鹿児島認知症ブログ

鹿児島でコウノメソッドや糖質制限を実践している脳神経外科医のブログ

寄り添い、見届ける。

 

散歩中に転んで頭を怪我した方が救急車で運ばれてきた。

 

傷の処置をしながら何気なく普段の様子を聞いたところ、その方は「最近転びやすくなった。トイレが間に合わないことがある」と仰った。

 

怪我は軽かったので最初はそのつもりはなかったのだが、話を聞き「ひょっとして?」と思い直して撮影した頭部CTは、典型的な水頭症の画像所見を呈していた。

 

その方と奥さんに「転びやすさやトイレが近くなったのは、水頭症からだと思います。」と説明し、LPシャント術を受けて頂いた。

 

その結果。

 

すり足歩行が改善したので安心して日々の散歩が出来るようになり、機敏な反応が衰えたと感じ諦めかけていた車の運転も、無事に免許更新することが出来た。頻尿失禁の煩わしさから泣く泣く着用していたオムツを外すことも出来た。

 

NSさんと初めて会って、そろそろ4年になる。

 

ガンが発覚

 

昨年の3月にシャント術後の定期フォローを行い、シャントチューブとバルブにトラブルがないことを確認。長谷川式テストは30点満点の28点で、歩行や排泄を初めとした日常生活は完全に自立していた。

 

元気に過ごせていることを互いに喜び合い、半年後の再会を期して別れた1ヶ月後、NSさんの娘さんがお一人で来院された。

 

「先生、父にガンが見つかりました。」

 

咀嚼嚥下時の痛みを感じたNSさんが耳鼻科を受診したところ、中咽頭癌を患っていることが発覚。ガンは既に舌や周囲リンパ節へ浸潤していた。

 

三大療法(手術・抗がん剤・放射線治療)を行っても予後は厳しく、平成30年の春を迎えることは難しいだろう」

 

担当した耳鼻科医は、NSさんとご家族にそう告げた。

 

頭脳明晰なNSさんが下した判断は、「だったら僕は何もしない。十分生きた。このままでいいよ。」というものだった。

 

齢80を越えるNSさんなので、この判断はご家族にも耳鼻科医にも理解できた。

 

「父と母は、先生に水頭症に気づいてもらい、治療を受けることが出来て本当に良かったと、常日頃から言っていました。諦めかけていた色々なことを続けられるようになり、とても喜んでいました。このようなことになったのは残念ですが、先生によろしくお伝え下さいと父から言づてされて、今日は伺いました。」

 

娘さんからこの言葉を聞いてしばし自分は考え、そしてこう言った。

 

「ビタミンCの点滴をしてみませんか?」

 

VKTを実践し1年が経過

 

それから1年以上経ち、「そこまで持たないだろう」と言われていた今年の春をNSさんは迎えている。

 

体調は幸いとても良い。ガンが発覚した頃と比べても、むしろ良いと言える。

 

娘さんが持ち帰った当方の提案を聞いたNSさんは、すぐに奥さんと一緒に外来に来てくれた。その表情には、諦めの色はなかった。

 

ガン患者における糖質制限の意義と、高ケトン状態で高濃度ビタミンC点滴を行う意義、いずれも明晰な頭脳で素早く理解し、実践に入ってくれた。

 

週に1回のペースでビタミンC点滴を行い、その都度測定する総ケトン濃度は常に1000〜2000μmol/Lを維持。

 

肥満だった体型は、食欲を維持したまま7〜8kg減量できた。 ついでと言ってはアレだが、NSさんと一緒に奥さんも糖質制限をしているうちに、脂質異常症で内服していたスタチンを卒業し、6台後半だったHbA1cが6.3未満に低下した。

 

このまま、どこまでいけるかは分からない。

 

今のところ、嚥下障害悪化や気道閉塞徴候は認めないし、数回行ったCRP測定では常に0.3未満と炎症も落ち着いている。食欲もある。

 

ただ、1年前の画像と比較すると、腫瘍はゆっくりではあるが確実に増大している。*1

 

「先生と会えたから、今ぼくはこうして生きています。何の悔いもないです。」

 

と言うNSさんの目は、こちらが面映ゆく感じるほどキラキラしている。

 

NSさんと奥さんに寄り添い、見届ける。

 

やるべき事は、シンプルだ。

 

寄り添う

Photo by Joey Yu on Unsplash

 

www.ninchi-shou.com

 

*1:「標準療法は受けない」とNSさんが決心して以降、耳鼻科担当医は画像フォローを積極的には行っていない。これは致し方ないだろう。ただ腫瘍が大きくなっていくのを確認するだけの検査を、積極的に行いたい医者などいない。