鹿児島認知症ブログ

鹿児島でコウノメソッドや糖質制限を実践している脳神経外科医のブログ

NAC(N-アセチルシステイン)に危険性はあるのか?

 

ここ2回にわたってNACを取り上げてきたが、今回で一応最後。

 

メリットしかない処方薬やサプリメントなどあり得ない訳だが、では抗酸化作用が期待出来るサプリメントのNACについて、危険性はあるのか否かを調べてみた。

 

サプリメントを飲むかどうかは、最終的には自己判断

前回と前々回の記事は以下。

 

www.ninchi-shou.com

 

 

www.ninchi-shou.com

 

 

「NACは、がんの転移を促進させるのでは?」というニュース

 

 

www.afpbb.com

 

  マウスを使った実験は、抗酸化作用のあるN-アセチルシステイン(NAC)を注射したマウスの一部に、悪性黒色腫細胞の転移が、注射していないマウスに比べて2か月ほど早い個体が確認されたという。

 研究チームによると、抗酸化物質には、転移するがん細胞を抑制する働きのある体内分子を攻撃する作用があり、これが結果的にがん細胞の転移を助けていると考えられるという。

 今回の研究をめぐっては、まだ臨床研究の段階にはないが、研究チームは、がん患者は日々の栄養を抗酸化作用のあるサプリで補うべきではないとしている。(上記リンクより引用)

 

身体の恒常性(ホメオスタシス)は、酸化と抗酸化の微妙なバランスの上に成り立っている。過剰な抗酸化作用が人体にとって有害な方向に働く場合があることには頷ける。

 

このニュースのソースとなった論文を調べてみた。

 

insights.ovid.com

 

上記リンク先はAbstractのみだが、Full text全文を斜め読みしたところ、以下の様な記載を見つけた。

 

  To test if oxidative stress limits melanoma metastasis we subcutaneously transplanted efficiently metastasizing melanoma cells derived from three patients into NSG mice and treated the mice with daily subcutaneous injections of the anti-oxidant N-acetyl-cysteine (NAC; 200 mg/kg/day).In no case did NAC treatment significantly affect the growth of established subcutaneous tumours ( Figure 2a ) but it significantly increased the frequency of melanoma cells in the blood of mice transplanted with M405 and UT10 ( Figure 2b ) and significantly increased metastatic disease burden in mice with all three melanomas ( Figure 2c ).

 

以下、適当和訳。

 

”酸化ストレスがメラノーマ転移を制限するのかどうかをテストするために、3人の患者に由来する転移性メラノーマ細胞をNSGマウスに皮下移植し、抗酸化剤N-アセチルシステイン(NAC; 200mg / kg /日)を皮下投与した 。NACは皮下腫瘍の増殖には影響しなかったが、M405およびUT10を移植したマウスの血液中のメラノーマ細胞を有意に増加させた。また、3つのタイプ全てで転移を有意に増加させた。”

 

M405とかUT10というのは、メラノーマ患者から採取したガン細胞の呼称。

 

自分が注目したのは、200mg/kg/dayというNACの使用量。体重60kgの人間に換算すると、毎日12000mgのNACを投与したことになる。これは、NowのNACサプリ(600mg)換算だと、毎日20カプセルとなる。そして、今回の研究では、NACは「皮下投与」である。内服でも静脈注射でもない。

 

ちなみに200mg/kg/dayという量は、アセトアミノフェン中毒の治療の際に用いられる相当な高用量である。

 

投与日数はおよそ25日から50日のようなので、総投与量は30万〜60万mgとなる。

 

この論文から言えるのは、「すでにメラノーマを持っている人が、毎日およそ200mg/kgのNACを皮下投与し続けると、メラノーマが転移するリスクが上昇するかもしれない」ということである。

 

通常の抗酸化対策として使用する分には安全

 

グルタチオン点滴療法のサポート目的で1200mg〜2400mg/dayの用量で使用する方法では、NACの危険性はほぼないだろうというのが自分の結論。

 

ただし、抗酸化とガンの関係は相当奥が深い。いつも参考にしている福田先生のブログでは、以下の記事があった。このほかにも、同様の内容の記事は散見される。

 

blog.goo.ne.jp

 

上記リンクより一部抜粋する。

 

③酸化ストレスの増大は、がんの発生や再発を促進し、がん細胞の増殖や悪性進展を促進する。したがって、細胞の抗酸化力を高めることはがん細胞の発生やがん細胞の悪性化進展の抑制につながるので、「抗酸化物質の投与や抗酸化酵素の誘導によって抗酸化力を高めることは、がんの発生や再発の予防に役に立つ」と考えられている。

④しかし一方、がん細胞はこの抗酸化力を利用して治療に抵抗性になっていることが明らかになっている。放射線治療や抗がん剤治療は、酸化ストレス(酸化傷害)による細胞のダメージががん細胞を死滅させる作用として重要であり、がん細胞は正常細胞と同様に、酸化ストレスを軽減する仕組みを利用して、放射線や抗がん剤に対して抵抗性を獲得している。
特に、がん幹細胞が治療抵抗性なのは、グルタチオンなどの抗酸化物質の量が多いためと考えられている

⑤したがって、「放射線治療や抗がん剤治療を行うときには、がん細胞の抗酸化力を弱める方法を併用すると、抗腫瘍効果を高めることができる」ということになる。

 

 

「状況によっては、抗酸化剤が期待するところと逆の効果をもたらすことがあり得る」ということである。これはかなり納得できる。

 

今のところ、「ガンの標準療法中に、大量のNACを摂取することはデメリットになり得る」ということは言えそうだ。

 

閑話休題。

 

今回はNACを取り上げたが、危険性を考慮すべきなのは処方薬でも全く同じである。

 

www.ninchi-shou.com

 

「〇〇が効く!」という話も、「〇〇が危ない!」という話も、同等に世の中に溢れている。

 

「〇〇が勧めるなら大丈夫かな?」とか「〇〇がダメって言ってたから・・・」など、何らかの「権威」に頼りながら判断している人が多いと思われる。

 

その権威とは、例えばどこかの大学教授だったりテレビのコメンテーターだったりするかもしれない。または、仲の良い友人や近所のおばちゃんかもしれない。

 

それが悪いということは別にない。

 

ただ、そのことで『良きにしろ悪きにしろ、最終的には「自分」という主体が判断した』という事実は変わらない。近所のおばちゃんの意見を採用した自分という「主体」は、確実に存在する。

 

自己判断した自分という主体を常に意識することは、情報リテラシーを身につけることと同じぐらい重要なことだと思う。

 

 

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