鹿児島認知症ブログ

鹿児島でコウノメソッドや糖質制限を実践している脳神経外科医のブログ

鉄剤の使い方について。

 

当ブログではこれまでに、鉄補充で頭痛やうつ病が改善した例を報告してきた。

 

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今回は、個人的な鉄剤の使い方についてまとめてみる。なお、貧血になる原因は複数あるが、ここでは鉄不足を中心に話を進めていくので悪しからず。

 

症状で貧血を疑い、採血で確認する

 

まずは症状から貧血を推測する。これは大前提。

 

当院は脳神経外科なので、めまいやふらつき、頭痛や肩こりを訴えて来院される方(特に女性)が多いのだが、これらは貧血の症状として頻度が高い。その他、爪の状態や眼瞼結膜も確認する。

 

次に、血算でHb(ヘモグロビン)をチェックする。検査会社によっては、「血色素量」と記載しているところもある。Hbが基準値を下回っていれば、何らかの原因で貧血になっていると考える。

 

Hbの基準値(正常値ではない)は検査会社によって違いがあるが、自分の場合だと男性では13未満、女性では11未満で「積極的治療が必要な貧血」と捉えるようにしている。

 

貧血には小球性と大球性があるが、ここでいう「球」とは、赤血「球」のことである。赤血球が小さくなる貧血か大きくなる貧血かで、貧血のタイプを分ける。

 

大球性貧血の原因はビタミンB12や葉酸不足、骨髄異形成症候群などが挙げられるが、ここでは割愛して最も頻度の高い小球性貧血について述べる。

 

小球性貧血の殆どは、鉄欠乏性貧血である。鉄が足りなくなると、赤血球が小さくなる。

 

小球性か大球性かは、MCV(平均赤血球容積)を見れば分かる。80未満で小球性、100以上で大球性と大まかに区別されるが、理想値は92前後。

 

身体に炎症がなく、鉄やビタミンB12、葉酸などのバランスがとれていれば大体90〜92ぐらいで安定するが、鉄欠乏やビタミンB12欠乏が併存することがあり、その場合は小球性と大球性が綱引きをして「見かけ上」MCVが90ぐらいで安定するということもあるので、注意が必要。

 

その他、鉄欠乏を疑う場合に利用する検査項目に

 

  • MCHC(平均赤血球ヘモグロビン濃度)・・・32g/dl未満
  • UIBC(不飽和鉄結合能)・・・250㎍/dl以上
  • フェリチン・・・20ng/ml未満

 

などがある。

 

上記した数値はあくまでも「自分の」臨床的判断値だが、機械的に割り振って治療の是非を決めているわけではない。

 

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フェリチン40でも鉄を補充したら体調が改善する人はいるし、男性と女性でも相当違いがある。男性でフェリチン20未満を見たら、「かなり危険な状態」と自分なら考える。

 

ちなみに、血清鉄の値は朝と夕で変動が大きすぎるため、診療上あまり参考にしていない。

 

ガイドラインでは、鉄剤投与の対象は「MCV 80fl未満かつ、MCHC30g/dl未満」とされるが、この基準には当てはまらない、しかし、鉄補充を必要としている方はかなりいる。

 

鉄剤の選択

 

では、鉄を補充しようとなった時に、どの鉄剤を選択するか。

 

現在、保険適応のある鉄剤は以下の5種類。フェジンのみが注射製剤である。

 

  • フェルム・・・フマル酸第一鉄。徐放剤。
  • フェロ・グラデュメット・・・硫酸鉄。徐放剤。
  • フェロミア・・・クエン酸第二鉄。非徐放剤。
  • インクレミンシロップ・・・ピロリン酸第二鉄。非徐放剤。
  • フェジン・・・含糖酸化鉄。注射用鉄剤

 

自分は、注射製剤のフェジンはよっぽどのことがなければ使わない。それは、遊離鉄を直接血管内に流し込むことで、フェントン反応*1を惹起してしまうことを恐れるからだ。なので、殆どの場合で処方するのは内服製剤である。

