鹿児島認知症ブログ

鹿児島でコウノメソッドや糖質制限を実践している脳神経外科医のブログ

テレビプチ出演(録画)から学んだこと。

 先日、ローカルのテレビ放送局から取材を受けた。

 

「明日の夕方のニュースで、若年性認知症の特集を組みます。つきましては、専門家のご意見をお聞きしたいので、明日の昼に取材に伺ってもいいですか?」

 

明日放送予定のニュース取材を明日させてくれという時点で、色々と気づくべきだった。

若年性認知症は増えているのか?

 

テレビ局が取り上げた元ネタはこのニュース。

 

日本で唯一の若年性認知症コールセンターが2015年の相談実績をまとめる | 認知症ねっと

 

この若年性認知症コールセンターの報告書(2015年度)のp10には、下のようなグラフが載っていた。

 

若年性認知症コールセンター相談数

患者本人からの相談が41.6%とある。

 

自分の経験では、自分の心配が出来て、かつ、自ら電話を掛けて相談出来る方が認知症であることは滅多にない。

 

このグラフでは、介護者よりも患者本人と名乗って電話してきた方が多い。しかしこれは上記の理由で、認知症診療を行っている立場からすると違和感を感じる結果である。

 

不思議なことに、p11にはこのような記載がある。

 

  相談者の内訳では、今回は、本人からの相談が 41.6%と最も多くなり、介護者からの37.9%を上回った。介護者以外の親族は 12.0%と昨年とほぼ同程度であった。専門職・行政からの相談も一定数みられたが多くはなかった。相談者の本人は、必ずしも診断された患者というわけではないが、何らかの症状があり、不安を感じる人からの相談が増えたと推測される。本人からの相談で、「認知症」あるいは「濃い疑い」であることが明らかになったのは52人であった

 

・・・・・。

 

グラフではN2240とあるので相談総数は2240人。患者本人の相談が41.4%ということは927人という計算である。しかし、本当に認知症の可能性がある本人は52人だったということは、2.3%である・・・。何故「患者本人41.6%」というグラフを作ったのだろうか?

 

意味が分からない。

 

厚生労働省のホームページを調べてみた

 

厚生労働省発表の資料で見つけることが出来たのは、2009年とちょっと古い報告。

 

(1) 18-64歳人口における人口10万人当たり若年性認知症者数は、47.6人(95%信頼区間45.5-49.7)であり、男性57.8人、女性36.7人と男性が多かった。
(2) 全国における若年性認知症者数は3.78万人(95%信頼区間3.61-3.94)と推計された。
(3) 30歳以降では、5歳刻みの人口階層において、認知症全体の有病率は1階層上がるごとにほぼ倍増する傾向があった。
(4) 基礎疾患としては、脳血管性認知症(39.8%)、アルツハイマー病(25.4%)、頭部外傷後遺症(7.7%)、前頭側頭葉変性症(3.7%)、アルコール性認知症(3.5%)、レビー小体型認知症(3.0%)の順であった。
(5) 推定発症年齢の平均は51.3±9.8歳(男性51.1±9.8歳、女性51.6±9.6歳)であった。

 

出典は以下。

 

厚生労働省:若年性認知症の実態等に関する調査結果の概要及び厚生労働省の若年性認知症対策について

 

18歳から64歳人口における10万人当たり若年性認知症数は47.6人とのこと。

 

アルツハイマー病やレビー小体型認知症などの変性疾患を足した割合は46.5%で、脳血管性、頭部外傷やアルコール性を足した割合が51%。

 

50台から脳卒中患者が増えてくるので、若年性認知症の中で最も多いのが脳血管性認知症という結果は頷ける。

 

近年、脳卒中患者数は減少傾向だが、

脳卒中患者数推移

(コチラより引用)

 

もし若年性認知症患者数が増えているのであれば、変性疾患の認知症が増えているということになりそうである。しかし、そういうデータは見つけられなかった。

 

最初から、「若年性認知症が増えている」というストーリーの元に作成された特集であった

 

インタビューはおよそ30分ほどで終了。その途中で何度も受けたのが、

 

「若年性認知症の患者さん、増えていますよね?」

 

という質問であった。

 

「若年性認知症の患者さんが増えているという実感はない。ただし、心配で相談に来る普通の人達は、どんどん増えている。これはテレビの影響が大きいだろう。」

 

そのように伝えたが、インタビューアーには解せないようであった。そして、そのシーンはテレビで使われることはなかった

 

そもそも番組構成が

 

「コールセンターへの問い合わせが過去最高になった。これは若年性認知症が増えている証拠だ!!」

 

といったストーリーの元に作られていて、自分のインタビューもその線に沿った内容で切り貼りされていたように思う。

 

自分が喋った内容は

 

  1. 若年で認知症の心配をする方は、確かに増えている
  2. 抗認知症薬の不適切投与がかなり目に付く
  3. 予防したいのであれば、糖質制限がおすすめ
  4. 自分が不安で、かつ家族にも変化を指摘されるのであれば、病院を受診してみてはどうだろう?

 

大体このような内容であったが、1~3は全部カット。4は使われていた。

 

自分が把握出来ていないだけで、世の中では若年性の変性性認知症が増えているのかもしれない。その可能性は否定しない。

 

しかし、今回のテレビ放送の中で具体的に患者数が増えているというデータの裏付けはなかった。

 

データの裏付けがないままに「若年性認知症は増えている」という報道を行うのはいわゆる「印象操作」のように思うし、また自分がそれに荷担したかのようで、どうも後味が悪かった。

 

印象操作が行われやすいテレビの構造

 

若年で認知症になった場合に必要な工夫や取るべき対策にしぼって放送した方が、よほど締まった内容になったと思う。

 

テレビの、特にdaily newsというジャンルでは放送前の内容チェックが困難である。更に、編集権は基本的にテレビ側が独占している。

 

メディアに出演を求められた時には、事前に先方の意図をちゃんと把握した上で、自分が協力できる内容なのかどうかを吟味すべきだということを学んだ。*1

 

 プロパガンダに無自覚に参加してしまうことだけは避けたい。

 

www.ninchi-shou.com

*1:そもそも、このやっつけ仕事に声を掛けられた時点で、自分の存在って・・・