鹿児島認知症ブログ

鹿児島でコウノメソッドや糖質制限を実践している脳神経外科医のブログ

「医師の働き方改革」に対する雑感。

 

長時間労働の定義は、wikipediaによると

 

  • 就業時間が週40時間・・労働基準法第32条に定める1週間の上限労働時間であり、1日8時間で月間では160時間になる。これ以上働くと時間外労働となり、賃金の割増率が上がり、時間外労働の基準点となる。
  • 週間就業時間が60時間以上・・総務省「労働力調査」では「雇用者のうち週間就業時間が60時間以上の従業者の割合の推移」の項目があり、長時間労働を表す指標の一つとなっている。
  • 月45時間以上の時間外労働・・「労働基準法36条1項の協定で定める労働時間の延長の限度等に関する基準」(平成21年5月29日厚生労働省告示316号)によれば、原則として三六協定による労働時間の延長の上限が月45時間となっている(月間160時間に足すと、トータルで月間205時間労働になる)。
  • 月60時間以上の時間外労働・・割増賃金の割増率が引き上げられる。また労使協定に定めることにより、代替休暇の取得が可能となる。
  • 月80時間以上の時間外労働・・いわゆる「過労死ライン」と呼ばれる。脳・心臓疾患の場合、発症前直近の2~6ヶ月間の平均で80時間を超える時間外労働をしている場合には、その業務と発症の関連性が強いと判断され、労働基準監督署が業務災害を認定する可能性が高くなる(平成22年5月7日基発0507第3号)。
  • 月100時間以上の時間外労働・・過労死や過労自殺の前月に100時間を超える時間外労働をしていた場合は、その業務と発症の関連性があると判定され、労働災害が認定される。

 

このようになっている。

 

標榜科によって多少の違いはあるだろうが、医師の多くは長時間労働者である。「過労死ライン」とされる月80時間以上の時間外労働を黙々とこなしながら、日本の医療を支えている。

 

昨今、「医師の働き方改革」ということが叫ばれ始めた。

 

医師の働き方改革で優先すべきは「睡眠時間確保」:日経メディカル

 

医師の側から声を挙げることは重要だと思う。

 

睡眠時間を削って仕事に追われる医師

 

厚生労働省の「医師の働き方改革に関する検討会」が11月9日に開催され、厚生労働行政推進調査事業費「病院勤務医の勤務実態に関する研究」分担研究者である順天堂大学公衆衛生学講座教授の谷川武氏へのヒアリングが行われた。週の労働時間がより長いグループでも、1日6時間以上の睡眠時間を確保できていればストレス反応・抑うつ度に有意差はなかったことから谷川氏は、労働時間の制限よりも、睡眠時間の確保に留意すべきで、「十分な睡眠のためには、連続勤務時間制限と勤務間インターバルの規制を行う、もしくは当直時間帯などでの睡眠時間を確保することが必要だ」と指摘した。

 谷川氏は、米国の21~38歳の健康成人48人を対象に睡眠制限と持続的な注意力との関係を調べた試験を紹介。慢性的な睡眠不足の状態にある場合、たとえ眠気を感じなくても、実は客観的な覚醒度(持続的な注意力)は低下し続けることを説明した。例えば、4時間未満睡眠を2週間ほど続けると、全く眠らず2日を過ごした人と同じ程度まで持続的注意力が低下する。一方、全く睡眠を取らない場合は強い眠気を感じるのに対し、4時間未満や6時間未満の睡眠の場合には主観的な眠気は強くならず、軽い眠気を感じている状態だという。(上記リンク先より引用。赤文字強調は筆者によるもの。)

 

現在自分は40代だが、30代半ば頃から

 

「今の仕事スタイルで、いつまでやっていけるのだろう・・・?」

 

という、漠然とした不安を感じるようになった。

 

患者ニーズに応え続けるということは、医師が自分自身を持ちだし続けるということである。

 

medical.nikkeibp.co.jp

 

病棟の入院患者が夜中に急変すれば駆けつけ、術後の状態が悪い患者には一晩中付き添い、常時救急患者に対応する。月に複数回当直をし、眠れなかった当直明けでも予定手術をこなす。

 

外来や手術を終えて病棟に戻ると、患者家族への説明や看護師への指示出し、カルテ記載に手術記録、各種書類が山積みで待っている。

 

医師にとって月の残業時間100時間オーバーというのは普通のことであり、200時間も稀ではない。

 

自分が30才前後の頃は夜討ち朝駆けの生活で、月の残業時間200時間がザラという一時期があった。家には着替えと風呂に入るためにしか帰っておらず、病院で寝泊まりしているような状況だった。

 

平均睡眠時間3~4時間、休みなしで働けたのはひとえに若かったからであり、また周囲のスタッフに恵まれたからとしかいいようがない。条件ひとつ間違えば、過労死コースだったに違いない。

