鹿児島認知症ブログ

鹿児島でコウノメソッドや糖質制限を実践している脳神経外科医のブログ

【書評】『うつ・パニックは「鉄」不足が原因だった』を読んで。

 

書評に名を借りた、いつもの自分語り。

 

素養があれば、あっという間に読める。素養がなければ、眼からウロコの連続だろう。

 

うつ・パニックは「鉄」不足が原因だった

 

質的栄養失調の影響は、うつやパニック障害にとどまらない

 

医師は、自分が専門とする領域から世界を展望する(患者さんを診る)。

 

精神科医師である藤川先生は、主にうつやパニック障害といった疾患を子細に観察することで、その背景に多くの鉄・タンパク欠乏をきたしている患者がいることに気づき、そのことを世の人々と共有するために今回の書籍を出版したと思われる。

 

では、うつやパニック障害を診ている医師であれば誰でも気づけるかと言われたら、当たり前だがそのようなことはない。世の中の医者がみな、「優れた」観察者というわけではない。

 

優れた観察を行うためには、以下の2点が必要だと思う。

 

  • 優れた直観力
  • 優れた理論的背景

 

直観力を養うためには、ひとまず多くの患者さんを診ることは大事であろうが、その背景に優れた理論があれば、さらに直観力は磨かれやすいように思う。

 

藤川先生の理論的背景とは、三石巌の分子栄養学とA・HofferやL・Paulingが提唱した分子整合医学である。

 

三石巌とA・ホッファー

 

これらは自分も勉強している分野であるが、知った順番はHoffer→三石巌であった。

 

今のところ、これまでの自分の臨床における3大インパクトは、

 

  1. 糖質制限
  2. コウノメソッド*1
  3. 三石理論

 

である。これらを知る前と後とで、頭痛やめまい、生活習慣病、認知症の治療成績は大きく変わった。

 

特に1の糖質制限の影響が大きい。

 

まず自分自身で糖質制限を実践し、その効果を体感できた多くの医師が、臨床で糖質制限を実践している。

 

藤川先生もまさに、そのお一人である。「医師自身の効果の体感」というものは、机上の勉強や患者さんから得た経験で成り立つ医師の外来方針を一瞬で変えてしまう力を持つ。

 

自分の場合、糖質制限を知ることによって、これまで自分が"常識"としていた多くの知識の誤りや*2治療するうえで利用してきた理論的基盤が非常に脆弱であることに気づいたので、その理論的基盤をHofferや三石巌の理論で補強しなおし、新たな知識を積み重ねる作業を行っている。

 

ちなみに、理論的脆弱性をガイドラインで補強しようとは思わなかったし、今でも思っていない。

 

ガイドラインで推奨されるものとは「あるデザインに沿って試験が行われ、それが統計学的に処理されてアウトプットされた、確からしいもの」に過ぎず、理論体系の構築に用いるものではないと思っている(個人的考え)。

 

蓄積されてきたガイドラインを尊重はするが、ガイドライン遵守一辺倒になると患者さんを見抜く直観力が衰えてしまうので気をつけている。

 

www.ninchi-shou.com

 

実用的な書に共通してみられる、出し惜しみのなさが魅力

 

藤川先生が今回の著書で述べていることは、専門科を問わず全ての医師が抑えておいた方がよいことだと思う。それほど、臨床における質的栄養失調の根は深い。我々医師は栄養学というものを根本から学び、臨床に反映させる必要がある。

 

そしてそれは従来の栄養学*3ではなく、分子栄養学が望ましいことは言うまでもない。

 

www.ninchi-shou.com

 

今回の著書を読んで「エビデンスが~」と言う医師がいるであろうことは想像に難くないが、疑義を呈したいなら自分達の外来でフェリチンやBUNをチェックして検証してみたらよい。ただの採血検査である。

 

自分は2年ほど前から外来で鉄タンパク欠乏の検証をし始め、臨床に反映させ、治療成績を向上させてきた。それらの一部は、上記の様に当ブログでも公開している。

 

ちなみに、鉄の内服による鉄過剰を懸念する向きがあるようだが、少なくとも自分の経験(数百人)では、内服で鉄過剰症をきたした方は、把握出来ている限り一人もいない。

 

鉄タンパク欠乏を数値上是正しても症状の改善がない方も多く経験しているが、改善がない場合、「本当に充分に栄養が行き渡ったのか?鉄タンパク以外の何かを見落としていないか?」ということを考えるようにしている。大体、何かを見落としているものである。

 

従来の治療法で十分に成績を上げていると思う医師は別として、自分の治療成績に不満がある医師なら、鉄タンパク欠乏の検証をしてみる価値は十分にあると思う。

 

「質的栄養失調」に関する必要にして十分な知識は、この書籍を読むことで得ることが出来るだろう。あとは各自で試行錯誤しながら「自分にとっての最適で充分な栄養」を考えていけばよい。

 

鉄タンパク欠乏に起因する慢性疾患で悩んでいる多くの女性がいることを、自分は外来を通して知った。

 

自覚的な体調不良の有無は関係なく、世の多くの女性にこの本を読んで欲しいと願う。

 

 

うつ・パニックは「鉄」不足が原因だった (光文社新書)
藤川 徳美
光文社 (2017-07-19)
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*1:コウノメソッドは経験則を重視した経験論的体系で、分子栄養学はパーフェクト・コーディング理論やビタミン・カスケード理論といった自然科学的理論体系。自分は、経験則と自然科学的理論、いずれも重視したいと思っている。

*2:ただのケトーシスをケトアシドーシスと勘違いして危険視していたことetc

*3:『糖尿病にはカロリー制限を』や、『糖質50~60%、脂質タンパク質40%の配分で』といった栄養学のこと。