鹿児島認知症ブログ

鹿児島でコウノメソッドや糖質制限を実践している脳神経外科医のブログ

【書評】『認知症 症例から学治療戦略ーBPSDへの対応を中心にー』

書評という名の自分語り。

 

木村武実先生*1の御著書、『認知症 症例から学治療戦略ーBPSDへの対応を中心にー』の改訂版が出版された。初版は2012年8月なので、約5年ぶりの改訂である。

 

初版から微修正された今回の改訂版)を読みながら、懐かしい気持ちに浸った。

 

認知症診療に悪戦苦闘していた頃に助けられた初版本

 

この本の初版が出た2012年は、とある病院の脳神経外科部長として手術を中心とした脳卒中診療のまっただ中にいた頃だった。

 

そして、外来では多くの認知症患者さんを診るようになっていたのだが、自分のあまりの引き出しの少なさ故に、日々悪戦苦闘していた。

 

その頃に出会ったのが、木村先生の本(初版)である。

 

認知症 症例から学ぶ治療戦略 BPSDを中心に

 

第Ⅰ章の【認知症総論】で、アルツハイマー病、 脳血管性認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭葉変性症という認知症の4大病型が分かりやすく概説されていた。これは、中核症状と周辺症状すら上手く整理できていなかった当時の自分にとって、かなり役立った記憶がある。

 

第Ⅱ章の【BPSDの実態】では、薬剤性BPSD、そして社会性(周囲の不適切な対応による)BPSDが、豊富な実例を挙げながら詳細に説明されていた。

 

この章を読むことで、その後の自分の認知症診療方針が大まかに決まったように思う。即ち、

 

  1. 余計な薬が入っていないか、まずチェックする
  2. 周囲から適切な対応を受けているか、チェックする

 

この2点。当ブログを読んで頂いている方達には、自分がこの2点を重要視していることはお分かり頂けると思うが、それは木村先生の影響である。

 

第Ⅲ章の【BPSDの治療】では、やはり豊富な実例に基づいて処方の実際が説明されていく。

 

この中で紹介されていたフェルラ酸・ガーデンアンゼリカ抽出物(フェルガード)に目が止まり、「認知症に効くサプリメントがあるのか?」とびっくりしてインターネットで検索したところ、コウノメソッドに辿り着いた*2

 

第Ⅳ章の【BPSDの治療連携】では、連携の重要性について述べられている。

 

介護職の方達に、ぜひ手にとって欲しい本

 

BPSDとはBehavioral and Psychological Symptoms of Dementiaの略称。日本語では「認知症の周辺症状」と訳される。

 

認知症の現場では、

 

  • 周囲(家族、医療介護職)が困る行動≒BPSD
  • 薬の副作用によるBPSD≒認知症の進行に伴うBPSD

 

という短絡がよくみられる。この短絡が起きると、「薬で治療しなきゃ!」となり、更に状況が悪化、複雑化していく。

 

 

www.ninchi-shou.com

 

 

この短絡を防ぐための戦略を、木村先生は以下の様に提唱しておられる。強調や赤文字は筆者によるもの。

 

BPSDに対しては、その原因の1番に挙げられている薬剤、そして身体合併症などの生物学的(Biological)なところをまずは精査し、次に患者さんの心理社会的な側面を十分に把握したうえでケアを行い(Psycho-Social)、それでもコントロールが困難な場合は、薬剤を含めた生物学的な介入が必要になってきます(Drug)。(p113より引用)

BPSDの治療戦略はBio-Psycho-Socio-Drug

 

「BPSDの治療戦略はBPSD」。とても分かりやすい。

 

通して読んで改めて感じたのは、木村先生の誠実なお人柄である。このことは、先生と会われたことのある方や先生の患者さん達は、皆感じていることだと思う。

 

認知症を中核症状中心に捉えようとすると、抗認知症薬の定型処方や規定増量となりがちである。

 

「まずは周辺症状(BPSD)に注目しケアを。その後に中核症状へ配慮する。」

 

認知症を理解し共に生きていくには、この順番は重要だと思う。

 

そういう意味でこの本は、これから認知症に関わっていく医療介護関係者に、まず手にとって欲しいお勧めの一冊と言える。勿論、知識や経験を整理したい方にもお勧めである。

 

認知症 症例から学ぶ治療戦略ーBPSDへの対応を中心に
木村 武実
フジメディカル出版 (2017-04-17)
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*1:独立行政法人国立病院機構菊池病院院長

*2:木村先生の本→コウノメソッド→認知症外来開設→開業という流れ。出会いとは不思議なもの。