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鹿児島認知症ブログ

鹿児島でコウノメソッドや糖質制限を実践している脳神経外科医のブログ

認知症患者さんの万引きを、未然に防ぐことは出来るのだろうか?

認知症の症例 認知症の症例-前頭側頭葉変性症(FTLD)

 

認知症患者さんの先を予見して備えておくことは、どの程度可能なのだろうか?色々と考えさせられた症例を紹介する。

 

認知症と万引き

 

 

70代男性 正常圧水頭症+ピック病疑い

 

初診時

 

(既往歴)

膝関節痛でリリカ内服中 

(現病歴)

最近急に物忘れが進んできたかもと。娘さんと奥さんと来院。本人はニコニコしているが非常に子供っぽい印象。また取り繕いも猛烈

(診察所見)

HDS-R:13
遅延再生:0
立方体模写:不可
時計描画:微妙
クリクトン尺度:10
保続:なし
取り繕い:ありあり
病識:なし
迷子:あり
レビースコア:-
rigid:なし
幻視:なし
ピックスコア:3(腕組み、甘いもの好き、語義失語)
頭部CT左右差:やや左有意萎縮か? DESHありかな?
介護保険:なし
胃切除:なし
歩行障害:ワイドベース
排尿障害:頻尿
易怒性:あり


(診断)
ATD:△
DLB:
FTLD:△
MCI:
その他:iNPH

iNPH(特発性正常圧水頭症)にATD合併、Pickの要素がどうかというところ。まずはタップテストを勧めた。
本人は「大丈夫。オレはなんともないんだ!」と拒んでいるが・・・ご家族で検討を。

 

タップテスト後

 

何とかご家族が本人を説得し、タップテストにこぎ着けた。

 

ワイドベース歩行が一時改善するも、徐々に元に戻っていったと。タップテスト陽性と考える。ご家族希望でLPシャント手術を行うことに。ご本人は今度は「いいよー!」と陽気に返事。

 

LPシャント術後1ヶ月目評価

 

LPシャントにより、MMSEは16→20と4点の改善。また、ワイドベース歩行及び頻尿も改善。

 

LPシャント術後6ヶ月目評価

 

  • 3m 8.84s(8.26s)
  • 起き上がり 2.19s (2.25s)
  • BBT 48/56(46/56)
  • MMSE 19/30 (20/30)
  • TMT 1:13 (1:42)
  • FAB 10/18(8/18)
  • FIM 111 

 

順調な経過。()内は前回評価時の数値。糖質制限を勧めた結果、20kgの減量に成功し糖尿病の薬も卒業出来ている。異常な子供っぽさは相変わらずだが。

 

この1ヶ月後・・・

 

万引きで警察に捕まったと連絡あり。ピック病の可能性ありとの診断書を、カルテのコピーと併せて警察に提出。

 

LPシャント術後9ヶ月目評価

 

待ち時間にイライラし大声を出す

運動面は変化なし。
MMSE13/30と前回より6点低下。

万引きの件は、診断書提出で速やかに処理され事なきを得たようだ。しかし、まったく悪びれる様子はない


取り繕い言動大いに目立つ。内服治療は拒否。話の途中で立ち去るように診察室を退室

 

まずは家族からフェルガードを勧めてもらうことに。それでもダメなら何か方法を考えましょう。

次回は術後1年目フォローを。

 

(記録より引用終了)

 

初期から目立っていた滞続言語

 

取り繕いが非常に目立つ方であったが、同時に子供っぽさも際立っていた。また印象的だったのが、術前に交わした以下のようなやり取り。

 

  (医師)皮下脂肪がかなり多いので、手術が少しやりにくいかもしれませんね。

 

  (患者)先生、そん時にはドリルでガンガン穴を開けていいよー、ガハハハ(笑)

 

  (医師)背中にチューブがどうしても入らない場合には、無理せずに手術は中止しますからね。

 

  (患者)先生、遠慮せんでドリルでガンガンやっていいからねー、ガハハハ(笑)

 

  (医師)どうしても、という時には考えます(笑)。でも、手術までに頑張って少しでも痩せてきて下さいね?

 

  (患者)大丈夫大丈夫、ドリルで〜(以下ループ)

 

いわゆる「滞続言語」である。

 

  ピック病でよくみられる特徴的な言語障害。話や日常会話の中に常同的、惰性的で同じ内容の言葉が繰り返される状態。(meddicより引用)

 

この滞続言語は当初から認めていたので、取り繕い(アルツハイマー型認知症の要素の一つ)は目立つものの、ピック病>アルツハイマー型認知症の印象で経過を見ていた。

 

早期にウインタミンを入れていたら果たして・・・

 

この方の初診時の様子と頭部画像を以下に示す。

 

万引きとピック病の関係

 

ピック病によくみられる「腕組み」は初診時から認めていた。頭頂脳溝消失という正常圧水頭症の画像所見はしっかり認める。また、頭部CTで左側頭極の萎縮に左右差を認めていた。これは、前頭側頭葉変性症の所見と考えられる。

 

初診時のカルテにピック病の可能性について記載していたので、速やかに診断書を作成して窃盗の罪を免れることは出来た。

 

しかし、

 

  早い段階でウインタミンを開始していたら、万引きを回避できた可能性はないだろうか?

 

 

この考えが頭をよぎる。

 

介護負担を増すような目立った周辺症状がない状況(初診時はクリクトン尺度10点)で向精神薬を使用することには、普通に考えると無理がある。ただし、滞続言語や子供っぽさが少量ウインタミン内服で和らぎ、家族が少し楽になった可能性はあるが。

 

「初診時の画像で萎縮に左右差があり、かつピック病の要素を既に認めている」のであれば、副作用を出さないであろう2mg〜4mg/day程度の量で、ウインタミンを早期から保険的に入れておくことは許容されないだろうか?

 

何故このようなことを考えるかというと、本格的にピック病の要素が前面に出てきた場合、薬を拒否する方が非常に多いからである。

 

万引きという「犯罪」を起こしやすい(他の認知症と比較して)と言われているピック病。その対策として、

 

  極少量ウインタミンの超早期投与

 

このようなことも、今後は念頭に置いておこう。

 

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