鹿児島認知症ブログ

鹿児島でコウノメソッドや糖質制限を実践している脳神経外科医のブログ

娘さんからの一報で、手術を回避出来た男性。

 

先日、ある患者さんの娘さんから当院に電話があった。

 

「先ほど父が転倒して頭を怪我したとのことで、〇〇病院に救急搬送されたみたいです。私はいま出先にいて詳しいことは分からないのですが、〇〇病院の先生から電話で『急性硬膜下血腫を起こしているから、緊急で手術が必要だ』と言われました。」

 

急性硬膜下血腫ではなく、器質化した慢性硬膜下血腫

 

娘さんの話は続いた。

 

「前に先生から『CTで古い血腫があるけど、これは悪さはしていないから手術する必要はないですよ』と言われたことを伝えたのですが『いや、急性硬膜下血腫に間違いないから手術しなくてはいけない』と言われ、手術が出来る病院へ転送になりました。どうしたらいいですか?」

 

転送先の病院名を聞くと、幸いにも当院から徒歩圏内であった。

 

電話を受けてすぐに、当院で撮影した過去のCT画像を添えた情報提供書を作成。急いで当院スタッフに転送先の病院に届けて貰った。

 

翌日、娘さんから電話を頂いた。

 

「先生が書いてくれた情報提供書のおかげで、手術をせずに済みました。ありがとうございました!」

 

急性硬膜下血腫と、器質化した慢性硬膜下血腫の画像の違い

 

通常、CTで何かが白く映るとき

 

  • 硬いもの(骨や、動脈硬化を起こした血管など)
  • 比較的新鮮な血液

 

と判断する。

 

特に、脳と脳を保護する硬膜との間に高吸収域を認めると、殆どの場合で急性硬膜下血腫が疑われる。

 

急性硬膜下血腫の典型的なCT画像を以下に示す。

 

急性硬膜下血腫のCT画像

右急性硬膜下血腫のCT画像

 

血腫は、硬膜下腔に均等に拡がっている。そして、血腫に押された脳は、若干だが左方へ圧排されている(中心偏倚)。

 

次に、今回手術を回避出来た患者さんの当院CT画像を示す。

 

器質化した慢性硬膜下血腫

器質化した慢性硬膜下血腫

 

血腫は局所に存在している。

 

血腫直下の脳表は軽く押されてはいるものの、中心偏倚を伴うほどの圧排は認めない。

 

重要なのは、この血腫で患者さんは麻痺などの症状がないということである。

 

このCT画像を確認して手術が見送られたのも、麻痺が無かったからだと思われる。症状がない場合、極力開頭術は避けようとするのが脳外科医である。

 

器質化した*1慢性硬膜下血腫を画像で判断する際には、

 

  • 血腫がsolidかどうか(急性硬膜下血腫であれば、diffuseであることが多い)
  • 脳への圧排が中心偏倚を伴うか

 

に注目するようにしている。

 

ちなみに、これまでに数例だが、器質化した慢性硬膜下血腫を開頭したことがある。

 

いずれも麻痺を伴った方達であったが、その方達の血腫は「ボロボロの滓」のようなものであった。

 

今回の患者さんは麻痺はなかった(だろう)が、認知症はあった。もし当院からの画像提供がなければ、ひょっとすると認知症からの見当識障害が「急性硬膜下血腫からの意識障害では?」と捉えられ、手術が行われることになったかもしれない。

 

慢性硬膜下血腫のことと、手術の必要はないことをあらかじめ娘さんに伝えておいて良かったと思った次第であった。

 

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*1:流動性(活動性)を無くした組織が瘢痕化、肉芽組織化すること。