鹿児島認知症ブログ

鹿児島でコウノメソッドや糖質制限を実践している脳神経外科医のブログ

認知症患者さんの家族が、発達障害を持っていた場合。

 認知症患者さんを診ているうちに、ご家族も診るようになったことが度々ある。自分で診ることが出来る場合もあれば、「これは難しい・・」と感じる場合もある。

認知症の父親、そして発達障害の娘さんとお孫さん

 

この患者さん(60代後半のアルツハイマー型認知症)の診察には、娘さん以外にケアマネさんが毎回同伴してくれていた。初回の診察時から感じてはいたのだが、患者さんの娘さん(恐らく20代後半から30代前半)はひょっとして発達障害(成人期ADHD*1)かな?と感じた。それは、

 

「相手の話を最後まで聞くことが出来ず、必ず途中で自分の話を被せてくるため、会話全体が上手く成り立たない。父親の診察中、常にキョロキョロして手や足をせわしなく動かしていた。」

 

このような特徴を持っていたからである。以下のサイトはご参考まで。

 

ADHD症状チェックリスト:成人(18歳以上)用|大人のためのADHD情報サイト

 

そして、この娘さんの息子さん(幼稚園の年長さんぐらいか)もまた、発達障害(ASD*2)と思われた。それは、

 

「診察室内で延々と走り回り、じっと座っていることが出来ない。話しかけてもこちらを見ることもなく、延々と走り回っている。」

 

このような特徴を持っていたからである。

 

ある日の診察中に、患者さんの娘さんが「おとなしくしろ!!」と怒鳴って自分の息子を平手で思いっきり叩いたことがあった。

 

自分を含め、その場にいた看護師さんやケアマネさん、みな唖然となった。その子は吹っ飛んで倒れたのだが、特に痛がる様子もなくまた走り回っていた。そして、叩いた娘さんも何事もなかったかのような表情をしていた。

 

ケアマネさんは後に、「家庭内でご本人が落ち着いて過ごせないことが、認知症の病状が不安定である一因だと思っています。」と言っていた。全くその通りである。もし在宅治療を続けるのであれば、この患者さんだけではなく、娘さんやお孫さんのケアも併せて必要であろう。 

 

患者さん本人以外の要素にも目を配る必要がある

 

発達障害の方が、認知症の父親と発達障害の息子を連れて毎回2時間近くかけて通院するということは、想像するだに大変なことである。

 

娘さんのストレスが増大すると、そのしわ寄せは認知症の父親と発達障害の息子にむかうであろうことは容易に予想されたので、ある程度の薬剤調整の目処が付いたところで近医にバトンタッチとした。

 

そして、ケアマネさんには「現時点では残念ながら、同居がお互いのストレス源にしかなっていないと思われるので、近い将来は別居がいいのではないでしょうか。その為に必要な諸手続や社会資源の利用については、相談しながらやっていきましょう。」と話した。

 

あとで聞いたところによると、お孫さんはASDの診断は既に受けていたが、治療は行われていなかったとのことであった。

 

担当医の説明を理解する力を娘さんに求めるのは酷なことだし、ASDの全てのケースで薬物療法が必要だと言うつもりもないが、恐らくASDの診断を行った小児科医(小児精神科医?)は児の母親のADHDの可能性にも気づいていたであろうから、せめてそのタイミングで親子をサポートしてくれる団体(行政含め)などへの繋がりが持てていたら、と考えることしきり。

 

娘さんは生活保護を受けていたので、自分や息子の医療に関する金銭的な負担の心配は要らない。しかし現実的には医療費がどうこうというよりも、「娘さんのADHDの可能性に気づき、サポートをしてくれる人」が必要なのである。残念ながら、近親者を含めてそのような方はいなかったようだ。

 

恐らく、この家庭におけるサポートに優先順位をつけるなら、

 

①娘さん(ADHD)②お孫さん(ASD)③本人(認知症)

 

この順番が望ましかったのではないだろうか。

 

娘さんやお孫さんへ未介入のままに患者さん本人へ認知症の治療を行っても、高い治療効果は期待出来ないだろう。

 

自分が全てを診れたらいいのだろうが、それは明らかに手に余ることである。

 

理想を言えば、3者がそれぞれ主治医をもち、「この家庭がどのようにしたら上手くやっていけるか*3」について、各々の主治医や関わる医療福祉関係者達が連携を図っていけたらいいのだろうが。

 

唯一の救いは、お父さん(認知症)のサポート役であるケアマネさんに、「お孫さんだけではなく、娘さんも発達障害の可能性があります」と告げたところ、「自分なりに、色々と動いてみます。」と言って頂けたことであった。 

 

今はどのように過ごしておられるだろうか。時に思い出す。

 

右往左往の悩み

*1:注意欠陥多動性障害

*2:自閉症スペクトラム障害

*3:病気を治すどうこうではなく、生活支援の意味合いで。