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鹿児島認知症ブログ

鹿児島でコウノメソッドや糖質制限を実践している脳神経外科医のブログ

疑わなければ気づけない。気づけなければ、改善には繋がらない。

認知症の症例 認知症の症例-特発性正常圧水頭症(iNPH)

 

ある診療所から相談のあった患者さんを紹介。

 

疑わなければ気づけないし、気づけなければ改善には繋がらない。

 

70代男性 特発性正常圧水頭症(iNPH)

 

徐々に物忘れやイライラを自覚するようになったが、年齢の影響であろうと様子をみていた。また、その前から頻尿と歩きにくさも気になっていた。

 

その後、予定されていた脊椎の手術を受けられ、悩みであった歩行障害はかなり改善した。しかし、程なくして歩行状態は徐々に悪化していった。

 

術後に頻尿の改善はなく、そのうちにイライラすると奥さんを怒鳴りつけたりするようになった(元々温和な方であったとのこと)。

 

本人も自覚があるため悩み、近医を受診。うつや初期認知症の可能性を指摘された。この時の長谷川式テストは28/30であった。

 

アリセプト3mgが開始となり、「少しいいかな?」という本人の感想はあったが、念のためにと考えた診療所のDrから当院を紹介され、受診となった。

 

入室時の歩行は、小刻みではないもののゆっくりで、わずかにワイドベース。

 

前医で長谷川式テストを受けていたので、当院では敢えて施行せずに問診重視で話を聞いた。会話をしていて感じたのは、非常に知的レベルの高い方だということ。客観的に自身の不調を説明出来、また理解力も優れていた。

 

会話の中で気になったのは以下。

 

  1. 頻尿と歩行障害を自覚するようになったのは、物忘れの自覚よりもだいぶ前。
  2. 脊椎障害の手術後すぐに、歩行は良くなった。しかし、1ヶ月ほどして徐々に術前の状態に戻っていった。

 

頻尿と歩行障害とくると、疑うべきは当然「正常圧水頭症」の可能性。そして、正常圧水頭症を疑った時に注目するのは①認知症症状②頻尿、失禁③歩行障害、の3徴である。ちなみに、3つ揃わなければいけないということはない。

 

 

www.ninchi-shou.com

 

 

この方は、②と③に該当するようである。しかし、①はどうだろうか?

 

長谷川式テストが28/30の方に認知症症状があるとは考えにくい。ただし、満点でも認知症というケースはある。

 

 

www.ninchi-shou.com

 

 

この方は元々非常に知的レベルが高いため、2点の失点でも他とは違う意味合いがあるかもしれない。ということで、①、②、③の3徴が揃った(かもしれない)正常圧水頭症を疑う必要が出てきた。

 

意図せぬタップテストで症状が一時改善したのか?

 

次に考えたのが、脊椎の手術で一時的に歩行が改善したのは何故か?ということ。

 

頸椎手術であったらしいが、恐らく頸椎椎間板ヘルニアかOPLL(後縦靱帯骨化症)であろう。もし頚髄腫瘍であれば、腫瘍の手術と表現できる方であろうから、そのように推測した。

 

脊髄への圧迫を手術で取り除くことで歩行が改善したのであれば、1ヶ月という短期間で症状が元に戻ってしまうことは考えにくい*1。術後の画像では、脊髄への圧迫が解除されているのをご本人も確認したとのことである。ということは、現在お困りの症状の原因については、脊髄以外を考えなくてはならない

 

自分が考えたのは以下。

 

  • 手術中に硬膜(脊髄を包んでいる硬い膜)から一時的に髄液が流出した*2。それが結果的には「意図せぬタップテスト*3」となり、水頭症による歩行困難が改善したのではないだろうか?
  • そして時間の経過に伴って徐々に髄液が溜まっていった結果、歩行状態が術前に戻ってしまったのではないだろうか?

 

つじつまが合うように思うが、如何だろうか。

 

頸椎の手術を受けた病院に近日検査入院予定とのことであったので、その病院宛てに以下のような紹介状を作成した。

 

  先日貴院で頸椎手術を受けられた○○さんですが、物忘れの相談で当院を受診されました。頭部画像では典型的DESH所見は認めませんが、経過と症状から特発性正常圧水頭症の可能性を考えました。

この度貴院に検査入院予定とお聞きしました。入院中にタップテストをご検討願えませんでしょうか?どうぞ宜しくお願いいたします。

 

そして先日連絡があったのだが、タップテストをしてもらい、その後自覚的他覚的に症状が改善しているとのこと。つまり、正常圧水頭症の可能性が極めて高いということである。

 

しばらく様子をみてシャント手術を検討するとのことであったので、手術が上手くいくことを願おう。*4

 

ある1枚の頭部CTにヒントあり?

 

今回のケースは、正常圧水頭症に普段から携わっている医師であれば、比較的簡単に水頭症の存在に気づけたと思う。ただ、脊椎手術の後に一時的に改善があった、という点をどのように想像するかでは意見が分かれるだろう。

 

頸椎の画像は確認出来なかったので、この方の頚椎症がどの程度のものであったかは分からない。しかし、もし上記の自分の想像が当たっているのであれば、この方は頸椎手術を受ける必要(緊急性)は無かったかもしれない。*5

 

最後にこの方の頭部CT画像を複数枚提示して今回は終了。自分は、ある1スライスが目に止まったが皆さんはどうであろうか?微妙だが重要な所見が1枚だけに隠れている。

 

 

画像では分からない特発性正常圧水頭症

ほぼ正常だが、わずかに脳溝不均等拡大あり

画像は正常だが実際には水頭症

 

 

*1:1ヶ月の短期間で再度圧迫が強まることは通常考えにくい。

*2:このような場合、通常は硬膜損傷面のsealingを行うことで持続性髄液漏の事態は回避出来る。

*3:タップテストとは、腰椎を穿刺して髄液を抜く検査である。

*4:当然だが、アリセプトは中止になっていた。副作用が出ていなかったのはひとまず幸い。

*5:ただし、やってみないと分からないことはあるもので、それは水頭症のシャント手術においても言えることである。例えば、シャント手術を受けたけれども思ったより改善が得られなかった、というような。