 

内服製剤でも、徐放剤の方が胃粘膜への刺激が少ない。よって、フェルムやフェロ・グラデュメットを使うことが多い。

 

ただし、徐放剤は胃酸を浴びて効果が発揮されるため、手術で胃を切っている人には使いにくい。その他、PPIやH2-blocker、酸化マグネシウムといった制酸剤(胃酸を抑える薬)を飲んでいる場合も注意が必要で、制酸剤を飲むタイミングとずらす必要がある。

 

子供で鉄欠乏があれば、ほぼインクレミンシロップを選択している。子供が飲みやすいように、甘い香りと味付けがされている。

 

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最も出番が少ないのはフェロミア。

 

胃全摘をしている方か、高齢者で25mg〜50mg/dayぐらいで少しずつ鉄補充をしたい場合に使っている。

 

鉄サプリメント

 

当院では、鉄補充の第一選択は保険適応のある鉄剤にしている。

 

飲めるのであれば、フェルム100mg/dayやフェロ・グラデュメット105mg/dayが最も手っ取り早い。

 

しかし、胃痛や便秘で保険鉄剤を飲めない方がそれなりにいる。その頻度は、メーカー(日医工)添付文書によると

 

総症例数2,184例中74例(3.39%)91件の副作用が報告されている。主な副作用は嘔気・悪心29件(1.33%),腹痛(上腹部痛,胃痛,胃不快感,胃重感を含む)18件(0.82%),嘔吐10件(0.46%),食欲不振9件(0.41%)などである。(承認時から1982年4月までの集計)

 

となっている。特に、痩せてタンパク不足が疑われる女性において、副作用発現頻度が高いように思われる。

 

副作用で保険鉄剤が飲めない方達に用意しているが以下。

 

Source Naturals, アドバンスト・フェロチェル, 180 錠 - iHerb.com

 

1錠が27mgのグリシンでキレートされた鉄サプリメントである。

 

ビタミンCも含有されており、吸収効率でいえば保険鉄剤よりも優秀と思われる。

 

保険鉄剤が飲めなければ鉄サプリメント、という順番でお勧めしているが、中にはフェロケルも飲めない方が稀にいる。その場合には、食事性にじっくりと増やしていく工夫をするしかない。*2

 

フェリチンの値でグルタチオンの適量を探る

 

人体にとって必要不可欠な鉄だが、過剰の危険性は勿論ある。

 

【疾患】アルツハイマー病の進行を予測する | Nature Communications | Nature Research

 

フェリチンが高値になっているアルツハイマー型認知症やパーキンソン病の方は勿論いるのだが、その方達でも自分の外来では300を越えるケースは稀で、100未満の方が圧倒的に多い。血清フェリチン高値がそのまま脳への鉄沈着の指標として使えるわけではないのは当然のことだが。

 

また、MRIシーケンスの一つであるT2*でヘモジデリン沈着を確認することはあっても、それが特にアルツハイマー型認知症の患者に多く認められるという印象もない。

 

よって、「鉄過剰=アルツハイマーのリスク」の相関については、少なくとも自分の臨床においては有意とは言い難いのだが、気になる人は、最近出た以下の本で一章丸々割いて鉄の認知機能への悪影響について述べられているので、手に取ってみたら如何かと思う。*3

 

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フェリチン高値(およそ300以上)の認知症患者をみたときに自分が考えるのは、

 

  1. 単純に貯蔵が多い
  2. 身体のどこかに炎症がある

 

この2点である。1ならば勿論何もしない。

 

脂肪肝があれば2を考えるし、CRP上昇や食欲低下を合併していれば、ガンの可能性を考える。

 

それらを全て否定出来れば、次に「変性疾患の病勢が強いのかな?」と考える。

 

変性疾患による神経細胞破壊の度合いが強ければ、神経細胞から漏れ出るフェリチンが増えるということはありそうに思える。

 

