鹿児島認知症ブログ

鹿児島でコウノメソッドや糖質制限を実践している脳神経外科医のブログ

脳出血後の頭部CT左右差について。

 先日、ケアマネさんの紹介で来院された方をご紹介。

60代女性 脳出血後

 

初診時

 

(現病歴)

 

現在夫と二人暮らしのFMさん。今日はケアマネさんと娘さんと飛び込みで来院。

 3年前に脳出血、保存的に入院治療し左片麻痺が後遺。現在ADLは中等度介助が必要。

 

最近、デイサービスで特定の人物に対して嫌がらせをするようになったとのこと。

 

(診察所見)
HDS-R: 26
遅延再生:4
立方体模写:OK
時計描画テスト:文字盤記入OK、10時10分不可
IADL:1
改訂クリクトン尺度:29
Zarit:7
GDS:11
保続:なし
取り繕い:なし
病識:あり?
迷子:なし
DLB中核症状: 0/4
rigid:軽度、鉛管様
幻視:なし
FTD中核症状: 0/6
語義失語:なし
頭部CT所見:明瞭な右萎縮
介護保険:利用中 デイは週3回 訪問マッサージ週2回
胃切除:なし
歩行障害:左片麻痺
排尿障害:頻尿
易怒性:あり
過度の傾眠:なし

(診断)
ATD:
DLB:
FTLD:
その他:

(考察)

 

側脳室サイズの著明な左右差を認める。

 

脳の器質的脆弱性が先行していたところに脳出血を起こし、認知症様の症状を発したのだろうか?

 

独特の不気味な感じがあり、声のトーンの調整は出来ないところは変性疾患様。ただし疎通は良好。

 

当院通院をご希望。2箇所の病院を1つにまとめる。抑制系はウインタミン4mg-6mgから開始。


ドグマチール50mgx3をx2に減量。フルボキサート200mgx3をx2にして全ての内服を朝夕にまとめる。毎月1週間分内服していた膀胱炎対策?の抗生剤は終了にする。

 

抗認知症薬は不要でいいだろう。

 

(引用終了)

 

左右差をどう考える?

 

当院来院時の頭部CTを以下に示す。

 

脳萎縮?それとも脳室拡大?

脳萎縮?それとも脳室拡大?


明確に右側脳室系が拡大している。ここから、3つの可能性が考えられる。

 

  1. 元々、右が萎縮していた
  2. 脳出血の影響で右脳室系が拡大した
  3. その両方

 

脳出血の治療が行われた病院から画像を取り寄せて確認したのが以下。

 

発症直後の右被殼出血の頭部CT

発症直後のCT

 

右の被殼出血であった。この時点では血腫による圧排が強いため、萎縮の左右差があるかどうか分かりにくいが、恐らくなさそう。

そして、発症から約1ヶ月後の頭部CTが以下。

 

発症から1ヶ月経過した右被殼出血の頭部CT

右被殼出血発症から1ヶ月後の頭部CT


この時点でも、右脳室系の拡大は確認出来ない。

 

なので、元々萎縮の左右差があったわけではなく、脳出血の影響で徐々に右脳室系が拡大していったのだと思われる。

 

FMさんにおける右脳室系の拡大だが

 

  1. 出血で脳組織が破壊され萎縮した分、出血部位に近い脳室が相対的に拡大した
  2. 出血が脳室に混入し、髄液循環が妨げられた結果、脳室が拡大した

 

1、2のどちらと考えるべきか。

 

1であれば、その脳室拡大に病的意義はない。2であれば、脳室拡大により周囲の脳が圧排されるため、病的意義がある。

 

FMさんの側脳室下角のサイズをみる限りは、自分は2を疑っている。髄液循環不全による脳室拡大は、側脳室の下角をみるとわかりやすい。

 

脳皮質下出血の脳室穿破*1により、片側の側脳室系のみ拡大した症例を以前経験したことがある。

 

その方は抗精神病薬でコントロール出来ない易怒を呈していたのだが、拡大している側の側脳室前角穿刺によるVPシャント(脳室腹腔短絡術)を行ったところ、易怒を含む精神症状の改善が得られた。

 

自分が勤務医であれば、FMさんとご家族に説明をしてVPシャントを検討したかもしれない。しかし、このような症例でVPシャントを行うというのは恐らく一般的ではなく、手術を検討してくれるであろう脳神経外科医を捜すのは難しい。

 

幸いFMさんは、前医のドグマチール150mgやレクサプロ10mgといった処方を減薬終了し、コントミン12.5mgx2を処方したところで落ち着いたので、当面このまま様子を見る予定。

 

脳萎縮の左右差を見つけた時には脳出血の既往を確認することは大事で、これをしておけば、「萎縮の左右差≒前頭側頭葉変性症」という短絡を減らせる。

 

ただ、尾状核出血の側脳室前角穿破、視床出血の第3脳室穿破などでは麻痺をきたさないこともあり、既往歴の確認だけでは脳出血の有無が分からないことはある。

 

また、脳出血脳室穿破により脳室が拡大した結果、出血した箇所に本来残る瘢痕が分かりにくくなることもある。その時には、MRIでT2*撮影を行うと出血瘢痕は検出できる。 

*1:脳出血が脳室内に流入すること。