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鹿児島認知症ブログ

鹿児島でコウノメソッドや糖質制限を実践している脳神経外科医のブログ

鉄分の過剰摂取で妊娠糖尿病のリスクが増大する?

 

CareNetで見つけた記事を読んで、色々と考えてみた。

 

鉄分の過剰摂取で妊娠糖尿病リスクが増加する|医師・医療従事者向け医学情報・医療ニュースならケアネット

 

鉄分過剰の女性は、鉄が少ない女性より妊娠糖尿病のリスクが2倍以上?

 

  妊娠中期に最も鉄分過剰だった女性では、鉄分が最も少なかった女性に比べて妊娠糖尿病の発症リスクが2倍以上であった。(同記事内より引用)

 

記事には元論文へのリンクは貼っていなかったので捜してみたところ、以下がヒット。

 

A longitudinal study of iron status during pregnancy and the risk of gestational diabetes: findings from a prospective, multiracial cohort | SpringerLink

 

Abstractのみだが、ざっと読んで適当和訳を付けてみた。

 

この研究の目的は以下。

 

【Aims/hypothesis】The aim of this study was to prospectively and longitudinally investigate maternal iron status during early to mid-pregnancy, and subsequent risk of gestational diabetes mellitus (GDM), using a comprehensive panel of conventional and novel iron biomarkers.

 

"妊娠初期から中期までの母胎の鉄状態と妊娠糖尿病(以下GDM)のリスクを、鉄のバイオマーカーを用いて前向き且つ縦断的に調査した。"

 

【Methods】A case–control study of 107 women with GDM and 214 controls (matched on age, race/ethnicity and gestational week during blood collection) was conducted within the the Eunice Kennedy Shriver National Institute of Child Health and Human Development Fetal Growth Studies–Singleton Cohort (2009–2013), a prospective and multiracial pregnancy cohort. Plasma hepcidin, ferritin and soluble transferrin receptor (sTfR) were measured and sTfR:ferritin ratio was derived, twice before GDM diagnosis (gestational weeks 10–14 and 15–26) and at weeks 23–31 and 33–39. GDM diagnosis was ascertained from medical records. Adjusted ORs (aORs) for GDM were estimated using conditional logistic regression analysis, adjusting for demographics, prepregnancy BMI and other major risk factors.

 

"107人のGDM患者と、妊娠糖尿病ではない214人の対照群を比較。ヘプシジン、フェリチン、トランスフェリン受容体を調べた。ロジスティック解析を用いて妊娠前のBMIや主要リスク因子は調整。"

 

【Results】Hepcidin concentrations during weeks 15–26 were 16% higher among women with GDM vs controls (median 6.4 vs 5.5 ng/ml; p = 0.02 ), and were positively associated with GDM risk; the aOR (95% CI) for highest vs lowest quartile was 2.61 (1.07, 6.36). Ferritin levels were also positively associated with GDM risk; the aOR (95% CI) for highest vs lowest quartile was 2.43 (1.12, 5.28) at weeks 10–14 and 3.95 (1.38, 11.30) at weeks 15–26. The sTfR:ferritin ratio was inversely related to GDM risk; the aOR (95% CI) for highest vs lowest quartile was 0.33 (0.14, 0.80) at weeks 10–14 and 0.15 (0.05, 0.48) at weeks 15–26.

 

"妊娠中期のヘプシジン高値は、GDMリスクが2.61倍。妊娠初期のフェリチン高値は、GDMリスク2.43倍。妊娠中期のフェリチン高値は、GDMリスク3.95倍。トランスフェリン受容体:フェリチン比はGDMリスクと反比例。いずれも、上位1/4群と下位1/4群の比較。

 

【Conclusions/interpretation】Our findings suggest that elevated iron stores may be involved in the development of GDM from as early as the first trimester. This raises potential concerns for the recommendation of routine iron supplementation among iron-replete pregnant women.

 

"過剰な鉄の蓄積は、妊娠初期からのGDM発症に関与しているかもしれない。妊婦に対する型どおりの鉄補充の推奨には、懸念を提起する。"

 

原著にあたってみないと何とも分からないが・・・

 

妊娠と鉄、タンパク質などについては過去記事をご参考までに置いておきます。

 

www.ninchi-shou.com

 

 

www.ninchi-shou.com

 

 

論文原著には詳しく書いてあるのだろうが、Abstractを読んで疑問に思ったのは以下の2点。

 

  1. 主要リスク因子は調整済みとのことだが、栄養状態の評価は?
  2. フェリチンの高値と低値とは、数値的にどの程度?

 

妊娠糖尿病の主要リスク因子

 

GDM主要リスク因子を調べてみたら、以下を見つけた。

 

妊娠糖尿病の主要リスク因子

 

高リスク群とは

 

  • 高度肥満
  • 1親等以内の糖尿病家族歴
  • 糖尿病の既往
  • 尿糖陽性

 

これらを指すようだ。

 

これらの因子は調整済みということなのだろうが、では各自が妊娠前にどのような栄養状態であったか、そして妊娠中にどのような栄養をとっていたのかまでは、Abstractでは分からなかった。

 

妊娠中は程度の差こそあれ、みな耐糖能には異常を来す。それがより顕著な形で認められるのが妊娠糖尿病(GDM)である。

 

糖質を含む様々な栄養の摂取状況まで交絡因子として調整した研究なのかどうか。鉄のバイオマーカーの過多だけでは、GDMのリスクを評価することは困難だと思う。

 

フェリチンの高値と低値とは、数値的にどの程度?

