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鹿児島認知症ブログ

鹿児島でコウノメソッドや糖質制限を実践している脳神経外科医のブログ

少年が抗うつ薬を飲む理由。

 

自分が学校に行きたいから?

それとも、母親が子供を学校に行かせたいから?

 

不登校

 

不登校気味で頭痛の訴えのある少年

 

初診時

 

ここ1年ほど頭痛が続いているとのことで受診。

 

天候左右性の頭痛。片頭痛成分も少しはありそう。色白でほっそり。体重は30kg台かな。炭水化物中心の食事。疎通は良好で、ちゃんと相手の目を見て大きな声で返事をする。

 

母親は疎通がやや困難、かつ高度肥満。発達障害の要素を認める。

 

頭痛には五苓散をお試しで。採血もしましょう。


1週間後

 

  • 血色素量(HB):13.5g/dl
  • MCV: 81.5fl
  • AST(GOT):20IU/l
  • ALT(GPT): 8IU/l
  • 中性脂肪(TG):111mg/dl
  • 尿素窒素: 7.2mg/dl
  • クレアチニン: 0.57mg/dl
  • フェリチン定量:20.5ng/ml

 

重度の鉄タンパク不足。フェルム開始。併せて糖質制限高タンパク食の指導。
朝は食パンにたっぷりのチョコレートを塗って食べている→止めましょう。清涼飲料水も止めましょう。


五苓散は効果ありと。しばらく定期内服に。


3週間後


母親曰く、「何かパワフルになってきた」とのこと。頭痛の頻度は目立った変化はないと。元々さほど深刻なものではないのかもしれない。週末になると頭痛が増える。週に二回は遅刻や早退がある。

 

お菓子や清涼飲料水は控えてタンパク質摂取を増やしていると。「頭痛を減らすことも大事ですが、それよりも頭痛があっても折り合いをつけていけるような体力作りの為の鉄タンパク補充ですよ。」と説明。


4週間後

 

お薬手帳で下記を確認。

 

  • ジェイゾロフト12.5mg 朝食後
  • モサプリド5mgx3 毎食後
  • スルピリド50mgx3 毎食後
  • エチゾラム0.25mgx1 朝食前

 

2週間前に初めて、精神科でジェイゾロフト12.5mgが処方された。不登校に対して??

 

飲み始めてすぐに嘔気を感じたようだが、それを伝えると、スルピリドやエチゾラムが追加になったとのこと。

 

「本当に抗うつ薬の内服が必要なのかを確認した方がいいですよ」とお母さんに伝えたが、うつろな表情であった。

 

(引用終了)

 

少年との会話

 

これまでお母さんは、〇〇クリニックで不登校の相談をしてきたらしい。そのクリニックのHPを確認したところ、柔和な笑みの医師のプロフィール写真があり、「何でもご相談下さい」と書いてあった。児童精神医療に長らく携わっている医師のようであった。

 

「この薬がどういう薬か、先生やお母さんから説明を聞いた?」

 

と少年に問うと、しっかりとこちらを見つめて

 

「いえ、詳しくは聞いていません。」

 

と、彼は答えた。その瞬間、お母さんは

 

「先生、子供の前でこのような話は・・・!」

 

と、慌てた様子をみせた。以下は、当方と少年の会話。

 

当方「これは抗うつ薬といって、落ち込んだ気分を高める効果が期待されるお薬だよ。その他には、ちょっとしたことでパニックを起こす場合にも処方されることがある。今まで特定の状況で、動悸がしたり息苦しくなったことはある?」

 

少年「いや、ないです。この薬を飲んだら気分が悪くなったんですけど、それを先生に言ったら『すぐにやめたらいけない。しばらく我慢して飲まないといけないよ』と言われ、別のお薬も追加になりました。」

 

 

お母さんは、こちらを凝視している。

 

当方「そうなんだね。ところで、学校に行けない理由は何かある?例えば、友達同士のトラブルとか、朝が起きられなくてキツイとか・・・?」

 

