鹿児島認知症ブログ

鹿児島でコウノメソッドや糖質制限を実践している脳神経外科医のブログ

「神経内科」が「脳神経内科」へと名称が変わるというニュース。

 Medical Tribuneから。

 

medical-tribune.co.jp

患者さん達が持つ心療内科や精神科とのイメージ混同を避けるための名称変更か

 

日本神経学会は、学会としての標榜診療科名を「神経内科」から「脳神経内科」に変更すると発表した。同学会によると、現行の「神経内科」では、いまだに心療内科や精神科と混同されることがあるという。標榜診療科名を脳神経内科に変更することにより、脳卒中や認知症が対象の診療科であることを周知する狙いがある。(上記リンクより引用)

 

なにがしかの不良をきたしたときに、患者さん達はどの診療科を受診するのか。

 

皮膚トラブルがあれば皮膚科に行くし、目が見えにくくなれば眼科に行く。血圧が高ければ循環器内科を受診し、足をくじいたら整形外科のお世話になる。

 

では、精神に不調をきたしたときには、患者さん達はどの診療科を受診するのだろう。

 

うつ病であれば、抑うつ気分以外にも不眠や倦怠感、頭痛といった多彩な症状を呈するため、最初から精神科や心療内科ではなく、内科や脳神経外科といった科を受診する方がかなりいると思われる。実際、自分の外来には頭痛持ちのうつ病の方はそれなりに来る。

 

認知症の場合はどうか?

 

以前、1000人規模のメーカー主催の認知症講演会に参加したときに、参加者各自がリモコンスイッチを持たされて演者の質問に回答する、という試みがあった。

 

その中で、「会場にお集まりの先生方の標榜科を教えて下さい」という質問があったのだが、おおよそ精神科医が7割、神経内科医が2割、脳神経外科は数%、という分布であった。この結果から、認知症患者さんが訪れる診療科は圧倒的に精神科だということが分かった。

 

「うつになれば精神科に行く」、「頭を怪我したら脳神経外科に行く」といったように、それぞれの診療科の特徴、一般の方が持つイメージというものはあるわけだが、認知症患者さんを主に診る上記3つの診療科が一般の人たちに持たれる「先入観のハードル」の高さを、これまで自分が見聞きしてきたことから推測して並べると、

 

『精神科>神経内科>脳神経外科』

 

となる。あくまでも個人的感想ですので、悪しからず。

 

脳神経外科を最下位においたが、「脳をいじくられるかもしれないから、絶対に脳神経外科なんか行きたくない」といった声も、これまで何度となく聞いてきた。みなさん、色々な先入観を持っている。

 

神経内科は、患者さん達にとって最もイメージしにくい診療科の一つかもしれない。

 

「神経内科って、何を診る科なんですか?」と患者さん達から聞かれることは結構多いのだが、その時自分は「パーキンソン病などの変性疾患と言われる病気を診る診療科ですよ」と答える。

 

神経内科は、脳や脊髄、神経、筋肉の病気をみる内科です。整形外科や脳神経外科は手術をする外科にはいりますが、その内科的なものと考えていただけば、わかりやすいと思います。具体的には、頭痛、めまい、意識障害、手足の動きが悪い、体のバランスが悪く歩きにくい、体がしびれる、物忘れ、しゃべりにくい、ものが二重にみえる、勝手に手足がふるえる・動くなどの症状を診ています。

よく神経内科は精神科、神経科、心療内科などと間違われることがあります。精神科、神経科、心療内科、主に『心の問題』を扱う科です。神経内科ではこれらの科とは異なり、心の問題ではなく、脳・脊髄・神経・筋肉に内科的な原因がある病気を診ます。(鹿児島大学の神経内科HPより抜粋。赤文字は筆者によるもの)

 

 

ただ、変性疾患はほとんど診ずに脳卒中を中心に診療している神経内科医もいるので、神経内科医がみな同じ仕事をしているという訳ではない。これは他の診療科にも言えることで、例えば眼科医が眼疾患全般を扱うわけではないし、認知症を診ない精神科医もいる。

 

上に引用した*1「よく神経内科は精神科、神経科、心療内科などと間違われることがあります。」という記載から、神経内科医も自分達が持たれている社会的イメージを分かっているのだろう。

 

日本神経学会は、神経内科の標榜が認可された1975年以降、名称を浸透させるためにさまざまな対応を行ってきた。「神経内科をご存知ですか」という新聞の全面広告はその1例だ。(上記記事より引用)

 

神経内科という標榜科が誕生して約42年経ち、神経内科から脳神経内科と「脳」の一字を加えることで、新たな出発を図ることになった*2

社会的イメージがどのようなスピードで変化していくのか、興味深く見守ろう。

 

同時に、精神科から脳神経内科へ認知症患者さん達がシフトしていく(恐らく)ことで、抗認知症薬や抗パーキンソン病薬の大量投与例が増えないかどうかも、見守っていく。

 

www.ninchi-shou.com

 

神経内科 脳神経内科

Photo by jesse orrico on Unsplash

*1:鹿児島大学神経内科の正式名称は「鹿児島大学大学院 医歯学総合研究科 神経病学講座 神経内科・老年病学」である。長い・・・。

*2:ところで、神経内科の英語表記は「Neurology」だが、脳神経内科になると変わるのだろうか?