鹿児島認知症ブログ

鹿児島でコウノメソッドや糖質制限を実践している脳神経外科医のブログ

【症例報告】待ってくれている人がいるから。

 

MTさんの奥さんは、突如出現した夫の猛烈な嫉妬妄想と幻視に苛まれていた。

 

自分のクリニック以外の所であれこれとコトが動いていたので、正直あまり深く関わったわけではない。ただし、数回の介入がその都度奥さんを少しずつ救ったという点では、効率的介入だったとは言えるかもしれない。

 

先日の診察を終えた後、当院スタッフがぽつりと

 

「週に何人か、MTさんみたいな人が来てくれるから私たち頑張れますよね」と言っていたのが印象的だった。

 

上手くいくケースばかりではないが、心が折れそうな家族を前に、こちらが心を折っている暇はない。「認知症と戦う必要はない」という、一種の"諦めの強要"に繋がりかねない言葉を吐いている暇もない。

 

医療介護関係者から諦めを強要され、「どうせ治らないですもんね・・・」と心が折れた家族を少なからず見てきた。

 

介護が終わる日はいずれ来るが、家族の人生はその後も続く。家族のその後の人生のことまで考えると、やはり我々は諦めを強要することなく、何某かの工夫を提案し続けなくてはと思う。

 

70代前半男性 DLB+iNPH

 

初診時

 

奥さんと二人暮らし。

(既往歴)
高血圧 大腿骨骨折 リウマチ性多発筋痛症
(現病歴)

 

飛び込み受診。奥さんは切羽詰まった感じ。

 

4ヶ月前から体幹傾斜、すり足、傾眠など認めるようになった。NPH疑いで〇〇病院を紹介され、タップテスト陽性とのことで10日後にLPシャント手術の予定が組まれている。

 

2ヶ月前に大腿骨骨折で〇〇整形外科に2ヶ月入院した。先日退院してきたのだが、退院後から妻の浮気を疑う言動が出現。ここ2日は幻視も出現しており昨晩は夫婦ともに一睡もしていないと。

 

娘さんから当院受診を勧められ来院。

 

(診察所見)
HDS-R:16
遅延再生:3
立方体模写:OK
時計描画テスト:OK
IADL:1
改訂クリクトン尺度:23
Zarit:16
GDS:9
保続:なし
取り繕い:なし
病識:?
迷子:なし
DLB中核症状:2/4
rigid:左上肢に軽度
幻視:あり 男がいると部屋を探し回る
FTD中核症状:2/6
語義失語:なし
頭部CT所見:DESH+++ 左基底核に虚血痕
介護保険:要介護1
胃切除:なし
歩行障害:すり足小刻み
排尿障害:頻尿
易怒性:なし
過度の傾眠:なし

 

(診断)
ATD:
DLB:〇
FTLD:
その他:

(考察)

 

レビー感のある、やや不気味な笑い方。DLB+iNPHかな。

 

まずは睡眠対策として抑肝散とリスミー1mg。週明けに奥さんに様子確認を。

 

薬の効果を確認して、シャント手術が行われる〇〇病院に情報提供を。短期決戦。

 

DLB+iNPH



 

 

2日後

 

(奥様へTELし様子を伺う)


一昨日の夜はリスミーを内服し朝まで熟睡していたが、昨晩はまた一睡もせずに「男が来ている」と部屋を探し回っていた。


2~3日様子をみて、不眠や妄想が続くときには受診に来ていただくよう伝える。(看護師〇〇記載)

 

4日後

 

抑肝散で落ち着きは出た。しかし、幻視、人が居る感覚は依然として続いている。
リスミー1mgは切れ味良く効いている感じはない。

 

リスミーをニトラゼパム5mgに変更し、セレネース0.375mg追加。抑肝散は継続。これで、シャント手術に臨めれば。

 

2週間後

 

LPシャント手術を無事に終え、先日退院となった。

 

歩行はかなり改善したが、「二階に男がいる、娘が襲われる、妻が浮気をしている」という妄想が再燃しているようだ。

 

LPシャントの入院中は、当院処方のセレネースは切られていた。セレネース内服中は妄想は大分落ち着いて夜も眠れていたようなので、再開とする。

 

しばらくは2週間処方かな。クエチアピンも検討しよう。落ち着いたらPMRのフォローアップを〇〇クリニックに依頼する。以前当方が書いた紹介状は、既に奥さんに渡してある。

 

2週間後

 

(奥様よりTEL)

予約キャンセル。昨日、高熱で〇〇病院へ救急搬送。肺炎の診断でそのまま入院となった。昼夜逆転で、夜中に薄着で家の中をずっとウロチョロ。男が隠れているからと言いながら探し回る毎日。2時間程度しか寝てくれない。今週寒かったせいか風邪気味であった。奥様も風邪気味で疲労が酷い。退院後に受診しますとの事 (受付〇〇記載)

 

5ヶ月後

 

久しぶりの来院。初診時より10kg以上痩せた。これは肺炎後だからかな。肥満気味だったので、ちょうどいいだろう。

 

肺炎で〇〇病院入院後、老健入所を経て当院かかりつけ医を希望され帰ってこられた。
足取りは颯爽とし、当方のことも良く覚えていた。「シャントは坐位で髄液が良く流れるんでしょ?」など、記憶力抜群。ただし、病識はなし。

 

処方内容が大分変わっていたが、PMRに対するステロイドは減り、イクセロンパッチが18mg処方されていた。

 

自分で「怒りっぽくなったかも」と言う。パッチを13.5mgへ減量し、久しぶりに抑肝散を朝夕で再開。高血圧であから顔なので、易怒性には黄連解毒湯もいいかも。抑肝散への反応をみて決めよう。

 

毎日昼過ぎから妻への攻撃性が3時間ほど高まるが、朝はおとなしいと。黄連解毒湯は昼に使ってもいいかもしれない。デイの再開を検討中とのことだが、さてさて。

 

次回は採血結果説明。

 

1ヶ月後(初診から7ヶ月後)

 

過活動だったのがやや落ち着き、かつ意欲は十分に残している。
以前はあれほど嫌がっていたデイサービスに自発的に行くようになった。「待ってくれている人がいるから」と。他者への気遣いが出てきたということか。

 

奥さんの姿が少しでも見えないと怒っていたのが、今は奥さん一人で外出できるようになった。

 

「嘘みたいに変わったのでビックリしています。いつまで続くかは分からないけれど、嬉しいです」

 

と奥さんは笑みを浮かべながら言う。今は何も困っていないと。

 

パッチ減量、抑肝散開始が効を奏したのだろう。今少し過活動を抑えたいときには、パッチを1/4カットしてみることと、その方法をお伝えし、ひとまず現状維持とした。採血結果は問題なし。

 

(最終処方)

  • イクセロンパッチ13.5mg
  • 抑肝散2P2X
  • マグミット500 2T2X
  • アムロジピン5mg 1T1X
  • プレドニゾロン5mg 1T1X
  • ランソプラゾールOD15mg 1T1X

 

(引用終了)

 

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