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鹿児島認知症ブログ

鹿児島でコウノメソッドや糖質制限を実践している脳神経外科医のブログ

介護の悩みは誰に相談したらいいのだろうか。

介護の話題

何を(誰を)信じていいのか分からなくなるご家族

 

先生、患者さんの娘さんから相談の電話があって。かなり困っているご様子なので診察をお願い出来ますか・・・?

 

外来日ではない日に、当院外来看護師さんからこのような依頼があった。大抵は皆さん困って来られるので、わざわざそのように前置きするには、何らかの事情がありそうだ。

 

介護の悩み

 

 

81歳女性 二次性ピック病(LPC)

 

初診時

 

(既往歴)

脳梗塞3回

 

(現病歴)

2回目の脳梗塞を起こしてから、非常に多弁になった。
現在在宅で娘さんがマンツーマンで介護。突発的に怒り、大声を出す、屋内で娘さんの姿が見えないと、捜しまわるなど。


ピック感あり、立ち去り行動あり。身体も触らせない、採血も不可。

 

(診察所見)

HDS-R:施行不可
遅延再生:施行不可
立方体模写:不可
時計描画:不可
クリクトン尺度:38
保続:?
取り繕い:?
病識:なし
迷子:なし
レビースコア:3
rigid:施行不可
幻視:なし
ピックスコア:6.5
頭部CT左右差:右有意に萎縮
介護保険:要介護3
胃切除:なし
歩行障害:脳梗塞後遺症
排尿障害:あり?
易怒性:ありあり


(診断)
ATD:
DLB:△
FTLD:〇
MCI:
その他:DESHあり?

 

感情失禁はなさそう。 不機嫌ぶり含めてPick的。Tabletサインは陽性なので正常圧水頭症の関与はあるかも。メインの要素はPickでPick>DLBの2次性LPCと考える。引き金を引いたのが脳梗塞だろう。


薬剤過敏が強く、セロクエルは少量でも猛烈に体幹傾斜を起こしたらしい。抑肝散で食欲が落ちたと。

 

治療目標は易怒性の改善と、夜間睡眠確保による娘さんの介護負担軽減


現在抑肝散3P3X内服中で活気がないと。これをウインタミン4mg-6mgに変更する。マイスリー10mgはロゼレム8mg+ベンザリン5mgに。


来週娘さんだけでもいいので再診を。老健入所を控えているので、その前に方向性を決めたい。

 

(記録より引用終了)

 

脳血管性認知症と考えるべき?

 

2回目の脳梗塞で右基底核~放線冠にかけてダメージを負い、その後臨床的にピック症状を呈するようになった方。

 

こういった場合、いわゆる古典的な脳血管性認知症とは考えずに、ピック病に準じてピック症状に対してアプローチするようにしている。

 

具体的には、抑制系のファーストチョイスをグラマリールではなく、ウインタミンに設定する、ということである。

 

この方はマイスリーでせん妄を起こしているにも関わらず、10mgで継続されていたので中止。代わりにロゼレムとベンザリンの組み合わせで睡眠確保とし、抑制系にはウインタミン4mg-6mgを選択。薬剤過敏性を考えると過鎮静のリスクはあったが、ここで重視したのは

 

クリクトン尺度38点

 

という高い介護負担。娘さんが一人で介護をしており、ご自身も足が不自由なため身体介助がかなり苦痛である、と嘆いておられた。

 

過鎮静のリスクはあるが、介護者保護を優先すべきと判断した。当然娘さんにはその旨を説明し、了承を得た。

 

ちなみに、患者さん本人は診察室入室後にすぐ退室していた(立ち去り行動)。これは、とてもピック的である。

 

認知症外来受診を勧めたかかりつけ医。そして、その受診を妨げたかかりつけクリニックの看護師

 

娘さんが周辺症状悪化の相談をかかりつけ医に行い、当院に対して紹介状を書いてもらった。そのことに対してかかりつけクリニックの看護師に

 

認知症外来を受診しても、眠剤を増やされて一日中寝ていたり、薬漬けにされたりすることが多いけどね〜。それでも受診するの?

 

と言われた娘さんは

 

今日受診させたことも、良かったのかどうか分からない。悪く思われたら、あのクリニックに行きづらくなる・・

 

と外来で泣いておられた。

 

この看護師はこれまでに、認知症外来を受診したことによって逆に症状が悪化してしまった患者さんを多くみてきたのかもしれない。そうであれば、老婆心からこのように発言したとも考えられる。

 

「受診するな」と言うのは別に構わないのだが、その際には「受診はせずに、まずはこのようにしたらどう?」といった代替案を提示すべきではないだろうか?そうでなければ、このような発言は患者さんや家族を不安にさせるだけであり、何の意味も無い只の自己満足に過ぎない。

 

家庭天秤法が威力を発揮。1週間でとても穏やかになり落ち着いた

 

これまで5〜10回は夜中に起こされ、その都度トイレ介助などで疲弊しきっていた娘さん。このしんどさを想像できるだろうか?

 

  • ロゼレム+ベンザリン5mgで初日はぐっすり。しかし、翌日は昼過ぎまでふらふらしていた。
  • 次の夜は、ロゼレム+ベンザリン2.5mg。これでもまだ翌日まで持ち越したため、ロゼレムのみにしたところ上手くはまった
  • ウインタミン4mg-6mgだと、日中の傾眠が目立った。そこで、朝4mgだけにしてみた。
  • それでも傾眠が目立ったので、ウインタミンは中止にした。この時には既にロゼレムで夜間良眠が得られており、その影響か日中の易怒性があまり目立たなくなっていた。

 

この調整は、全て娘さんの判断で行っている。勿論、前もって「薬が効きすぎていると思ったら、減らして下さい」と伝えてある。いわゆる「家庭天秤法」である。家庭天秤法が最も力を発揮するのは、抑制系薬剤(穏やかになってもらうための薬)の調整において、である。

 

家庭天秤法のメリットは以下の3点。

 

  • 介護者に、「自分も治療に参加している」という緊張感が生まれる。
  • その結果、観察眼が養われる。
  • 薬の上限量が設定してあり、その設定さえ適切であれば介護者は安心してその範囲内で薬の量を調整できる。上限量の設定は、医師の重要な仕事である。

 

しかし、以下のような注意点はある。

 

  • 介護者に一定のリテラシーと勉強、覚悟が必要。
  • 独居(一人暮らし)の方には用いることは出来ない。
  • 医師が上限設定量を間違うと、ひどい過鎮静を来す可能性がある。

 

家庭天秤法は「攻めの診療」、家庭天秤法が出来ない場合は「守りの診療」と言い換えてもよい。最大限の治療効果が得やすいのは「攻めの診療」であるが、「守りの診療」を行わざるを得ないケースも多い。これはその方の状況に応じて選択するというだけのことである。

 

この方は、娘さんの判断で最終的にはロゼレムのみとした結果、夜間に起きる回数は2回程度まで落ち着いた

 

自分も母親もよく眠れるようになった

 

と娘さんは大満足。

 

かかりつけクリニックの看護師の勧めに従って受診しなかったら、今頃どのような状況になっていたであろうか?

 

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