鹿児島認知症ブログ

鹿児島でコウノメソッドや糖質制限を実践している脳神経外科医のブログ

アリセプト内服で、うつの副作用が出現。

若年性アルツハイマー型認知症疑いで経過をみている方をご紹介。

 

試行錯誤しながら、あっという間に一年以上が経過した。

  

若年性アルツハイマーの頭部CT画像

若年性アルツハイマーの長谷川式、時計描画、透視立方体

 

59歳女性 アルツハイマー型認知症疑い

 

初診時

 

物忘れ、しまい忘れ、同じことを何度も尋ねる、日時が怪しいとのことで夫に伴われて来院。ゴミ出しの日時の間違いが増えて、ご近所とトラブルになることがある。


本人はやや自覚ありか。「たまに記憶が飛びます」と。これ取り繕い言動のようにも聞こえる。

 

(診察所見)

 

HDSR17.5
遅延再生3/6
立方体模写OK
時計描画OK
rigidなし
レビースコア0
ピックスコア1
クリクトン0(ただし自己採点)

 

頭頂葉、海馬萎縮あり。長谷川式テストの途中で保続を多く認め、取り繕いあり。


アルツハイマー型認知症の可能性を考えイクセロンパッチで介入開始。フェルガード100M併用。周辺症状は認めない。既往歴に特記事項なし。

1ヶ月後

 

(改善点)

落ち込むことが明らかに少なくなった。


(悪化点)

なし。軽度そう痒感。

 

しばらくはイクセロンパッチは4.5mgで。フェルガード100Mも併用で。
旦那さんは仕事で家を空けることが多い。二人暮らし。

本人の希望で介護保険利用は今は見送り、有料ヘルパーを依頼。主にゴミ出しをお願いすることに。

 

2ヶ月後

 

フェルガード100M開始で更に落ち込むことが少なくなった。いい調子ですと。昔好きだったピアノも始めましたと。イクセロンパッチの発赤部分にはフルメタローションで対応。

 

3ヶ月後

 

  • HDS-R16
  • 遅延再生2/6

 

再評価ではほぼ横ばいかな。周辺症状はなし。

 

4ヶ月後

 

イクセロンパッチは掻痒感が強く、足底に貼っても強く発赤が出たため中止。穏やかなATDなので、アリセプトに変更。フェルガードもLAにしてみましょうか。

 

5ヶ月後

 

アリセプト3mgで3日間嘔気あり。その後は大丈夫。
目立った改善はないと。フェルガードもLAに切り替わった。しばらく3mgで。

 

8ヶ月後

 

  • HDSR19
  • 遅延再生6/6

 

HDSR上昇。治療効果ありかな。ご主人は実感しているが、本人は自信なさげである。

次回でアリセプトは5mgに増量かな。

 

10ヶ月後

 

  • HDSR24
  • 遅延再生5/6

 

前回アリセプトを5mgに上げたが、これまでで最も良い
ココナッツオイルを併用しましょう。

 

15ヶ月後

 

アリセプトでうつ傾向になると
2週間ほど止めてみると、気分は晴れる。

 

この変化は、本人と御主人両者が感じているとのこと。
相談して5mgから3mgに減量。その代わり、サボりがちなフェルガードLAとココナッツオイルをしっかりと忘れずに。

 

(記録からの引用終了)

 

アリセプトの副作用をおさらい

 

今回は「うつ」という副作用がちょっと珍しかったので取り上げてみた。添付文書にも一応記載はある。

 

*精神神経系 0.1~1%未満 

興奮、不穏、不眠、眠気、易怒性、幻覚、攻撃性、せん妄、妄想、多動、抑うつ、無感情

 

これまで当ブログでは、複数例のアリセプト副作用報告をしてきた。

 

有名な副作用としては

 

  1. 興奮、イライラ、怒りっぽくなる
  2. 下痢をしたり腹痛を起こしたりする
  3. パーキンソン症状(手のふるえ、足の出にくさ)

 

こういった症状があげられる。徐脈などは場合によっては命に関わるので要注意である。

 

www.ninchi-shou.com

 

副作用として臨床上問題になりやすいのは1。その為、グラマリールなどの抑制系薬剤を併用しながらアリセプトを出すこともある。最近では、ファーストチョイスでアリセプトを選択することは、ほぼないのだが、

 

  • 独居でイクセロンパッチやリバスタッチなどの貼付剤が使いにくい環境である
  • 吐き気を催しやすく、レミニールが使いにくい状況である
  • 降圧薬や抗血小板薬など、他の薬が全て朝一回の内服になっている

 

このような状況の方で、尚且つ穏やかなアルツハイマー型認知症の可能性が高い方に限って、アリセプトを出すケースはある。ただし、少しでもピック病のニュアンスを感じた場合には処方しないようにしている。易怒性亢進のリスクは、極力回避するに越したことはない。

 

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前もって、副作用発現の可能性を伝えておくこと

 

家族が前もって副作用の知識を持っていたら、

 

「ああ、これが先生が言っていた副作用だな?」

 

と気づいて、早めに対処してもらえる可能性が高くなる。

 

最悪なのは、副作用の可能性を伝えないだけではなく

 

「アリセプトを止めたら認知症が一気に進むので、必ず飲み続けなさい。」

 

という医師がいることである。

 

次回は、そのことについて書いてみる。