少年「いじめは前に少しあったんですけど・・・。でもそれが原因で行けないという訳ではなく、自分でもなんとかしなきゃって思ってはいるんですけど・・・。朝が弱いのはあります。」

 

当方「そうなんだね。自分のタイミングで行けるようになるといいね。今は鉄分とタンパク質をしっかり摂って、体力作りに努めるのが優先だよ。そうすると、気力もついてくると思う。あと、薬を飲むのは〇〇君なんだから、意思表示はしっかりすべきだと思うよ。〇〇君は薬を飲みたいの?」

 

 

少年はこちらを見つめて、ハッキリと言った。

 

少年「いいえ、飲みたくないです」

 

母親「でも、学校に行ってもらわないと私が困るんです!!

 

 

ここでお母さんが半ば叫ぶように、そう言った。

 

母親「いつも相談に乗ってくれていた精神科の先生が、『飲んだほうがいいよ』って言ってくれたんです。専門の先生が、そう言ったんだから・・・」

 

当方「思春期に入り、学校生活でこれまでよりもストレスが増えていると思います。ストレスを跳ね返す気力を発揮するには、体力が必要です。先日お母さんは、『パワフルになってきた』と言っていましたよね?タンパク質と鉄分の補給が、少しずつ効果を現してきたのだと思いますよ。」

 

当方「あと、この手の薬は一旦始めると、なかなか止めることが難しくなりますし、恐い副作用も起き得ます。そのような説明は受けましたか?」

 

母親「いいえ・・・ただ、『勝手に止めたら大変なことになる』とは言われました・・・」

 

当方「僕の意見ですが、息子さんに抗うつ薬は要らないと思います。うつの要素もパニック障害の要素も、また不登校の原因になりうる統合失調症の要素も感じられません。もう一度、処方した先生と相談してみませんか?その時には、お母さんと先生だけではなく、息子さんを中心に話をするようにしましょうよ。薬を飲むのは息子さんだし、自分で判断出来る力は持っていると思いますよ。」

 

母親「・・・」

 

当方「薬を出した先生に、ちゃんと自分の考えを言えるかな?」

 

少年「言えると思います。今までは、ちゃんと聞かれたことがなかったから・・・

 

 

そして、少年とお母さんは帰っていった。

 

抗うつ薬を内服すると、学校に行けるようになるのか?

 

児童精神医療とは無縁の自分である。門外漢があれこれと口を挟むのは憚られるが、ジェイゾロフトやドグマチール、エチゾラム(デパス)がどういう薬かは、自分も普段処方することがあるのでそれなりに把握しているつもりである。

 

児童精神医療のガイドラインを確認しようと「日本児童青年精神医学会」なる団体のHPを見てみたが、よく分からなかった。少なくとも、この手の薬を小児に積極推奨しているはずはないと思うのだが、どうなのだろうか?

 

ちなみに厚生労働省は、平成25年3月付けで以下の様な勧告を出している。

 

  小児等を対象とする臨床試験の結果、有効性が確認できなかったとの報告が製造販売業者からあったことから、医療関係者への注意喚起のため、添付文書を改訂することになりました。(厚生労働省HPより引用。赤文字強調は筆者によるもの。)

 

一方、日経メディカルによれば、学会関係者は以下の様に語っているとのこと。

 

  この改訂指示通知を受けて、日本うつ病学会と日本児童青年精神医学会は3月29日、「添付文書改訂により、薬物療法の可能性が否定されるものではないと考える」との見解を発表。日本うつ病学会理事長の神庭重信氏(九州大大学院精神病態医学教授)は、「専門医の間では以前から知られていた話。これまでも個々の医師が、自らの経験に基づいて処方していた」と説明する。

 危惧されるのは、今回の添付文書改訂の報を聞いた患者家族が、自己判断で服薬を中断してしまうこと。本薬が有効だった小児では服薬中止により症状悪化のリスクがあるし、これらの薬をある程度の期間、飲んでいた患児が服薬を急に中止すると、退薬症状(不安、焦燥、興奮、錯乱などの精神障害や、耳鳴り、電気ショックのような知覚障害)が出現する可能性がある。したがって服薬を中止するにしても、医師の指示の下で徐々に減量しなければならない。(日経メディカルより引用。赤文字強調が筆者によるもの)

