鹿児島認知症ブログ

鹿児島でコウノメソッドや糖質制限を実践している脳神経外科医のブログ

(私的)改訂クリクトン尺度の使い方。

 

93歳女性、幻視の訴え

93歳女性 幻視の訴え

 

初診時

 

(現病歴)

 

幻覚が見えているようだと、家族に伴われ来院。
元気で良く笑う。家族との関係性も良さそう。内服中の薬は何もない。

 

(診察所見)

 

HDS-R:16
遅延再生:1
立方体模写:不可
時計描画:不可
クリクトン尺度:5
保続:なし
取り繕い:なし
病識:あり?おかしなものが見えているという自覚あり
迷子:なし
レビースコア:2
rigid:なし
幻視:あり
ピックスコア:-
頭部CT左右差:なし
介護保険:要支援2
胃切除:なし
歩行障害:円背
排尿障害:なし
易怒性:なし

 

 

(診断)
ATD:
DLB:
FTLD:
MCI:
その他:

 

明瞭な幻視があるが、それ以外ではレビー小体型認知症の要素は感じられない。そして幻視で困っているわけではない

 

家族からは内服のご希望があったので、抑肝散を2.5g眠前に試す。本人は「じゃあ飲んでみるよー」と。

 

1ヶ月後

 

「もう大丈夫よ〜」

 

幻視は明らかに減ったと本人談。

家族からみても「おかしなことを言わなくなった」と。

 

遠方なので地元に処方をバトンタッチ。

良かったですね

 

(引用終了)

 

抑肝散の用量用法を工夫

 

抑肝散の添付文書内容は以下(ツムラ)。

 

  通常、成人1日7.5gを2~3回に分割し、食前又は食間に経口投与 する。なお、年齢、体重、症状により適宜増減する。

 

高齢者に対して添付文書通りに7.5g/dayの処方を行っていると、それなりの頻度で低カリウム血症を来すし、食欲が低下する方もいるので注意が必要。

 

www.ninchi-shou.com

 

抑制系として使われる頻度が高い抑肝散だが、「どの時間帯で」落ち着いて欲しいかによって、用法用量を調整した方がよい。

 

今回の方に自分が処方したのは、夕食前に抑肝散2.5gだけ。その意図は以下の2点。

 

  • 夕方から夜にかけての幻視が多いので
  • 抑制系の抑肝散内服で、夜ぐっすり眠れるかも

 

ただ、ご家族の希望が無ければ、恐らく処方はしなかったと思う。その理由は、以下の2点。

 

  • 本人が幻視で困っているわけではない
  • クリクトン尺度が5点と低い

 

改訂クリクトン尺度を参考に、過剰な介入にならないように気をつけている

 

物忘れ外来初診時には、必ずご家族に改訂クリクトン尺度を記入して貰う。

 

これは、介護者が評価する患者の日常生活や社会活動の障害度を評価するためのツール(指標)である。総合点数が高いほど、問題が多いと判断出来る。この方のご家族に記入して頂いたのが以下。

 

改訂クリクトン尺度

 

この尺度をどのように使うかは自由。リバスチグミンの治験では、薬の効果判定に用いられたようだ。

 

自分の場合は

 

  • 初診時に家族が感じている介護負担の度合い
  • 治療介入した場合の改善度合い
  • 治療介入に緊急性があるかどうか

 

を判断するための参考にしている。ただし、カットオフの点数はない(探したけど見当たらなかった)ので、自分で基準を設けている。

 

全部で7項目あるのだが、独居の方では①、②、⑤、⑥を、そして介護者がいる方では③、④、⑤を重視している。

 

ケースバイケースではあるが、大体の目安として

 

  • 10点未満では、緊急性は低い
  • 10~20点では、希望に応じた対応を
  • 21〜30点では、緊急性は中等度
  • 31点以上は、緊急性は高度

 

このように捉えて、介入の濃淡を調整している。

 

この方はクリクトン尺度の合計が5点で、③〜⑤の合計に至っては0点、つまりご家族が感じる介護負担が殆どないと判断している。

 

従って、投薬の緊急性も低い。それでもご家族が何らかの薬を希望する場合には、投与量控えめのマイルドな処方に留めている。効いてくれたら儲けもの、ぐらいの感覚。

 

緊急性が低い以上、副作用を覚悟してまで攻めの処方を行う意義は低いと考えるので。

 

ちなみに、もしこの方の初診時におけるクリクトン尺度が30点以上であったらどうしたか?

 

恐らくセレネースを0.2mg/dayで開始していたと思う。

 

幻視対策として、抑肝散とセレネースのどちらを使うか迷った際には、クリクトン尺度の点数を参考にしては如何だろうか。