鹿児島認知症ブログ

鹿児島でコウノメソッドや糖質制限を実践している脳神経外科医のブログ

一発勝負の改善例。

一発勝負の外来というのは、何度経験しても緊張する。

 

今回は、奥さんと娘さんに付き添われて飛行機で〇〇県から来院されたYKさんをご紹介する。

 

70代男性 脳血管性の抑うつ状態

 

初診時

 

(既往歴)
慢性硬膜下血腫で手術歴あり
(現病歴)

40代の頃に、仕事のストレスからうつ病を患うも、完全寛解。

 

3ヶ月前から気力体力が低下して1ヶ月入院。その少し前ぐらいから精神科で抗うつ薬の処方を受けていた。レクサプロ20mg+エビリファイ3mgで改善なく、今はリフレックス15mgにセルトラリン25mg、ルネスタ2mgという処方。その他、内科で降圧薬と硝酸剤が処方されている。

 

入院時に「 脳血管性認知症」と言われたことが引っかかり、ネットで調べて当院受診に繋がった。

 

(診察所見)
HDS-R:25
遅延再生:3
立方体模写:可
時計描画テスト:可
IADL:1
改訂クリクトン尺度:24
Zarit:6
GDS:15/15
保続:なし
取り繕い:なし
病識:あり
迷子:なし
DLB中核症状:1/4
rigid:なし
幻視:なし RBDあり? 寝言で大声
FTD中核症状:4/6
語義失語:なし
頭部CT所見:ごく僅かに左萎縮? ビンスワンガー変化+
介護保険:申請中
胃切除:なし
歩行障害:なし
排尿障害:頻尿 前立腺疾患あり 便秘あり
易怒性:あり?
過度の傾眠:なし

(診断)
ATD:
DLB:
FTLD:
その他:

(考察)

 

FTD中核症状4つが該当した。ごく僅かな萎縮左右差と併せてピックの可能性は忘れずに。ただし、表情が明らかに抑うつ的かつGDS15、そしてビンスワンガー変化や比較的急な経過から、今回の悪化要素は血管成分中心で考える

 

プレタール50mg+サアミオン朝昼、夕に抑肝散で対策開始。プロルベイン4C2Xも推奨。


1週間後に電話確認を。易怒が亢進していたらFTDの可能性を再検討する。

 

かかりつけ医に情報提供書作成。

 

貴院かかりつけの〇〇様ですが、物忘れのご相談で当院を受診されました。

 

長谷川式簡易痴呆スケールは25/30で遅延再生は3/6。透視立方体模写と時計描画テストは何れも正確に描画可能で、視空間認知は保たれていました。診察中に目立った取り繕いや保続は認めず、アルツハイマー型認知症は否定的と考えました。

 

明らかなパーキンソニズムは認めませんでしたが、レム睡眠行動異常や動作の鈍さからは、レビー小体型認知症の可能性はひとまず留保。頭部CTでは海馬萎縮は認めず、しかし、基底核から放線冠にかけて陳旧性の虚血痕が散在し、いわゆるビンスワンガー変化を呈しておりました。

 

現在の〇〇様からは、脳血管性うつの要素が強く感じられました。うつのスケールであるGDSでは15/15と強い抑うつを認めております。通院中の精神科では様々に抗うつ薬の工夫をしているようですが、改善はないとのことです。

 

お願いなのですが、貴院処方にプレタール(脳梗塞予防+脳血流増加)とサアミオン(脳血流増加による抑うつ症状改善)、そして抑肝散をお加え頂けませんでしょうか?

 

プレタールは50mgで開始していますので、頭痛や動機が許容範囲内であれば50mgx2→100mgx2と増量維持として頂けましたら幸甚です。

 

お忙しい中恐れ入りますが、ご検討頂けますよう宜しくお願いいたします。

 

 

10日後

 

娘さんへ連絡し様子を伺う。


会話が増えて、明るくなった印象。夜間も良眠できている。お客さんが来た際に、自分から座布団を用意したりする動作に家族も驚いたと。


プレタールによる副作用(頭痛や動悸等)なし。(Ns〇〇記載)

 

(引用終了)

 

処方の根拠について

 

初診時の画像を以下に示す。

 

CTにおける微妙な左右差

過剰評価に気をつけながら・・・

 