 

自分も、薬物療法の可能性を否定するわけではない。しかし、抗うつ薬より先にやるべき事があれば、そちらを優先させたい。

 

これまで少年がどのような食生活を送ってきたかについては、彼の身長体重や顔色、それに母親の体型を見れば大凡の想像はつく*1。これは、採血で栄養状態を確認する云々以前の話。

 

精神的不調の原因を質的な栄養失調に求めない医師であれば、「不登校≒精神的な問題として投薬で是正する対象」となるのだろうか。

 

精神的不調をきたす器質的原因がないかを検索することは必要だと思うのだが、小児の不登校の原因となり得る起立性調節障害の可能性が検討された様子もなかった。

 

その他、薬の量も自分にとっては疑問に感じた。

 

SSRI(ジェイゾロフト)で吐き気を訴える患者に、継続を指示しつつ別の抗うつ薬(ドグマチール)を乗っける手法は、これまで多く目にしてきた。成人のうつ病に対する処方としては、恐らくありふれたやり方なのだろう。

 

成人にはそれである程度効果があるのかもしれないが、相手は「体重30kg台の小児」である。ドグマチール150mg/dayは、少年には多すぎる量のように感じた。

 

ジェイゾロフト12.5mg(抗うつ薬)で吐き気を覚える程度にセロトニンを賦活しつつ、それをモサプリド(胃薬)で抑えつつ、ドグマチール150mg(抗うつ薬・胃薬)で更にうつと胃にケアしながら、朝食前にデパスを0.25mg飲んだら、ちょうどいい時間にこの少年は登校したい気分になるかな?*2

 

精神科医の意図は想像するしかないが、少なくとも

 

  • SSRIによる自殺企図
  • ドグマチールによる高プロラクチン血症

 

これらのリスクについては全く説明はなされていなかった。少年に説明されていなかっただけではなく、お母さんにも説明されていなかった。これは筋が悪い。

 

治療のリスクを強調しすぎた結果、患者が恐れて治療を受けず、結果的に患者の不利益に繋がることは確かにある。

 

なので、治療のメリットがデメリットを圧倒的に上回ると思われる場合には、敢えてリスクは控えめに話すことはある。*3

 

では、小児への抗うつ薬投与はどうだろうか?メリットがデメリットを圧倒的に上回る治療なのだろうか?

 

前述した厚労省勧告を読む限りでは、メリットは少ないように思う。

 

お母さんがそのクリニックの医師を信頼していることは明白だったので、お母さんへの説明と説得は諦め*4、少年の"意思"に問いかけた。

 

抗うつ薬を飲む前に、彼にはもっとやるべき事がある。そのことに彼はもう、気づいていると思いたい。*5 

 

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*1:少年は低蛋白によると思われる顔色不良、低身長低体重。鉄不足で眼瞼結膜は蒼白。母親は炭水化物摂取過多によると思われる高度肥満。

*2:まだ自分が知らない世界(抗うつ薬で不登校が治る世界)があるのかもしれないが。

*3:この辺りの説明の機微については、救急及び脳卒中急性期治療でいやと言うほど学んだ。

*4:ここが、発達障害要素を持つ親(家族)への説明でいつも苦慮するところ。二人の医師の言い分を天秤にかけて自己判断するという所謂"マルチタスク"は、このお母さんにとって相当困難なことだと思う。当該精神科医もそこを察して、お母さんへの薬のリスク説明は行わなかったのかもしれないが、それは推奨されるべきことではない。

*5:もし次回受診時に抗うつ薬が継続されており、かつ副作用が顕著であれば、当方で薬剤を預かろうと考えている。そのことをお母さんが納得すればだが。もし副作用はなく、同時に彼の気分に改善があった場合には、抗うつ薬減薬のタイミングを常に窺う体制に入る。