 

 

www.ninchi-shou.com

 

 

医師という人種は大抵、自分達の仕事が最初から"持ち出し上等"の仕事であるという自覚があるため、自身の疲弊も「社会的要請に応えるため仕方が無いこと」として無理矢理適応しようとする傾向がある。ストレス耐性がなければ容易にバーンアウトする職種、それが医師である。

 

 さらに谷川氏はタイムスタディ調査において睡眠時間・就労時間と高ストレス者・抑うつの関連を調べた結果を紹介。ストレス反応・抑うつ度は、労働時間とは有意な関連は確認されず、睡眠時間(6時間以上)と有意に関連したことを報告した。具体的には、「就労時間が週80時間以上かつ睡眠時間が6時間以上群」の抑うつリスクは、「就労時間が週80時間未満かつ睡眠時間が6時間以上群」と比べて1.92倍で有意差は認められなかったが、「就労時間が週80時間未満かつ睡眠時間が6時間未満群」は3.94倍、「就労時間が週80時間以上かつ睡眠時間が6時間未満群」では4.13倍といずれも有意差が確認された(P<0.05、図1右)。この結果について、谷川氏は「たとえ週80時間以上働いていても、6時間以上の睡眠時間を確保できていれば有意差はなかった。労働時間制限よりも、睡眠時間の確保に留意すべきと考えられる」と指摘した。労働時間と抑うつ障害との関連に関するシステマティック・レビューでも、労働時間と抑うつ障害との関連は明確ではなく、長時間労働が抑うつ障害に及ぼす影響は確定的ではなく、無視できないとしても小さいと考えられているという。(上記リンク先より引用。赤文字強調は筆者によるもの。)

 

 睡眠時間の確保が重要なことに異論はない。

 

前日のアルコールを残したままフライトしようとするパイロットは当然糾弾されてしかるべきだが、前日寝ていない医師が手術に入ることは咎められることがない現状、「医師に睡眠の確保を!」という声は大いに挙げて頂きたい。

 

開業して良かったと思えることは複数あるが、その中でも睡眠時間が確保出来るようになったことが、自分にとって開業の最大のメリットだったと言っても過言ではないぐらい睡眠は大事だと思っている。*1

 

以前働いていた病院で、「定時になったので帰りまーす」と手術介助の看護師が帰ったことがあった。その後に交代の看護師が入ることはなく、手術室にいた他の医師(自分)が手術介助の代行をすることで事なきを得た。

 

医師が「定時なので帰りまーす」をすると、上記のような状況だと最悪患者は死ぬかもしれない。

 

5時間の予定手術が7~8時間かかることはあるし、外来で患者の話を聴き続けた結果、外来終了時間を大幅に過ぎてしまうこともある。*2「医師の労働時間規制を」という声も挙がっているようだが、杓子定規な労働時間管理を医師に適用しようとすれば、困るのは患者になるので余り賛成できない。

 

個人的な意見だが、医師の働き方にまつわる諸問題は、結局は「応召義務」をどうするかにかかっていると思う。

 

診療に従事する医師は、診察治療の求があつた場合には、正当な事由がなければ、これを拒んではならない。 --医師法第19条第1項

医師法第19条にいう「正当な事由」のある場合とは、医師の不在又は病気等により事実上診療が不可能な場合に限られるのであって、患者の再三の求めにもかかわらず、単に軽度の疲労の程度をもってこれを拒絶することは、第19条の義務違反を構成する(昭和30年8月12日医収第755号厚生省医務局医務課長回答「所謂医師の応招義務について」)。(Wikipediaより引用。赤文字強調は筆者によるもの。)

 

病気にでもならない限り、どれだけ疲れていても医師は患者を診る義務がある。

 

医師とは誇りある仕事だという自負が自分にはあるが、その自負の多くは「自分は応召義務に応えてきた」という想いに依拠している。しかし、「応えてきた」という想いと同時に「縛られてきた」という想いもまた、持っている。*3

 

誇りを持って応召義務に応えつつも、それに縛られ疲弊した医師達が支えてきた日本の医療制度が今のように疲弊してしまったのは、当然なのかもしれない。

 

 

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オペ室で寝る医師

Koreabooより引用



*1:今は、22時頃に就寝して朝4時30分に起きているので6時間30分は眠れている。ただし、仕事モードの時間も含めれば、開業した今でも結局は毎日12時間は働いている。睡眠時間が確保されただけで、医師で在り続ける限り世間的な意味での長時間労働者であることは生涯変わらないのだろう。

*2:話を聞いて貰った患者は喜び、待たされた他の患者はイライラする。時間を超過した医師は疲弊する。

*3:応召義務がなくなると、故意にサボる医師が出てくるかもしれないという懸念はある。