  • 物事に関心を示さなくなった
  • 相手に共感したり、感情移入したりすることがなくなった
  • 同じ動作を繰り返し続けるなど、周囲に理解しがたい行動に異常に拘る
  • 物事を最後までやり遂げられない

 

といった問診表から拾い上げた症状と、上記画像における萎縮のわずかな左右差から、「ひょっとしたらピック(前頭側頭型認知症)の可能性は?」と考えたくはなる。

 

定期通院可能な方であれば、ピックの可能性を念頭に置きつつ経過を見ていけば良い。しかし、今回の方は一発勝負である。

 

その後のフォローが出来ないのに不確定な情報を渡すのは無責任なことの様に思えるので、一発勝負の際には「ひょっとしたら・・・」程度のことは敢えて伝えないか、少なくとも強調しすぎないように気をつけている。

 

伝えるべき情報を選択するために必要なのは、「ご家族の希望」を聞くことである。

 

ご家族の希望に応じて情報を伝えるために、当院では問診票に以下の様な項目を設けている。

認知症診療で重要な家族希望

家族希望を問診票に盛り込む


チェックが付いた項目に沿って行った説明は、以下の通り。

 

  • 「認知症なら、病名を教えて欲しい」→変性性認知症の可能性は低く、脳梗塞由来の脳血管性うつの可能性が最も高いと考えます。脳血管性認知症と呼べるのかどうかは、もっと後になっての判断になると思います。
  • 「活気が出て欲しい」→サアミオンで活気の底上げを図りましょう。同時にプレタールで脳梗塞予防と脳血流増加を図っていきましょう。サプリメントのプロルベインも、脳血管性うつの改善に一役買ってくれるかもしれません。                                          
  • 「歩行が良くなって欲しい」→目立った麻痺などなく、今のところ歩行に大きな問題はないようですが、意欲や活気がないせいでフラフラ歩くように見えることがあるのかもしれません。サアミオンやプレタールなどが上手く効いてくれたら、歩行のことは恐らく気にならなくなるのではないでしょうか。

 

その結果、

 

『会話が増えて、明るくなった印象。夜間も良眠できている。お客さんが来た際に、自分から座布団を用意したりする。』

 

このような改善を得ることが出来た。

 

ということは、わずかに感じられたピック的要素は、少なくとも今は問題にはなっていなかった、ということである。*1

 

家族希望を確認せずに「その時感じた」診断名に引っ張られすぎてしまうと、例えば「ピック≒クロルプロマジン処方」という短絡が起きてしまうかもしれない。

 

「穏やかになって欲しい」や「夜しっかり寝て欲しい」という項目にチェックが入っていなければ、少なくともその時点では、陽性症状を抑えるための抗精神病薬や眠剤の必要性は低いとみなしている。

 

家族希望は、伝えるべき情報を取捨選択するためだけではなく、処方の精度を高めるためにも必ず確認しておいた方がよい。

 

今後、かかりつけ医と精神科医が連携してくれるかどうか

 

こちらからは情報提供書も送ったし、家族からも「良くなっている」と聞くであろうから、今後恐らくかかりつけ医では今回の当院処方を継続してくれることと思う。

 

なぜ精神科医ではなく、内科のかかりつけ医に情報提供書を送ったのかというと、サアミオンやプレタールは精神系薬剤ではなく循環作動薬だからである(ただし、上手く使えれば精神症状改善に役立つことは多々ある)。

 

あとは、かかりつけ医や家族と連携しながら、精神科医が減薬に取り組んでくれるかどうかである。

 

レクサプロ20mg+エビリファイ3mgや、セルトラリン25mg+リフレックス15mgといった処方に全く反応のなかった方が、サアミオン+プレタール+プロルベインに反応したという事実を精神科医がどう捉えるか。

 

「そんなはずはない」と考えたら処方は変わらないだろうが、「見立てが違ったんだな」と考えてくれたら減薬に踏み切るだろう。

 

自分が経過を見届けることは出来ないが、うまくいってくれることを願っている。

 

感謝の手紙

家族からの感謝の手紙

(ブログFBページに寄せられたご家族からのメッセージ)

 

www.ninchi-shou.com

 

*1:ピック的要素が、サアミオンやプレタールなどで改善することはないだろう。