そして、この想像をグルタチオン点滴に応用している。

 

具体的には、「フェリチン高値≒炎症あり≒活性酸素の攻撃が強い」と捉えて、グルタチオンを多めに配合している。

 

低用量(1200mg~1600mg)で効果がある患者さん達は病状進行が緩やかで、3600mgといった高用量でやっとグルタチオンが効く人達は、炎症の勢いが強い人達だという印象がある。

 

 

あくまでも、自分の臨床における雑感に過ぎないが。

 

鉄剤とガンのリスク

 

ところで先日、以下の様な記事を見かけた。うまくリンクが貼れなかったので、抜粋して引用する。赤文字強調は筆者によるもの。

 

2つの鉄化合物(クエン酸第二鉄とEDTA鉄水和物)が既知のがんのバイオマーカーを上昇させるようだ、というスウェーデン・チャルマース工科大学からの研究報告。
クエン酸第二鉄はサプリメントとして、EDTA鉄水和物は食品添加物として一般的に使用され世界中で販売されている。どちらも先行研究でマウスの結腸がんを増悪させることが報告されていたが、そのメカニズムやヒト細胞への影響はほとんどわかっていなかった。

研究チームは培養ヒト結腸がん細胞を用いて、通常サプリメントとして用いられる濃度のこれら化合物の影響について検討した。対照には硫酸第一鉄を用いた。

硫酸第一鉄にはまったく影響がみられなかったが、クエン酸第二鉄とEDTA鉄水和物は、低用量でも、既知のがんマーカーであり、しばしば長期の予後不良に関連している、アンフィレグリンの形成を増加させた。

「我々は、既知のがんマーカーであるアンフィレグリンを上昇させたのであり、クエン酸第二鉄とEDTA鉄水和物は、発がん性があるかもしれない、と結論づけることができる」と筆頭研究者のナタリー・シアーズ助教授は語っている。(LINK de DIET(2018年4月23日)より)

 

EDTAについては、以下のWikipedia記事を参考に。凝固防止剤として採血スピッツにも含まれていたりなど、日常のあらゆるところで利用されている。

 

エチレンジアミン四酢酸 - Wikipedia

 

クエン酸第二鉄は、保険鉄剤だとフェロミアである。硫酸第一鉄はフェロ・グラデュメット。フマル酸第一鉄(フェルム)については記載はなかった。

 

この記事に基づいて処方を行うなら、保険鉄剤の第一選択はフェロミアではなく、フェロ・グラデュメットにしておいたほうが無難ということになるだろう。

 

では、鉄サプリメントのフェロケル(ビスグリシン酸第一鉄)はどうか?

 

Oncotarget | Ferric citrate and ferric EDTA but not ferrous sulfate drive amphiregulin-mediated activation of the MAP kinase ERK in gut epithelial cancer cells

 

上記記事の元になった原著には、特に記載はなかった。

 

今のところ、フェルム、フェロ・グラデュメット、フェロケルの危険性が特に高いということはないというのが自分の結論。

 

鉄欠乏による症状が何もない方が鉄剤を使う必要は勿論ないのだが、自覚症状はないけれどもフェリチン一桁の人に鉄補充を行ったら、抜群に体調の回復を実感出来たという例はある。

 

「使って初めて効果が分かる人はいる」ということだ。

 

訴えと採血データを照らし合わせながら、鉄剤の適応は慎重に判断するようにしている。

 

フェロケル フェロチェル

 

*1:二価鉄を触媒として過酸化水素からヒドロキシルラジカルが発生する化学反応。ヒドロキシラジカルは非常に反応性の高い活性酸素。

*2:有名なヘム鉄については、敢えて書かなかった。自分の経験の中では、特に費用対効果という点で、ヘム鉄はあまり割に合わないと感じるので。

*3:この本によると、理想的なフェリチン値は、男女問わず10~40ng/mlとのこと。自分の臨床実感とは相当かけ離れている。