鹿児島認知症ブログ

鹿児島でコウノメソッドや糖質制限を実践している脳神経外科医のブログ

多系統萎縮症(MSA-P)かな?グルタチオン点滴直後に改善を認めた症例。

 病歴や治療経過、症状の経過、画像所見。あちこちに散在するヒントをかき集めて考える。

70代男性 VPシャント術後 DLB合併?MSA合併?

 

初診時

 

(現病歴)

他院で特発性正常圧水頭症の診断を受け、VPシャントが施行された方。

 

退院直前に転倒して胸腰椎圧迫骨折。シャント効果は精神面で少しあった(易怒性改善?)ようだが、運動面での評価は困難だったと。

 

易怒性亢進と誰かに土地を取られたという妄想、明瞭な幻視、傾眠傾向などでセカンドオピニオンを求めてご家族が連れて来られた。

 

(診察所見)

HDS-R:20
遅延再生:5
立方体模写:不可
時計描画:微妙
クリクトン尺度:22
保続:なし
取り繕い:なし
病識:あり
迷子:なし
レビースコア:3
rigid:なし
幻視:あり
ピックスコア:-
頭部CT左右差:なし
介護保険:要介護3
胃切除:なし
歩行障害:あり
排尿障害: 頻尿
易怒性:あり

(診断)
ATD:
DLB:△
FTLD:
MCI:
その他:

 

シャントはVP。術後の症状改善が思わしくないことからDLBの可能性を指摘され、レミニールとメマリーが同日処方となった。


確かにDLBの要素はありそうだが、メマリーは・・・

 

1週間おきの増量規定通りに処方されているため、ご家族には5mgでしばらく留めておいた方が無難だろう、と説明。幻視対策として当院からは抑肝散5g2xを処方。遠方なので、かかりつけ(シャントを行った病院とは別)に処方依頼。

 

何かあったら、また相談にどうぞ。

 

初診から3ヶ月後に飛び込み来院

 

シャント手術を受けた病院医師に当院受診を伝えたところ、露骨に機嫌が悪くなったと・・・。「好きにしたらいいんじゃないの?」と。


現在はかかりつけ医(内科)の判断でメマリーは中止となり、レミニール16mgが残っている。

 

再度画像を見直したところ、MSAの可能性は?

本日は自由診療に切り替えて、グルタチオン点滴を行う。

 

(引用終了)

 

複数の医療機関が関わる場合、連携はなかなか困難


当院処方の抑肝散5g/dayで幻視は改善傾向だったようだが、かかりつけ医の判断で7.5g/dayに増やしたところ、ご家族的には今ひとつな感じとのことだった。

 

処方そのものをかかりつけ医に依頼していたので、これは致し方ないところ。「かかりつけの先生には、おかしいと思ったらすぐに相談するように」とご家族に話した。

 

遠方の方の場合、薬の細かい調整を頻繁に行うことは困難だし、また近くにすぐ相談できる病院を持っておくことは色々な意味で重要だと思うので、可能な限り連携を保ちながら診療に当たるように努めている。

 

この方の診断は?MSA?それともMSA+DLB?

 

改めてこの方の画像を見直してみた。

 

VPシャント後の頭部CT


complete DESHでこそなかったが、脳溝の局所拡大はあり、ひとまず水頭症の可能性は疑ってもいいかなという画像。

 

だが、水頭症のことよりも気になったのは下記画像。

 

MSAの頭部CT

 

海馬の萎縮よりも、小脳の萎縮に目が留まった。

 

初診時から「頻尿」の訴えはあったが、正常圧水頭症の術後でもあり(水頭症の症状で頻尿は重要)、また前立腺肥大が疑われて泌尿器科にも通っているとのことで、あまり注意していなかった。

 

しかし、シャント手術で改善しない歩行障害と頻尿となると、多系統萎縮症(MSA)の可能性を意識しないわけにはいかない。

 

そこで、自由診療に切り替えてグルタチオン1400mg、シチコリン250mg、ビタミンC1000mgを点滴。


その日は車椅子で来院されたのだが、点滴終了直後で歩行可能に。自宅では両手に杖でもフラフラしているとのことだったが、一本杖で足踏みしながら歩く姿に娘さんは驚いていた。自宅近くでコウノメソッド実践医がいないため、遠方ではあるが可能な限り点滴に来て頂くこととなった。

 

ところで、この方の診断はどのように考えたらいいのだろうか。

 

MSAの診断基準に認知症の文言はないが、HDSR20点という結果からは認知面を低下させる何らかの要素(加齢ということも含め)が加わっていると考えた方がよい。

 

海馬の萎縮は認めるが、遅延再生は5/6と高得点でATDの可能性は低い。明瞭な幻視と自律神経障害があるのでDLBの可能性は外せない。色々考えながら再度画像をみていると、次の画像に目が留まった。

 

MSA-Pの頭部CT

 

右の島皮質〜被殻に線状の低吸収域を認めた。通常このような所見をみつけた時には、「脳出血をしたことはありませんか?」と聞く。時間の経過した被殼出血後でよく認める所見だからである。

 

しかし、この方には脳出血の既往はなかった。無症候性の被殼出血をいつの間にか起こしていた可能性はあるが、もう一つの可能性として「被殻(線状体)の神経細胞が脱落して萎縮した結果、線状の低吸収域を示している」ということも考えられる。

 

そうなると、MSAでもパーキンソニズム主体のMSA-P(multiple system atrophy predominated in parkinsonism)の可能性を考える。

 

この方の持つパーキンソニズムや自律神経障害、歩行障害はこれで説明が付く。幻視に関してはパーキンソン要素(自律神経障害含め)を持つ様々な疾患で出現しうるものであろうから、自分が考えるこの方の病型診断は

 

「MSA-P、もしくはMSA-P+DLB」

 

となった。

 

こうなってくるともう何でもありかもしれないが、診断名の正確さを追求するよりは、

 

「そのように考えることで治療にどう繋げられるのか?」

 

というところに力点を置くようにしている。

 

ちなみに、iNPHが存在している(していた)のかどうかは、術前術後に関わっていないと判断しにくいので留保している*1

 

 

www.ninchi-shou.com

*1:iNPHの治療効果判定に、頭部画像における術前術後の変化は通常用いない