鹿児島認知症ブログ

鹿児島でコウノメソッドや糖質制限を実践している脳神経外科医のブログ

初期集中支援チームの活躍。

 支援相談員、保健師、看護師、医師など複数の専門職で結成される、「認知症初期集中支援チーム」という取り組みがある。

 

全国各地の地域包括支援センターには、家族や近隣住民から「うちの父親が認知症かもしれない」とか、「近所の〇〇さんの様子が最近おかしい」といった相談が、日々持ち込まれる。

 

同居家族からの相談であれば、かかりつけ医への相談を促すか、認知症診療を行っている病院のリストを渡して受診を促せばよい。しかし、近隣住民からの相談に「では、あなたが病院に連れて行ってあげて下さい」とは言えない。

 

自分の観測範囲では、初期集中支援チームが関わる案件は、独居もしくは老老介護世帯であることが多い。

 

以前、以下の様な記事を書いたが

 

www.ninchi-shou.com

 

その後もコンスタントに依頼は続いている。

 

今回紹介するITさんも、初期集中支援チームから依頼があった方である。

 

「近所に住むITさんという人が最近おかしなことを言うようになった」と、ご近所さんから地域包括支援センターに相談があった。

 

包括スタッフが娘さんに事情を聞いたところ、娘さん自身は母親の認知機能低下についてさほど困っていないことが分かった。

 

家族はあまり困っていない。しかし、ご近所さんは不安に思っている。包括スタッフとしては、どちらの顔も立てる必要がある。

 

「一度、かかりつけ以外の先生の診察を受けてみませんか?かなりの数のお薬を飲んでおられるようですが、把握出来ていないのか残薬が結構あるようです。また、もの忘れだけでなく、今飲んでいるお薬の相談も出来ると思いますよ?」

 

ITさんへの支援のために関係者が集まり第一回目の会議が行われた際、担当の包括スタッフから、上記の様な説明で娘さんに受診を促したと報告があった。上手いやり方である。

 

母親の認知機能低下には困っていない娘さんだったが、薬の多さについては心配していたようだ。見る目を持った専門のスタッフが生活を子細に観察し、発見した問題点を複数提示すれば、そのうち幾つかは家族に刺さるものである。

 

経験上、「認知症だから受診しなさい」ではなく、刺さった何かをとっかかりにして介入した方が、結果的には上手くいくことが多い。

 

拙い包括スタッフは、「とにかく病院に繋げたら、それで自分達の仕事はお終い」と考えている節があるが、センスのあるスタッフは、その後の関係構築が上手くいくように最初から取り計らってくれる。ありがたいことだ。

 

87歳女性 アルツハイマー型認知症

 

初診時

 

(現病歴)

2年前に財布のもの盗られ発言があったことでかかりつけ医がドネペジル開始。その頃のHDSRは17~19/30だったと。ドネペジル開始以降、目だった改善はなし。

 

その後、長男を病気で亡くしてから妄想言動が増えた。「天井で音がする、近所の人の悪戯だろう」など。ただ、「近所の人がいつの間にか〇〇してくれていた。有り難いことだ。」といった微笑ましい勘違いも多いのだと。

 

畑に行くのが日課だが、最近は足腰が弱ったのかふらつくことが目に付くのだと。娘さんとしては特に大きく困ってはおらず、整理できる薬があればして欲しいというご希望。集中支援チーム案件。

 

(診察所見)
HDS-R:9
遅延再生0:
立方体模写:不可
時計描画テスト:不可
IADL:3
改訂クリクトン尺度:6
Zarit:13
GDS:2
保続:なし
取り繕い:あり
病識:なし
迷子:あり
DLB中核症状:1/4
rigid:なし
幻視:あり?幻聴?
FTD中核症状:0/6
語義失語:なし
頭部CT所見:ビンスワンガー軽度
介護保険:要支援1
胃切除:なし
歩行障害:なし
排尿障害:やや排尿困難 夜間頻尿なし
易怒性:なし
過度の傾眠:なし

(診断)
ATD:〇
DLB:
FTLD:
その他:

(考察)

 

ドネペジル5mgを内服しながら、約2年で10点程度のHDSR低下。遅延再生は0で視空間認知テストは不可、病識はなく取り繕いはあり、アルツハイマーで矛盾はない。要支援1は低すぎる可能性あり。

 

家族が精神的には困っていない状況。まずは薬の整理から。

 

効果のなさそうなバップフォー、モサプリドとガスコンは中止。処方根拠が不明なアトルバスタチンも中止。妄想があるのでドネペジルは3mgに減量

 

過降圧が疑われるので、降圧薬も減量。両側下腿浮腫はカムシア配合錠に含まれるアムロジピンの影響を考える。

 

過降圧の影響もあろうが、ふらつきは芍薬甘草湯による低Kの影響は?足がつることはないとのことで中止。月に一回のアレンドロンは中止にして、毎日内服のエディロールに変更。

 

内服は朝3種類だけに整理。次回は採血結果説明。

 

(前医処方)

 

  1. ドネペジル(5) 1T1XM→3mgに減量
  2. カムシア配合錠 1T1XM→中止してアジルバに変更
  3. バップフォー(10) 1T1XM→中止
  4. モサプリド(5) 2T2XMA→中止
  5. ガスコン(40) 2T2XMA→中止
  6. 芍薬甘草湯 2P2X→中止
  7. アトルバスタチン(5) 1T1XA→中止
  8. アレンドロン酸(35)1T1X 毎週1回→中止してエディロールに変更

 

1ヶ月後

 

減薬の結果、これまでで最も調子が良いと娘さんは喜ぶ。特に、下腿浮腫が改善したのが嬉しいようだ。これはカルシウム拮抗薬中止によるものだろう。

 

ご本人は、当方の顔を覚えていてくれた。

 

体重は-2kg。食欲は変わらないとのことなので、浮腫軽減の結果と考えておく。


低音性の耳鳴が以前から。それが「誰かが来た」という錯覚妄想に繋がることがあるようだが、別に拗らせているわけではないので様子観察で。

 

今回付け加える処方はなく、前回内容を維持。良かったですね。

 

(採血結果)

 

  • AST(GOT):22IU/l
  • ALT(GPT):13IU/l
  • 尿素窒素:9.5mg/dl
  • カリウム (K): 3.0mEq/l
  • LDL-CHO: 165mg/dl
  • 中性脂肪(TG):63mg/dl

 

低Kは芍薬甘草湯の影響だったのだろう。BUN低値につき、卵でタンパク摂取励行。TG2桁でLDLは基準上限をやや越え高値。スタチンの必要性は低く、このままアトルバスタチンは中止でいいだろう。

 

(当院最終処方)

 

  • ドネペジル(3) 1T1XM
  • アジルバ(20) 1T1XM
  • エディロール(0.5) 1C1XM

 

(引用終了)

 

 

www.ninchi-shou.com

 

 

認知症初期集中支援チーム

Photo by rawpixel on Unsplash