鹿児島認知症ブログ

鹿児島でコウノメソッドや糖質制限を実践している脳神経外科医のブログ

決められない人たち(2)

 

ある日のこと。

 

高血圧で通院中の50代前半の女性が、見るからに不機嫌そうな顔の夫を連れて来院された。

 

50代前半の男性 大酒家、高血圧、脂質異常

 

診察室で話すのは、ほとんど奥さんだった。

 

  • 毎晩3合以上の焼酎と缶ビール1~2本を、30年以上続けている
  • 朝はご飯、味噌汁、焼き魚など
  • 昼は奥さんの手弁当で内容は普通
  • 夜は主食は摂らずに、酒を呑みながらおかずをつまむ
  • 運動はしていない

 

このような生活を続けていたところ、

 

  • AST 58
  • ALT 46
  • γ-GTP 364
  • TG 502
  • HbA1c 5.8
  • BP155/98

 

健康診断でこういった結果が出たことに、本人よりも奥さんが慌てて当院に引っ張って連れてきたという経緯だった。

 

今回に限らず、以前の健康診断でも高血圧を指摘され降圧薬が処方されたことがあったようだが、1ヶ月内服して自己判断で中止した過去がある。

 

「健康診断の結果は気にはなるが、自分なりに色々と工夫している」

 

そう話すご主人の目は泳いでいたので、具体的にどのような工夫をしているかは敢えて聞かなかった。その様子を、奥さんは横で白い目で眺めている。

 

飲酒量を減らすことが先決だろうと考えたが、この手の人は飲酒量にケチを付けられることを最も嫌う(経験上)。

 

  • 朝のご飯はやめて、味噌汁とおかずのみで済ます
  • 昼は普通に食べる
  • 夕食はタンパク質中心にする
  • ビタミンCの積極摂取を(高タンパク+高ビタミンC=しなやかな血管)
  • 薄味に慣らしていく
  • 散歩でいいから運動を

 

まずは、このようなことに取り組むことをお勧めした。

 

そして、「成果が出れば継続すればよいし、変わらなければ飲酒量を一日1合まで減らしてみてはどうですか?」と提案した。

 

断酒を含む厳重な指導(≒説教)を期待していたらしい奥さんは、拍子抜けしたようだった。

 

「血圧の薬は飲んだほうがいいですよね?野菜はもっと食べるべきですよね?」

 

そう尋ねる奥さんに、

 

「以前、1ヶ月だけ飲んでやめたんですよね?自分で納得して飲まないと続かないでしょうし、血圧も今の数字であれば慌てなくてもいいとは思います。まずは、自宅でしっかりと血圧測定をした方がいいですよ。病院や健康診断の測定値だけで決めない方がいいと思います。」

「変えられそうな生活習慣を変えることが先決だと思います。勿論、酒量も出来れば減らしたいです。このままだと、60歳でアルコール性の肝硬変、そして糖尿病になっている可能性は結構高いと思います。」

 

と答えた。

 

不機嫌そうに無言のままでいるご主人を見ながら「ああ・・」と思い、ご主人に向かって更にこう続けた。

 

「結局は、自分自身の問題なんです。薬を飲むか飲まないかを決めるのは医者ではなく、あなたです。生活習慣を変えるかどうかを決めるのも医者ではなく、あなたです。家族の心配と自分の健康を考えて、決断するのは医者ではなくあなたです。僕はあなたにアドバイスをしながら、一緒に考えていくことは出来ます。」

 

「今は薬は飲まずに、いくつかの生活習慣を改めてみる」と言って、ご主人は診察室を出て行った。その後ろをついていく奥さんの背中は、どこか寂しそうだった。

 


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