鹿児島認知症ブログ

鹿児島でコウノメソッドや糖質制限を実践している脳神経外科医のブログ

講演会って何だろう?

 勤務医だと、カンファレンスなどを通じて他のDrと症例検討を行ったり議論をしたりすることで、自分の仕事内容を振り返ったり気づきを得たりすることが出来る。しかし、開業医は基本的に1人仕事である。

 

自己研鑽の為のinputについて、今の自分がどのように考え、また工夫しているかについて書いてみる。

様々な勉強会や講演会にほぼ参加していないのは何故?

 

inputのためにあちこち出かけていくよりは、内的な掘り下げで新たな気づきを得ることを重視している。*1

 

これは昔からの傾向であり、開業によってそれがより強まったように感じている。勉強会や講演会への参加など、色んなお誘いを頂いてありがたいのだが、殆どはお断りしている。

 

講演会や勉強会に、何を求めて参加するかということについては、医者でも個々で違いがあると思う。自分の場合、「something new(新しい何か)」を求めて講演会に行く。そして、something newなどそうそうないものである(ここ大事)。

 

大抵の講演会は予定調和的な内容である。自分がある程度習熟しているジャンルであれば、タイトルからその内容と結論が大体想像がつく。

 

内容と結論が大体推測出来る講演会に参加するぐらいであれば、本の一冊でも読む時間に充てたいと自分は考える。本の方がよっぽど、something newに出会える確率は高い。

 

ちなみに、まだ未習熟のジャンルで聞きたい講演会を事前に偶然見つけることが出来たら、それが県外であろうが時間の都合が付けば行く。ただし、その手の情報を製薬メーカーさんが提供してくれることはまずない。

 

医者が参加する講演会のほぼ全てには、スポンサー(製薬メーカー)が付いている。スポンサーが付いている時点で、話は予定調和的になる。それは何故か?

 

予定調和的講演会では、something newには出会えない

 

以前、放射線全脳照射後に認知機能が低下してしまった方にリバスチグミンを用いたら改善が得られたことがあった。

 

www.ninchi-shou.com

 

その後しばらくして、リバスチグミンを出している製薬メーカーから講演のオファーがあった。

 

そこで、「最近このような経験(上記リンク内容)をしたので、それを講演でしゃっべてもいいですか?」と聞いてみたところ、

 

「せ、先生!!それは無理です・・・」

 

と言われた。

 

リバスチグミンはアルツハイマー型認知症への適応しかないため、上記リンクのような使い方は、メーカー的には"御法度"なのである。この経験以降、あらかじめ講演内容に制限を設けるメーカーからのオファーを受けることはなくなった。

 

自分を含め臨床医は常に、薬の適応を安全に拡げるチャンスを狙っていると思う。理由は、「少しでも武器を増やしたいから」である。

 

ビタミンDやH2 blockerを、アレルギー治療に用いる医者がいる。ナイアシンを脂質異常だけではなく統合失調の治療に用いる医者がいる。頭痛やうつ病の治療に鉄剤を用いる医者がいる。添付文書やガイドラインを遵守しているだけでは、治せない患者さん達は多い。しかし、このような薬の使い方を、少なくともメーカーとしてはおおっぴらに認めることは出来ないだろう。

 

結局のところ、添付文書を作る立場の製薬メーカーが主催する講演会の内容は、添付文書からはみ出ることが出来ないのである。所謂、企業に定められた「コンプライアンス」というものである。

 

なので、メーカーから因果を含められた、もしくはメーカーの意を汲んだ(空気を読んだ)演者がどのような事を話すのか、事前に大体は想像がついてしまうのである。

 

表だっては言えないことでも、裏ではゴニョゴニョと・・・

 

医者向けの講演会では通常、会の終了後に「懇親会」と称した立食の情報交換会がある。そこで内々の情報交換を行ったり旧交を温めたりなど行われているので、実は講演会目的ではなく情報交換会目当てで参加する医者は結構多いのかもしれない。おおっぴらには出来ないような薬の工夫などは、そのような場ではコッソリ聞けるのかもしれない。

 

ただ自分の場合、15分も立ちっぱなしでいると腰が痛くなるし、知らない人達*2の中でどう振る舞えばいいのか分からないので、基本的にはこのような懇親会には出席しない。

 

もっとも、自分が講演会に殆ど行かない最大の理由は、家族との時間や自分の睡眠時間を犠牲にしたくないからである。勤務医時代に散々そこを犠牲にしてきたので、開業してまでそれを続ける義理はないと思っている。

 

仕事終了後にそのような会合に参加していると*3、帰宅するのは22時頃になる。そこから食事をとって妻と会話して自分の勉強をして、となると、眠りにつくのは0時を超える。睡眠時間の不足は、翌日の仕事の質に直結する。

 

自分の仕事の質が下がると、患者さんや自院スタッフに迷惑をかける。なので、極力睡眠時間を削ることはしない。

 

自問自答のためのEvernote

 

講演会や勉強会に行かない分、本は大量に読んでいる。読んで印象に残った箇所は記録をつけている。また、ネットで様々なことを検索し、重要なものは分類して保存している。その際に活用しているのがEvernoteである。

 

使うようになって、かれこれ8年近く経つだろうか。出来れば一生使っていきたいと思っており、先日2025年までの契約延長を行った。

 

今や、それなしでは仕事に大きな支障を来すほど、このサービスに依存している。主な使用用途は以下。

 

  • 検索で辿り着いたWebページの保存
  • 講演の為に作成した資料及び参考書籍や出典の保存
  • ブログ記事作成の為の資料置き場
  • Skitch(Evernote連携の画像編集アプリ)で、画像やPDFに加工や注釈を加える
  • 「頭痛漢方?→五苓散、呉茱萸湯、釣藤散」などの、自分用に処方ノートを作成

 

このような感じである。DesktopでもMobileでも、いつでも好きなときにclipし、検索閲覧編集が出来る。

 

最後の処方ノートだが、「あの薬なんだたっけ・・・」ということが増えてきた自分用に作成している。これは結構便利で、普段からチマチマと作り続けている。

 

新たなinputを得るための情報収集、そして新たな気づきを得るためのブレインストーミングを、日々一人で淡々と行っている。

 

一人ブレインストーミングに便利なのが、Evernoteの自動コンテキスト作成機能である。

 

コンテキストとは? - Evernote日本語版ブログ

 

作成したあるノートの内容に関連する別ノートを提示してくれるので、忘れていた記憶とつなぎ合わせながら新たな着想を得やすい。

 

このようなことをしているうちに、一日はあっという間に終わる。

 

一日が42時間ぐらいあれば、たまに講演会を聞きに行くのもいいかもしれない。しかし恐らくは、積読になっている本の消化と、子供と遊ぶことに余剰時間を使うだろうから、やはり講演会には行かないだろう。

 

講演会って、何だろう?*4

 


flickr photo shared by TAKA@P.P.R.S under a Creative Commons ( BY-SA ) license

*1:ただの"出不精"を、少し大げさに言ってみた。

*2:自分は他の医者と殆ど付き合いがなく、また無難な世間話というものが出来ない残念な性分である。

*3:大体19時か20時開始、21時か22時終了である。

*4:やってるお前が言うなという話だが・・・