読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

鹿児島認知症ブログ

鹿児島でコウノメソッドや糖質制限を実践している脳神経外科医のブログ

20年来の開眼失行(開瞼失行)をグルタチオンで治療。

認知症以外の症例

 

開眼失行(開瞼失行)という病気(病態)がある。開瞼失行の読み方は「かいけんしっこう」である。

 

今回は、20年来の開眼失行がグルタチオン点滴で著明改善した例を報告する。

 

50代女性 開眼失行(開瞼失行)

 

初診時

 

20年前から始まった開眼失行。

 

当時ボトックスを使用したがしばらく閉眼不可となった。その後は神経内科や脳外科や眼科を転々とするも治療不可であった。その間の症状の進行はなかった。重症筋無力症は否定されていると。起床時が最も開けにくいとのこと。

 

最近、近医で少量ボトックス再開になったが特に大きな効果は実感出来ていない、とのこと。

 

肩こり+
代謝効率は悪そう

お子さん多く、一度フェリチンチェックはしてみよう。
眼瞼痙攣を伴わない開眼失行である。

 

少量シンメトレルやドパコール、グルタチオンなどはどうなのか?

 

採血結果と初回グルタチオン投与


白血球数:47×10^2/μl
AST(GOT):17IU/l
ALT(GPT):8IU/l
γ-GTP:26IU/l
総 蛋 白:6.8g/dl
尿素窒素:14.9mg/dl
フェリチン定量:112.5ng/ml

フェリチンは充分。AST>ALTの軽度乖離がある。代謝効率アップのためにビタミンB群サプリの摂取を勧めた。


シンメトレルより先にグルタチオンを、ということでご本人納得。
初回は1000mg。「少しいいような・・・」という感想。しばらく毎週打ってみましょう。

 

2回目のグルタチオン投与

 

点滴投与中から、明らかに開眼がスムーズになった。点滴前は自分の手で眼瞼を持ち上げていたが、普通に瞬き出来ている。本人かなり興奮気味。

点滴後の会計時に待合でたまたま知人に会ったが、知人も変化に驚いている。
「そんなに目がぱっちりするなら、あたしもして貰おうかしら!」と。因みに、知人に開眼失行はない。

 

グルタチオン1400mg、シチコリン125mg、アスコルビン酸1000mgで著効。

しばらく週に一回のペースで継続。

 

(引用終了)

 

開眼失行(開瞼失行)と、瞼を開ける仕組みについて

 

開眼(開瞼)失行

 

開眼(開瞼)失行とは、覚醒しているにもかかわらず命令に応じて随意的に開眼できない状態のこと。片眼ではなく両眼性。どれだけ開けようとしても開けられないのに、ふとした時に開いたりする。

 

開眼失行、開瞼失行

(※写真はイメージです)

 

患者さんは、手を使って瞼を持ち上げる。今回の方は、その動作があまりにもスムーズだったので、恥ずかしながら本人から言われるまで気づかなかった。

 

パーキンソン病や進行性核上性麻痺、右半球の大きな脳梗塞でみられることがあるようだ。(神経症状の診かた・考えかたp225)

 

瞼を開ける仕組み

 

ところで、眼瞼下垂という病気との区別は必要である。

 


flickr photo shared by otisarchives3 under a Creative Commons ( BY ) license

 

瞼を開ける筋肉は上眼瞼挙筋で、支配神経は動眼神経。

 

動眼神経が麻痺すると、眼球運動障害と眼瞼下垂が起きる。しかし、この方は眼球運動障害はなく片側性でもない。

 

また、額のしわ寄せは出来るので、前頭筋の麻痺もない。つまり、顔面神経麻痺はない。

 

グルタチオンを使ってみようと考えた根拠

 

開眼失行はパーキンソン病や進行性核上性麻痺でみられることが多い、とのことなので、

 

じゃあ、抗パ剤は検討の余地ありなのでは?

 

と、まずは反射的に考えた。

 

そして文献を検索してみると、アマンタジン(シンメトレル)で効果を認めたという症例報告を見つけた(開眼失行に眼瞼痙攣を合併し,塩酸アマンタジンが著効したパーキンソン病の1例:聖マリアンナ医科大学雑誌 Vol. 30, pp.201–204, 2002)。

 

ただし、この症例報告はパーキンソン病に合併した開眼失行に対してである。今回の方には、パーキンソン病の要素は全く認めない。

 

一方グルタチオンについても同じように、

 

開眼失行がパーキンソンやPSPに付随しやすいのであれば、それらの疾患に効果的なグルタチオンは開眼失行にも効くのでは?

 

と考えた。そして2回目のグルタチオン1400mgが著効した。隠し味にシチコリン125mgを入れているが、これはアセチルコリンを賦活することで筋肉への命令伝達がスムーズにいくように、という期待から。いわば、重症筋無力症に対するテンシロンテストのようなイメージ。

 

テンシロンテスト - Wikipedia

 

難病*1と言われると不可逆的な印象を持ちやすい。

 

しかし、実際にはダイナミックで可逆的な部分も多いと思われる。それは強力な抗酸化作用を持つグルタチオンが、点滴中(直後)から目に見えて効果を発揮することから類推できる。活性酸素の産生と消失、酸化還元反応は常に体内で起きているわけで、当然と言えば当然であるが。*2

 

残念ながら、複数回に渡ってグルタチオンの用量を調整しても全く効果を認めない方達がいるが、その原因としては

 

  • 神経変性が不可逆的に進行してしまったから
  • その時点でどちらにも転びうる(脳梗塞急性期でいうところのペナンブラ)神経細胞が存在しないから

 

このようなことを考えている。

 

神経難病にも、ペナンブラと呼ぶべき可逆領域があるのでは?

 

ペナンブラ - Wikipedia

 

脳梗塞のペナンブラ領域は、MRIでDWIとPWIを撮影すれば類推できる。ペナンブラを推定できれば、rescueし得る脳細胞が可視化される。

 

神経ペナンブラ

 

グルタチオンが効く人達は、まだ可逆的な神経変性領域を残している人達ではないだろうか?

 

仮にその可逆的な領域を「神経ペナンブラ」と呼ぶとすれば、これを可視化する技術が開発されたらより効果的にグルタチオンが使えるようになるのではないだろうか。 

 

*1:開眼失行が難病認定されているわけではないが、慢性的で治療方法がないという意味では難病的である

*2:今回のケースで惜しむらくは、治療効果持続時間が1日未満であること。ダイナミックな改善反応を固定化するような治療の発想が求められている。