鹿児島認知症ブログ

鹿児島でコウノメソッドや糖質制限を実践している脳神経外科医のブログ

一回だけの診察で、情報をどこまで伝えるべきか?

 

診察で得られた情報を、患者さんや家族にどこまで説明するべきなのだろうか。このことで、しょっちゅう悩む自分がいる。

 

特に、その情報が確定的なものではなく、自分の推測が多く含まれていて、尚且つその推測に対する明確な対処法(決定的な治療法)がない場合には、尚更である。

 

悪いことを伝えたくないというよりは、不確定な推測を伝えることで相手の不安を増してしまうことを避けたい、という気持ちである。

 

定期的な通院が可能な方であれば、推測でもおいおい伝えて反応をみながら一緒に対策を考えることは出来る。しかし、今後の通院がまず出来ないであろう方に、不確定な推測のみ伝えてお帰り頂くのは忍びない。

 

今回紹介するのは、そのような方である。

 

60代男性 前頭側頭型認知症の要素を背景にした、二次性のうつ病?

 

鹿児島旅行に来たついでに、当院を受診された60代男性。

 

3ヶ月前に鼠径ヘルニアで手術を受け、その日の晩から耐えがたい痛みが出現し、不眠になってしまった。以降、急に訳もなく涙が出たり頭痛がしたりするようになったため心療内科を受診したところ、「うつ病」の診断がおりた。

 

現在、

 

  • セルトラリン50mg 朝夕食後
  • サインバルタ20mg 朝食後
  • フルニトラゼパム1mg 眠前

 

を内服中。一時期よりは改善傾向とのこと。

 

GDSは11/15なので抑うつ傾向はありと考えていいのだろうが、気になったのが話が非常に「常同的」なこと。

 

会話のどの場面でも、前後の脈絡に関係なく「いやー、眠れないのが辛いんですよー」と、ほぼ一言一句変わらずに唐突に話し出すのである。

 

また、落ち着きなく周囲をキョロキョロしてみたり、診察デスク上にある物品に興味を示す行動からは、被刺激性の亢進が窺われた。

 

頭部CTでは、左側頭極萎縮あり。また、前頭葉萎縮と比して頭頂葉の萎縮が目立たない。これらは、少しずつ気になるところ。

 

FTLDが疑わしい画像所見

 

今回のご相談は、物忘れや認知症に関することではなく、頭重感や耳鳴、不眠についてであった。

 

相当な遠方にお住まいであり、おそらく次回受診はない。そのため、上記画像所見から推測されることについては敢えて触れずに、かかりつけ医に情報提供書を郵送するに止めた。

 

以下に、その情報提供書の内容を記す。

 

貴院通院中の〇〇様ですが、頭重感、不眠、耳鳴のご相談で当院を受診されました。たまたま鹿児島旅行の機会があり、お姉様が当院を受診するのに併せてのことだったようです。

 

鼡径ヘルニアの術後疼痛をきっかけに不眠となり、その後貴院にて現在うつ病治療中と伺いました。ご本人の一番の悩みは不眠のようで、そのことを診察中に、当方の話を何度も遮るように、同じ話し方と内容で執拗に繰り返していたのが印象的でした。

 

頭部CTでは、左側頭極は対側と比較して有意に萎縮、両側前頭葉は年齢と比して有意に萎縮を認め、対象的に頭頂葉の萎縮の無さが目立ちました。

 

そもそもの受診理由が物忘れではなかったため臨床心理検査こそ行いませんでしたが、若干見ひらき気味の眼と、被刺激性亢進、話の常同性、画像所見から、FTLD-FTDの可能性を愚考しました。少なくとも、脳の器質的脆弱性が先行していた状況に術後の痛みが加わったことから、二次性のうつに繋がった可能性はありそうに思えました。

 

これらのことは、〇〇様が今後当院を継続受診する可能性がないことから、不安を与えてしまう可能性を考慮して、敢えて今日の診察では説明は致しませんでした。

 

睡眠の工夫として、夕方のロゼレム内服及び眠前酸棗仁湯の使用、その他夕食での炭水化物摂取を控えることなどをお伝えしました。

 

以上ご報告申し上げます。

 

前頭側頭型認知症の診断基準について

 

前頭側頭型認知症の診断基準を、以下に記す。

 

1.(行動異常型)前頭側頭型認知症
(1)必須項目:進行性の異常行動や認知機能障害を認め、それらにより日常生活が阻害されている。

(2)次のA~Fの症状のうちの3項目以上を満たす。これらの症状は発症初期からみられることが多い。
A.脱抑制行動a):以下の3つの症状のうちのいずれか1つ以上を満たす。
1) 社会的に不適切な行動
2) 礼儀やマナーの欠如
3) 衝動的で無分別や無頓着な行動
B.無関心又は無気力b)
C.共感や感情移入の欠如c):以下の2つの症状のうちのいずれか1つ以上を満たす。
1) 他者の要求や感情に対する反応欠如
2) 社会的な興味や他者との交流、又は人間的な温かさの低下や喪失
D.固執・常同性d):以下の3つの症状のうちのいずれか1つ以上を満たす。
1) 単純動作の反復
2) 強迫的又は儀式的な行動
3) 常同言語
E.口唇傾向と食習慣の変化e):以下の3つの症状のうちのいずれか1つ以上を満たす。
1) 食事嗜好の変化
2) 過食、飲酒、喫煙行動の増加
3) 口唇的探求又は異食症
F.神経心理学的検査において、記憶や視空間認知能力は比較的保持されているにもかかわらず、遂行機能障害がみられる。

(3)高齢で発症する例も存在するが、70歳以上で発症する例はまれである注1)。

(4)画像検査所見:
前頭葉や側頭葉前部にMRI/CTでの萎縮かPET/SPECTでの代謝や血流の低下がみられる注2)。

(5)除外診断:以下の疾患を全て鑑別できる。
1) アルツハイマー病
2) レヴィ小体型認知症
3) 血管性認知症
4) 進行性核上性麻痺
5) 大脳皮質基底核変性症
6) 統合失調症、うつ病などの精神疾患
7) 発達障害

(6)臨床診断:(1)(2)(3)(4)(5)の全てを満たすもの。

注1)高齢での発症が少ないところから、発症年齢65歳以下を対象とする。
注2)画像読影レポート又はそれと同内容の文書の写し(判読医の氏名の記載されたもの)を添付すること。なお、画像検査所見及び除外診断については、別表を参考に鑑別を行う。(難病情報センターより引用)

 

今回の方は、診断基準をすべて満たしている訳ではない。

 

ただ、これはすべての変性疾患について言えることだが、「ヨーイ、ドン!!」で突然、診断基準をすべて満たして発症することはない。

 

だからこそ、「経過」をみていくことが大事だと言える。

 

「何となく気になるなぁ・・・」というレベルから定期的にフォローし、数年間変化がなければ自分の気にしすぎだったということでお終いにする、という関わり方が理想である。

 

今回の方は通院可能圏内ではなかったため、関わりの継続が担保できないという理由で自分の推測は敢えて伝えなかったのだが、

 

  • 本人の病識が完全に欠如している
  • 家族からの支援が全く期待出来ない

 

これらの理由で一回きりの受診となった方は、これまで多数いた。

 

その方達のことは、何となく自分の中で気になり続けている。

  

 

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