 

女性におけるフェリチンの基準範囲とは3.6~114ng/ml(SRL総合検査案内より)なので、どの程度からフェリチンを高い、低いと考えるかには、議論がある。

 

もしフェリチンの高値が、基準値上限を遙かに超えた200や300といった数字であれば、過剰な鉄が肝臓や膵臓に沈着し、そのことによって肝硬変や糖尿病を発症するということはある。ただしそれは、ヘモクロマトーシスという疾患である。

 

原発性のヘモクロマトーシスは、常染色体劣性遺伝の病気である。

 

難病情報センター | 血液・凝固系疾患分野 ヘモクロマトーシス(平成22年度)

 

頻回の輸血やフェジン(鉄剤)注射などにより惹起される続発性のヘモクロマトーシスは、これまでに数人見たことがある。

 

その他、鉄剤の過剰摂取や長年の大量飲酒でヘモクロマトーシスを起こすことがあるらしい。「らしい」と書いたのは、自分の実臨床ではそのような生活習慣病的なヘモクロマトーシスを起こした人を見たことがないからである。実際には結構な数がいるのかどうか、自分にはちょっと分からない。肝臓専門医や透析医は多く見ているのかもしれない。

 

疑問に思うのは、「生活習慣病としてヘモクロマトーシスを起こしてしまう女性が、果たして妊娠できるのか?」ということである。恐らくだが、フェリチン高値といっても基準範囲を大きく超えるものではないと推測する。

 

ところで、論文中には妊娠中期のヘプシジン高値はGDMのリスクになるとの記載があった。

 

ヘプシジンとは、腸管からの鉄の吸収を抑制するタンパク質で、肝臓で産生される。ちなみに、ヘプシジンに拮抗するのはフェルポルチン。

 

鉄が過剰になるとヘプシジンが産生され、腸管からの鉄の吸収を抑制し、フェリチンから血清鉄への鉄受け渡しを抑制する。よって、フェリチン高値はヘプシジン高値と相関する。

 

しかし、生理的な(経口摂取による)鉄過剰以外にヘプシジンが上昇する原因がもうひとつある。それは「炎症」。炎症とは免疫反応である。つまり、「異物」を排除しようとする生体反応である。身体のどこかで炎症が起きると、炎症性サイトカインのIL-6が産生され、IL-6はヘプシジンの産生を増加させる。

 

例えばガンは、生体にとって異物である。免疫がガンを攻撃すると、そこには炎症が起きる。すると、ヘプシジンが産生され鉄の吸収抑制、利用効率低下が起きる。免疫反応による炎症でガンや正常組織が破壊されると、そこに含まれていたフェリチンが血中に放出され、高値となる。同様のことは、リウマチなどの膠原病でも起きている。

 

そして、過剰な糖質摂取もまた、炎症を起こす原因となる

 

  • 過剰な糖質が体内のタンパク質と結合してAGEs(最終糖化産物)を発生させる。AGEsは生体にとっては異物であり、免疫反応を惹起する。
  • 過剰な糖質はインスリンによって中性脂肪に変換され、中性脂肪は肥満細胞に蓄積される。肥満細胞は、各種の炎症性メディエーターを放出する。

 

このようなことが、過剰な糖質摂取により体内で起きている。

 

妊娠初期からフェリチンが高値であった妊婦は、単純に鉄の摂りすぎだったのだろうか?それとも、何らかの炎症によってヘプシジンが産生され、効率的に血清鉄への鉄受け渡しが出来なくなり、免疫で組織が破壊され、その結果フェリチンが上昇したのだろうか?

 

鉄は本来、過剰にならないように厳密に吸収がコントロールされているミネラルである。食事やサプリメントで数十mg摂取しても、腸管から吸収されるのは一日に1mgと言われている。

 

そのルールを崩してしまうのが、慢性的な炎症である。

 

今回の研究結果のAbstractを読んで思ったことをまとめる。

 

  • 妊娠糖尿病になる人は、妊娠前から普段の食生活の影響(糖質の過剰摂取)で、慢性的な炎症が身体に起きていたのではないか?フェリチンやヘプシジンの高値は、それを反映しているに過ぎないのではないか?
  • 慢性炎症(≒フェリチン高値)の状態にある人は、耐糖能異常≒糖尿病をきたしやすい状態にあるのではないか?

 

フェリチン過剰の状態で妊娠した人は、既に身体に何らかの炎症が起きているのではないだろうか?妊娠可能な年齢の女性がガンや膠原病に罹患する可能性は低く、従って慢性炎症の理由の大方は過剰な糖質摂取によるものではないだろうか?、と推測する。

 

既に鉄過剰になっている妊婦を更なる鉄過剰にしないためには、著者等が延べるようにルーチンとしての妊婦への鉄投与は見直すべきだろうが、その為には妊娠がわかった時点の採血項目に、末血のみではなくフェリチンを入れるべきであろうし、出来ればIR(血中インスリン濃度)も調べてインスリン抵抗性をチェック出来たら、尚のことよい。

 


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