鹿児島認知症ブログ

鹿児島でコウノメソッドや糖質制限を実践している脳神経外科医のブログ

Hunt症候群と診断してステロイドを処方した後に、糖尿病が発覚。

 ある30代女性のHunt症候群の治療で経験したことをシェアする。

30代女性 Hunt症候群

 

2日前から、左顔面の違和感と左上下肢の違和感を感じるようになったとのことで来院されたYSさん。

 

手足に左右差のある麻痺は認めなかったが、患者さんが同側の顔、手、足の症状を訴える場合、ひとまず脳梗塞の可能性を考える必要があるため頭部CTを施行した。

 

幸いにも、脳梗塞や脳出血は認めなかった。

 

微妙な額のしわ寄せの左右差と軽度の左口角下垂、左耳介には水疱などの所見から、Hunt症候群と診断し、

 

  • バルトレックス1000mgx3/day
  • プレドニゾロン10mgx3/day
  • メチコバール500㎍x3/day
  • ネキシウム10mg/day

 

を処方した。

 

1週間後、YSさんの左顔面麻痺はわずかに進行しており、更に初診時にはなかった舌のシビれや味覚異常を訴えた。

 

診断はHunt症候群でよいとは思ったものの、一度専門的に診て貰おうと考えて耳鼻科に紹介したのだが、紹介先の耳鼻科で聴力低下を認めたため更に大きな病院へと紹介となった。

 

その病院でも診断はHunt症候群で変更はなかったものの、YSさんが糖尿病を合併していたことが新たに分かった。

 

「HbA1cが10.3と高く、幸い顔面麻痺の程度は軽かったので、ひとまず耳鼻科的治療よりも糖尿病の治療を優先させるべく、糖尿病内科に紹介しました。」

 

という返書を後日頂いた。

 

ステロイドを使用する前に、採血を行うべきか?

 

その返書を読んで自分は、しばし考えこんだ。

 

30mg/day1週間のステロイド内服で、いきなりHbA1c10.3のステロイド糖尿病になることはないと思う。しかし、既に発症していたYSさんの糖尿病が、ステロイド内服によって悪化した可能性は十分にある。

 

  ステロイド糖尿病は、膠原病などでステロイドを長期に内服したことによって生じる続発性糖尿病である。ステロイド(糖質コルチコイド)作用の、肝臓の糖新生亢進作用、末梢組織のインスリン抵抗性の亢進、食欲増進作用が関わっているとされる。ステロイドを減量すれば軽快する。(Wikipediaより引用)

 

 

ステロイドの処方を行う前に、現在治療中の病気の有無や、過去に健康診断で何か引っかかったことはないかなどの確認は勿論行ったが、YSさんに引っかかりはなかった。

 

これまで自分の外来では、問診で糖尿病や治療中の胃潰瘍の有無を確認し、末梢性顔面神経麻痺と診断した時点で発症から1週間以上経過していなければ、ステロイド処方を行うようにしてきた。早めにステロイド内服が出来れば、麻痺からの回復も速い印象があるからだ。

 

今まではそれで問題なかったのだが、「無自覚未指摘未治療の糖尿病」のケースを経験してしまった以上、新たな工夫が必要になった。糖尿病の有無を確認するために出来ることとして、

 

  1. 採血を行い、外来迅速で検体を提出して結果が返ってくるまで、2時間近く待って貰う。
  2. 採血を行い、翌日に結果を聞きに来てもらう。
  3. 食事の時間を確認し、その場で簡易測定器で血糖値を測定する。

 

1は確実だが、待ち時間が問題。2だと、一晩待っている間に麻痺が進行する可能性がある。

 

現実的には3かなと思うのだが、さてさてどうしたものか。

 


Measure Me Blood flickr photo by cogdogblog shared under a Creative Commons (BY) license

 

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