鹿児島認知症ブログ

鹿児島でコウノメソッドや糖質制限を実践している脳神経外科医のブログ

【書評】コウノメソッド流 認知症診療スピードマスター

 

認知症外来を始めて、そろそろ丸五年が経過する。

 

外来で得られた各論的知見を、机上の勉強で学んだ総論にフィードバックさせ続け、「自分なりの」総論を模索する日々である。

 

これから認知症外来を始めようと考えている医師にお勧めの本

 

コウノメソッドの新刊「認知症診療 スピードマスター」を読んだ。

 

コウノメソッド流 認知症診療スピードマスター
河野 和彦
日本医事新報社
売り上げランキング: 51,501

 

この本の読者として想定されているのは医師であろう。

 

特に、「これから認知症を勉強してみよう、認知症外来をしてみよう」と考えている医師は、一度手に取ってみることをお勧めする。

 

ざっと目次を眺めてみると、「概要編:認知症診療の大枠」と「実践編:コウノメソッドの実施方法」の大きく2つに分けられている。【概要編】は

 

  1. 認知症診療に必要な視点
  2. コウノメソッドでみる認知症

 

と、2章立てでコウノメソッドの概要が語られている。

 

そして【実践編】では

 

  1. 実践にあたって
  2. 問診マスターになろう
  3. 診察マスターになろう
  4. 検査マスターになろう
  5. CT読影マスターになろう
  6. 処方マスターになろう
  7. サプリメントマスターになろう
  8. 点滴療法マスターになろう
  9. 予防マスターになろう
  10. プロフェッショナルになろう
  11. 認知症外来イメージトレーニング
  12. 症例改善集

 

と、12章にわたって認知症外来を運営するための方法論やコツが書かれている。 

 

認知症をより”効率的に”診断治療するための実践編に最も紙幅が割かれているのは当然で、読者の多くに需要があるのもここだろう。既に外来で認知症を診ている医師にとっては、6、7、8章あたりが参考になるかもしれない。

 

長谷川式テストのやり方、時計描画テストの判断について、頭部CTの読み方、認知症病型診断の方法、病型に応じた薬剤の具体的な選択、その用量調整について等々、この1冊で「コウノメソッドを用いた実践的な認知症外来」というものがどういうものなのか、おおよそ分かるはず。

 

ただ個人的には、概要編で述べられていることこそ大事だという考えである。なかでも、

 

「認知症は経過とともに混合型認知症になる(p3)」

 

このことを前提としているかどうかで認知症診療の長期成績は相当変わってくるので、初めてコウノメソッドに触れる方であれば、概要編は是非飛ばさずに熟読して頂きたい。

 

認知症診療 スピードマスター

同書 p3より引用


数年後の悪化が変性疾患の単純増悪という捉え方だけでは、抗認知症薬の定型的処方しか武器を持たない認知症外来など早晩行き詰まらざるを得ず、ここをどう捌いていくかにこそ、コウノメソッドの醍醐味があるといっても過言ではない。 

 

www.ninchi-shou.com

 

どんな武器を装備するかは、人それぞれ

 

自分が認知症外来を始めた頃を振り返ると、知識は足りず整理もされておらず、始めるにあたって自信があるわけでもなかった。

 

それでも「今、やらなければならない」と考えて認知症外来を始めたのだが、一例目で著効例が出たことについては、ただただ運が良かったと思っている。序盤で成果が出せたことは、その後のモチベーション維持に大きく寄与している。

 

www.ninchi-shou.com

 

学びの方向性がある程度決定される可能性があるので、何かを始めようと思ったときに最初に手に取る本は重要である。

 

そういう意味では、認知症を勉強するにあたって最初にコウノメソッドの書籍を手にすると、その後は「コウノメソッドというフィルター」を通して認知症を眺めていくことになる可能性が高い。

 

そのことの是非は、ここでは措く。

 

みな、自分の実臨床に役立ちそうなものを取り入れながら、自分なりのスタイルを作っていく。なので、ひとくちに「コウノメソッド実践医」といっても様々であろうし、また、実践医というだけで質が担保されるものでもない。

 

様々に工夫しても上手くいかないケースを経験する度に、自分の総合的な実力不足を痛感しこそすれ、「コウノメソッドがダメなんだ」と考えたことはない。

 

自分はコウノメソッド実践医だが、自分が提供する医療の”すべて”がコウノメソッドに基づいているなどということが、あり得るはずもないからである。

 

コウノメソッドを用いて上手くいかなかったとき、それが「コウノメソッドが不完全だから」と言えるのは、河野先生だけだろう。頭からつま先までコウノメソッド実践者と言えるのは、発案者の河野先生しかいないのだから。

 

今後のコウノメソッドの方向性、そして期待すること

 

現在河野先生のブログの更新は途絶えているため、今後どのような方向にコウノメソッドが発展していくかは分からない。

 

自分の臨床を通じて感じていることから何となく推測すると、「成人期ADHDとMCIを掘り下げていくのではないか?」と思っている。

 

ところで先日、「認知症疾患診療ガイドライン2017」が出版されたのだが、

 

コウノメソッドと認知症疾患診療ガイドライン

この2冊が手元にあると便利だろう

 

最新のDLB診断基準(2017)で、中核的特徴に「REM睡眠行動異常(RBD)」が加わったことを確認した。

 

RBDを有するDLB患者さん、そして、DLB発症にRBDが先行していたという患者さん、いずれも自分の外来では非常に多く見受けられる。今回のDLB診断基準改訂には、個人的に納得いくものがある。

 

次にofficialなコウノメソッドが更新されることがあるとすれば、ひょっとするとRBDへの傾斜配点を盛り込んだレビースコアの整理と改訂が行われるかもしれない、と期待している。*1

 

自分の外来では、今回の認知症疾患診療ガイドラインの改訂を受けて、問診票を新たに作り直した。これはまた別の機会でブログに書く予定。
 

認知症の診断はある程度操作的に行わざるを得ないが、現行のレビースコア、そしてピックスコアがブラッシュアップされたら、コウノメソッドの安定性は更に増すだろうと思っている。*2 

 

認知症疾患診療ガイドライン2017

医学書院
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*1:現状のレビースコアでは、例えば「病的なまじめさ(1点)」+「日中の嗜眠(2点)」=3点で、"DLBの疑い濃厚"となってしまう。勿論、経験を積めば「まあ、それはないよな」ということは分かってくるのだが。自分の場合、連続700例でHDSR、レビースコア、ピックスコアをすべて自分で行い、”スコアには乗らない微妙な”ニュアンスについてはある程度理解したつもりでいる。

*2:現行のレビースコアとピックスコアは、それぞれの疾患を的確に拾い上げるというより、若干over indication的に「DLB」、「FTLD」と診断することにより、「認知症≒アルツハイマー」という即断から行われてきた過剰なドネペジル処方に歯止めをかけることが目的になっているようにも思える。