鹿児島認知症ブログ

鹿児島でコウノメソッドや糖質制限を実践している脳神経外科医のブログ

物忘れ外来の流れを紹介。例えばレビー小体型認知症と診断する場合。

 認知症外来での患者さんとの会話について考えてみる。

 

医者「最近調子はどうでしたか?夜は眠れていますか?」

患者「あんまり変わらんね。眠れるときもあれば、眠れない夜もたまにあるよ」

 

どうということのない会話である。しかし、注意しながら聞いていると・・・

  • 話す声が小さい(レビー的)
  • 視線が合わない(レビー的)
  • 同一内容の話を執拗に繰り返す(ピック的)
  • 声の抑揚がなく場にそぐわない大声(ピック的)
  • 言い訳めいて取り繕いが多い(アルツハイマー的)

 

このような診断のヒントとなるフック(ひっかかり)は結構見つかるものである。長谷川式テストを自分で行うのは、ひとえにこの引っかかりを一つでも多く得るためである。ここを外注(他のスタッフに依頼すること)してしまったら、せっかくの情報を失う事になりかねない。

 

70代女性。最近活気がなくウトウト、物忘れが気になって来院したケース

 

入室時の足取りはスローだが、小刻み歩行とまではいかない。ゆっくり椅子に腰掛けた姿勢は、やや右に傾いている。

 

医者「今日は健康診断みたいなものですので、気楽にお答え下さい。最近お困りのことはありますか?」

患者「特にないけど・・・何かすみませんねぇ・・(視線が合わない、か細い声でボソボソ話す)」

医者「何もないに越したことはないんですよ。ちょっと手を貸して下さい(両肘で筋固縮をチェック。わずかに右上肢に歯車様筋固縮を感じる)」

医者「ありがとうございました。年を取るとトイレでお困りの方が増えてきますが、〇〇さんはどうですか?トイレが近かったり、便秘だったりしませんか?」

患者「便秘は昔からあるねぇ。トイレはそこまで近くないけど。」

家族「(小声で)先生、夜に5〜6回はトイレに起きますよ。日中も結構多いと思います。あと、夜中にビックリするくらい大声で叫ぶことがあるんです。」

医者「そうですか。悪い夢でうなされているのでしょうかね(REM睡眠行動異常かな?)。あと、年を取れば大抵トイレが近くはなりますよね(自律神経症状あり、かな?)。ところで、ウトウトすることが増えてきたとのことですが、日中ずっとなのですか?」

家族「いいえ。とてもハッキリしていることもあるんですが、かと思うと眠りこけていたり。調子の波が大きいんですね。」

医者「なるほど。ところで、お薬のアレルギーなどお持ちではないですか?」

家族「アレルギーはないですけど、風邪薬を飲んだ後はいつもウトウトしていますね。」

医者「そうですか。お薬に過敏な体質なのかもしれませんね。では、簡単なテストをさせて下さい。」

 

  長谷川式テスト施行。30点満点の20点。遅延再生は6点満点の4点。質問に対して長考する。透視立方体模写は不可。時計描画テストは拙劣。

 

DLBの透視立方体模写と時計描画テスト

 

 

医者「テストの点数は悪くないですけど、ちょっと時間がかかりましたね。あと、絵を描くことには得手不得手があるので、あまり気にしないでいいですよ。頭のCT写真も大きく引っかかるところはないようです。」

患者「はい・・(困ったような、少し悲しそうな笑い)」

家族「そうなんですね。じゃあ、今後どのようにしていったらいいのですか?」

医者「そうですね。日常生活で大きく困るところは何でしょう?

家族「そうですね・・・夜にいきなり大声が聞こえると、私たちもビックリして目を覚ましてしまいます。アレが落ち着いてくれるといいんですけど・・・」

医者「分かりました。では、寝る前に抑肝散という漢方薬を、一袋だけ飲んでみましょう。〇〇さん、これで寝付きが良くなると思いますよ。」

患者「ありがとうございます(小声)」

医者「では、お薬の注意点についてご家族に説明するので、〇〇さんはちょっと診察室の前でお待ち下さいね。お疲れ様でした。」

 

  その後、ご家族にレビー小体型認知症の可能性について説明。今後リバスタッチや抗パーキンソン薬など必要になるかもしれない、とお話しした。

 

外来での会話における注意点と、悩ましいトレードオフ

 

気をつけている点としては、

 

  • 必ず患者さんを会話に挟む。ご家族とだけ話し続けることはしない。
  • 患者さんの前で露骨な話はしない。例えば予後についてとか、将来は施設にどうこう、など。
  • 薬で起きるかもしれない副作用については、必ず事前に伝えておく。
  • 診察中は、極力電子カルテ入力は控える

 

このようなところ。最後の項目は個人的なこだわりだが、

 

  こちらを向いてくれない医者に、患者さん(家族)は真剣に何かを話す気にはなれない

 

と思うからである。どうでしょうね?そうではない人も大勢いるのかもしれませんが。

 

ただ、このこだわりの為に相当な時間を使っている(入力作業を後回しにするため)のは事実である。ここにこだわらなければ、外来回転率はかなり上がるし、そうするとより多くの患者さんを診ることが出来るとは思う。

 

しかし、その分一人一人の患者さんやご家族の満足度はちょっとずつ下がってしまう気もする。

 

外来診療における永遠のトレードオフなのだろうが、待ちくたびれている患者さんや家族を見るたびに、「何か良い工夫はないものか?」と考え込んでしまう。