」という代謝経路で糖質はピルビン酸に変換される。ピルビン酸がアセチルCoAに変換され「クエン酸回路~電子伝達系」という代謝経路を回ることによって、効率よいエネルギー変換が行われる。

 

このピルビン酸→アセチルCoAという変換にはビタミンB1が必須である。ここが滞ってしまったら、ピルビン酸は嫌気代謝により乳酸に変換されてしまう。そして乳酸の蓄積は身体の「冷え」に繋がる。

 

  • ガン患者の体温が低いこと
  • ガン細胞のエネルギー代謝が嫌気代謝であること

 

この知識は重要である。乳酸の蓄積は、人体にとって大きなリスクとなる

 

また、クエン酸回路~電子伝達系においては鉄分やB1以外のビタミンB群が大いに関与している。

 

結局、糖質がメインのカロリー源である限りは、ビタミンB群と鉄分がどうしても不足気味になるように思う。この点において、菜食主義は効率が悪いのではないだろうか?菜食主義を貫くのであれば、サプリメントの適切な摂取は必須と考える。

 

その他、タンパク質は大豆で補うとして、必須脂肪酸はエゴマや亜麻仁などをかなり意識して摂取しない限り、どうしてもω6に偏り気味になるように思う。

 

食生活は文化であるが故に、思想やイデオロギーが入り込みやすいのだろうか?

 

ヴィーガニズムにしろマクロビオティックにしろ、その背景にはある種の思想やイデオロギーを感じる。

 

勿論、緩やかに取り入れて楽しんでいる人達の方が多いのだろうが、「嵌まり」すぎると、自分と違う思想を持つ人達への寛容さを失ってしまうのでご用心。

 

最近では「糖質制限」に嵌まりすぎて、糖質制限をしていない他者に攻撃的になりすぎている人達も見かけるようになった。

 

重要なのは

 

 人体、特に脳が利用できるエネルギー源はブドウ糖だけなので、摂取カロリーの半分以上は主食(穀物)でとらないとダメです!

 

といった、栄養学的に誤った知識を少しずつ排除していくことだと思う。「バランス良く!」という言葉を安易に信じてはいけない。

 

この地道な積み重ねの先に、食事における最適なバランスはあるのだろう。

 

ただし、その最適解もあくまでも個々で違うはずである。そして、違うからこそ探求しがいがあり、またこれだけ話題になるのだと思う。

 

最後に。坂本龍一さんがいつまでも元気で素敵な音楽を創り続けてくれますように。

 

 

 

(追記)令和5年4月7日

3月28日に亡くなられた。
ご冥福をお祈り申し上げます。

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