鹿児島認知症ブログ

鹿児島でコウノメソッドや糖質制限を実践している脳神経外科医のブログ

2年越しで届いた、患者さんへのメッセージ。

 これまでに何度か、認知症患者さんから「先生はエクボが出るね」と言われたことがある。

 

ちなみに、ご家族からは一度も言われたことはない。

90代女性 アルツハイマー型認知症

 

つい先日も、とある90代の患者さんに「先生はきれいにエクボが出るのね~」と言われた。

 

この患者さんとのお付き合いは、かれこれ2年以上になる。

 

近医で認知症を指摘されアリセプトが処方されたが、特に変化はなく中止になった。そのうち幻覚や妄想、活気の低下をきたすようになった。

 

もともと病院嫌いで薬嫌いの方だったようだが、「このままでは、今の施設にいられなくなるかも」と懸念した当時の担当ケアマネージャーさんの配慮で、紹介来院された。

 

この方から自分が受けた印象は、「アルツハイマー型認知症をベースに、脳梗塞の影響が加わって混乱した状態」であった。

 

イクセロンパッチ4.5mgに夕食前の抑肝散2.5gを開始したところ、1ヶ月後には入居していた高齢者住宅のスタッフが驚く程の改善(幻覚妄想の消失)を遂げた。

 

この改善を確認して、プレタール50mgを追加。現在の処方は、「イクセロンパッチ4.5mg、プレタール50mg、六君子湯2P2X」となっており、大きな問題なく落ち着いている。

 

2年ちょっとの経過で、足腰は流石に衰えてきた。

 

来院時はいつも娘さんの両手引きで診察室に入室するのだが、その途中で目が合うといつも、こぼれんばかりの笑顔を見せてくれる。

 

思えばこの方は当初から、こちらの顔ばかりを見ていたような気がする。そして初診から2年4ヶ月が経過して今回、初めてエクボのことにふれてくれた。

 

患者さんは、医者の顔を見ている

 

認知症外来では、薬に関することや介護の工夫など、多くの情報を患者さんのご家族に伝える必要がある。

 

なので、認知症患者さんのご家族は、医者がどのような表情をしているかよりも、医者の話の内容に注意を払う。

 

一方、認知症患者さん達は話の内容は二の次で、こちらの顔やご家族の顔をジッと見つめていることが多い。

 

言語理解力が衰えてきた患者さん達は、乏しくなった聴覚からの情報入力を別の何かで補おうとする。

 

それは大抵、視覚からの情報入力に頼っているように思う。

 

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自分のキャリアのどの時点で意識するようになったのかは忘れたが、診察時には頑張って口角を上げるように努めている。

 

せめて口角でも上げなければ人が寄りつかない残念な人相という事情はさておき、自分としては「僕はあなたを気にかけています。そして、いつでも待っていますよ。」というメッセージを送っているつもりである。

 

「先生、エクボがきれいだね」と言われたことで、およそ2年にわたって自分が発し続けたメッセージが、やっと届いたような気がして嬉しくなった。

 


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