鹿児島認知症ブログ

鹿児島でコウノメソッドや糖質制限を実践している脳神経外科医のブログ

軽度認知機能障害(MCI)の概念と、その対応について。

 

高齢になれば認知機能が衰えてくるのは当然であるが、

 

 こんなはずじゃないのに・・・もっと出来るはずなのに・・・

 

と、考え悩んでしまう方達がいる。

 

これは、ある程度致し方ないことである。誰しも自分の老いは認めたくないものだから。逆に、

 

  年をとったらこんなものだ。自分はどこもおかしくない!

 

と言い張るようだと、それはそれで心配である。これが過度なら「病識がない」という認知症を疑う要因の一つに引っかかってしまうから。適度な精神のバランスとは、かほどに微妙なものである。

 

加齢に伴う不安に拍車を掛けるのが、昨今の認知症関連報道である。早期発見への呼びかけのつもりでも、それが過剰であれば徒に恐怖感を煽るだけになってしまいかねない。この辺りは実に紙一重である。

 

 

軽度認知機能障害(MCI)とは?

 

  最近物忘れが気になるけど、これは自然な加齢による衰えなのか?それとも、認知症の始まりではないだろうか?

 

物忘れ外来を受診する元気な方達は、ほぼ上記のような悩みを持って来院する。

 

加齢による衰えであることが殆どだが、中には線引きが難しい微妙なケースがある。いわゆる「軽度認知機能障害(MCI)」である。

 

1996年にPetersen等が定義したMCIの概念

 

  1. 主観的な物忘れの訴え
  2. 年齢と比較して記憶力が低下している
  3. 日常生活動作は正常
  4. 全般的な認知機能は正常
  5. 認知症は認めない

 

主に主観的な記憶障害に焦点を当てた定義と言える。

 

最近のMCIの概念

 

以下のようになっているようだ。

 

       

MCI診断のフローチャート

 

まず、これまで通りMCIと診断する。次に、記憶障害があればAmnestic MCI、無ければNon-Amnestic MCIとする。Amnesticとは「健忘」という意味である。

 

そこから更に、記憶障害のみなのか複数領域にわたる障害なのかで、合計4つのサブタイプに分けられる。Single DomainとMultipule Domainというのは、単一領域か複数領域か、という意味である。

 

ここで上げられる複数領域とは、記憶言語遂行機能視空間機能」の4点。

 

これまでは主に記憶障害が中心であったが、新たなMCIの定義では記憶以外の領域も重視されるようになった、ということである。

 

MCI due to ADという概念

 

上記図の表1にあるMCI due to Altzheimer's diseaseとは、

 

 アルツハイマーへ移行する可能性が高いMCI

 

ということらしい。

 

脳脊髄液を採取しタウ蛋白やアミロイドβを調べることで、診断の精度は高まる。しかし、一般臨床に普及するのは相当先のことである。

 

現時点での臨床的なMCIの定義は

 

  1. 認知機能レベルの低下を、本人や家族が感じている。また医師からも指摘される
  2. 記憶など、1つ以上の認知領域での障害があることを、客観的テストで指摘される
  3. 日常生活は自立している

 

このように考えておけばよい。Petersonの定義と若干異なるのは、家族や医師からの客観的な評価と、記憶以外の機能評価が加わったことだろう。

 

どこまで詳しく調べるべき?

 

例えば、患者さん全例の脳脊髄液や血液を採取してバイオマーカーを調べて治療を始めるなど、コスト面や安全面を考えると、現時点に限らず将来的にも非現実的ではないかと思う。

 

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アミロイドPETはそのうち普及していく可能性はあるが、倫理的な問題は未解決のように思う。また、コストはやはり無視できない。

 

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MCIは治療すべき?

 

「すぐにでも薬物療法を始めたい!」という方もいれば、「サプリメントを含めた非薬物療法でまずは経過をみたい」という方もいる。みなさんそれぞれである。

 

これから物忘れ外来を受診してみようと思っている方、もしくはそのご家族へのアドバイスとしては

 

  • 薬物療法以外の手段はあるのか?
  • あるなら、具体的にはどのような手段なのか?

 

これを医師に聞いてみることをお勧めしたい。

その医師が抗認知症薬による薬物療法以外の選択肢を持っていなければ、別の病院でも意見を聴いた方がよい。以下のような例もあるので(この例では、行く先々でアリセプト(ドネペジル)を勧められているのだがorz)。

 

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自分が行っているMCIへの対応は以下。オプションをちゃんと提示する、ということが大事だと考えている。

 

  • 遅延再生が2/6以下で、かつ希望があればアリセプト1mgやレミニール4mg、イクセロンパッチ2.25mgなどの試用を提案する。
  • 遅延再生が2/6以下で、抗認知症薬の希望が無ければフェルガード100Mの服用を提案する。
  • 遅延再生が3/6以上なら、抗認知症薬のお試しは勧めない。もし抗認知症薬の希望があれば、代わりにフェルガード100M服用を提案する。
  • 全例に糖質制限と運動の指導を行う
  • 「ひとまず何もしないで様子をみたい」ということであれば、それもまたOKである。
  • 全例3ヶ月後の再診を勧める

 

最近はココナッツオイルやビタミンB群の摂取などもお勧めしており、それぞれ効果を実感する方達が増えつつある。

 

MCIが、その後どのように経過していくかは個人差が大きいので確定的なことは言えないが、だからこそ重要なのは「フォローを続けること」だと思う。