鹿児島認知症ブログ

鹿児島でコウノメソッドや糖質制限を実践している脳神経外科医のブログ

「所得が低いほど栄養バランスが悪い」というニュース。しかし、これまでの推奨栄養バランスに照らし合わせると・・・

なかなか可燃性の高そうなニュースを見かけた。

  

所得低いほど栄養バランスよい食事取れず NHKニュース はてなブックマーク - 所得低いほど栄養バランスよい食事取れず NHKニュース

 

以下でちょっと考察を。

穀物摂取量が多くて肉の摂取量が少ないのは不健康である、と厚生労働省が認めたということなのか?

 

  厚生労働省は、国民の健康状態などについて、毎年調査を行っていて、去年は、回答を得られた3600世帯余りについて結果を分析しました。 それによりますと、コメやパンなど穀類の1日の摂取量は、所得が200万円未満の世帯では、男性は535グラム、女性は372グラムと、所得が600万円以上の世帯より20グラムから40グラム多くなっていました。 一方、野菜の摂取量は、所得が200万円未満の世帯では、男性は253グラム、女性は271グラムと、所得が600万円以上の世帯より40グラムから70グラム少なくなっていました。 所得の低い人は肉の摂取量も少なく、所得が低い人ほど栄養バランスのよい食事が取れていないことが分かりました。(上記リンクより引用)

 

最も安く腹を満たせる食材が穀物であり、また肉は通常穀物より値段が張る食材。

 

           糖質制限と肉
                                          flickr photo shared by powerplantop 

 

よって、世帯収入が低いほどカロリー摂取を穀物に頼る傾向になるのは、当然である。「まあ、そういう結果だろうな」というのが大方の感想ではないかと推測する。

 

また、厚労省の

 

  所得が低い人は栄養バランスのよい食事をとる余裕がなくなっているのではないか。食事の内容を見直すなど健康への関心を高めてほしい

 

という、中々香ばしいコメントに対して世間が反応しているようだ。

 

「所得が低いから食事に金をかけられないのに、『健康への関心を高めろ』とは何事か!」ということだろう。まあ炎上して当然ではある。

 

厚労省「低所得の人は食事の栄養バランスが悪いから見直すべき」→お金がないからできないんですけど - Togetterまとめ

 

だが、今回自分の興味はそこにはない。

 

実は今回発表された低所得世帯の栄養バランスは、これまで国が推奨してきた栄養バランスと、ほぼ近似しているのである。にも関わらず「バランスが悪い」とは、一体どういうことなのか。

 

カロリー計算を交えて以下に述べてみる。

 

低所得層世帯と高所得世帯(いずれも男性)の、穀物と肉によるカロリー量を比較

 

(低所得世帯)穀物535.1g(白米換算で約900kcal)

 肉101.7g(和牛肩ロース換算で約320kcal、鳥ささみ換算で約115kcal)

 

(高所得世帯)穀物494.1g(白米換算で約830kcal)

肉122.0g(和牛肩ロース換算で約385kcal、鳥ささみ換算で約139kcal)

 

 

穀物や肉などの数値は以下のリンクから。

 

平成26年「国民健康・栄養調査」の結果 |報道発表資料|厚生労働省

 

穀物は全て白米換算(ご飯100gで168kcal)、肉は和牛肩ロースと鳥ささみ換算で計算してみた。また、野菜はイモ類や豆類など記載があったが、話をシンプルにしたかったので今回のカロリー計算には入れなかった。

 

ちなみに、菓子類や卵など様々な要素を入れて計算した、低所得層の男性におけるカロリーバランスの結果は、炭水化物:脂肪:タンパク質が(60.8):(25.1):(14.1)であったようだ。高所得層の男性では、(58.5):(26.9):(14.6)。炭水化物比率は低所得層でやや高い。

 

日本人の三大栄養素における推奨栄養バランスとは、大体「糖質60%、脂質20%、タンパク質20%」らしい。そして、この推奨比率は糖尿病患者においても実は同じらしい。「比率は保ってカロリーを減らせ」というのが糖尿病学会の基本方針。

 

  2) 栄養素摂取比率について
糖尿病における三大栄養素の推奨摂取比率は、一般的には、炭水化物 50~60%エネルギー( 150g/日以上 )、たんぱく質 20%エネルギー以下を目安とし、残りを脂質とする。この炭水化物の推奨摂取比率は、現在の日本人の平均摂取比率がこの範囲にあり、他の栄養素との関係からも妥当と考えられる
(2013年3月【PRESS RELEASE】日本人の糖尿病の食事療法に関する日本糖尿病学会の提言より)

 

先ほどのカロリー計算に戻るが、和牛肩ロースで考えると白米とのカロリー比率は低所得層で1対2.8。高所得層では1対2.1。

 

PDFから抜粋した比率では、(タンパク質)対(炭水化物)の比率は低所得層では1対4.3、高所得層では1対4.0。ただし、ここでは糖質ではなくて炭水化物としての比較となる。

 

学会推奨比率が1対3ぐらい(タンパク質20%と糖質60%)であることを考えると、自分が単純計算した肉と穀物の割合で言うと、低所得層のほうが推奨比率に近いと言える。

 

PDF抜粋の数字で比較した場合だと、低所得層の方が炭水化物の比率が高いという点は同じ。

 

そして、厚労省の見解は「低所得層の栄養バランスは悪い」である。これは、どういうことだろうか?

 

炭水化物は控えめに、そしてタンパク質は多めにということに、もうみんな「気づいている」のでは?

 

厚労省は今年の4月に、「コレステロール摂取量の上限撤廃」を発表している。

 

www.ninchi-shou.com

 

そして、低所得層の栄養状態が大体において「これまでの推奨バランス」と近似しているにも関わらず、

 

  所得が低い人ほど栄養バランスのよい食事が取れていない

 

との見解を示した。

 

これは厚労省が、これまでの推奨栄養バランスが間違っていたと、暗に認めていることになるのではないだろうか?

 

お財布の事情で、タンパク質を摂りたくても中々摂れない人達は既に「気づいている」。だから厚労省コメントに腹を立てている。

 

そして、炎上当然の香ばしいコメントを出した厚労省も、今回の発表で食事のバランスの悪さを指摘したということは、やはり「気づいている」。

 

もう大体みんな気づいているのである。しかし、特にお偉い方の場合には、これまでのしがらみなどあって大っぴらには出来ないのだろうと推測する。なので、代わりに言ってみよう。

 

コメは減らして、肉を喰おう!!(結構強引・・・)

 

 ※本記事の文脈では「コメを減らそう」となっているが、勿論コムギも同様である。つまり、穀物≒炭水化物≒糖質と考えて穀物は少なめが望ましいということ。

 

(12/20追記)厚労省PDFに各栄養素のカロリーバランスが記載してあるとのご指摘を頂きましたので、加筆及び一部修正致しました。ご指摘ありがとうございました。